やらせても選手は伸びない
1ヵ月間チーム練習を。ボイコット
個を伸ばすために、最も大事なのが〝やらせない〟ということです。どんなに最先端のトレーニングをやったとしても、選手たちが本気でなければ伸びることはありません。では、どうすれば本気になるのか。
答えは簡単です。本気になるまで待てばいい。一つの例を出しましょう。1997年から2004年まで、私は桐蔭横浜大学サッカー部で監督をしていました。サッカー部といっても、同好会から部活動になったばかりのチームで、選手のモチベーションは低く、練習にも人数が集まらないようなひどい状況でした。サッカー部になって1年目の公式戦での〝最高成績〟は2-8。それ以外は10点差をつけられるような状況でした。
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このチームは本気にならなければ絶対に勝てない――そう思った私は、あることを行いました。徹底的な走り込みでも、反復練習でもありません。私がやったのは「練習をやらない」ということでした。
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サッカー部の新しいシーズンが始まっても、私はグラウンドに顔を出しませんでした。監督が練習に来ないので、何人かの選手やコーチたちが「なぜ、練習をしてくれないんですか」と聞いてきます。でも、私は「君たちの顔なんて見たくないんだ」と突き放していました。
特にコーチは[まだまだの選手ばかりだから、毎日練習しなければいけないのでは]と心配します。でも、私は本気になっていない状態で練習をやっても、なんの意味もないと思っていました。
監督がいて、コーチがいると、選手たちは練習をしてもらって当たり前だと思っています。自分たちが〝やらされている〟と思っているから、本気でうまくなろうとしていない。
ダントツの最下位から1部昇格
それから1ヵ月が経って、選手たちが監督室に來て[練習をしてください]と頼んできました。本気でサッカーがうまくなりたい、教えてほしいと心から思っていることは、表情を見ればわかりました。そこで、ようやく「わかった」とチーム練習を始めたのです。
―カ月ぶりにグラウンドに戻ってみると、覇気が感じられなかったチームは、まるで別のチームのように雰囲気は変わっていました。毎日2部練習をするようになっても、文句を言う選手はいません。自分がやりたいと本気で取り組むので、一人ひとりもどんどんうまくなっていきました。
そして、神奈川県リーグ2部でダントツの最下位だった弱小チームは、次の年は2部リーグを全勝で勝ち上がり、1部昇格を果たしました。
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どんなに監督やコーチに情熱があったとしても、プレーするのは監督やコーチではなく選手です。こちらからやらせるのではなく、本気でやりたいと思わせる。この考え方は、大学生であろうと、プ囗であろうと変わりません。
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もちろん、このように時間がかかることもあります。だけど、ここで一番大切なのは、選手が本気になるために指導者が考えること。本気にすることができれば、そこから先は何も言わなくてもどんどんやってくれます。こちらが働きかけてモチベーションを上げさせるのではなく、選手たちが自発的にモチベーションを上げてくれるということが重要なのです。
超「個」の教科書 風間八宏