えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

二人の距離・繋ぐ

2018-01-13 20:02:21 | 書き物




二人の距離、ラストです。
すごく長いです…
因みにはっきり書かなかったけども、二人のプロフィール。

大沢元(はじめ)、31歳

松丘美幸、27歳







山の上の公園の、イルミネーション初日。
朝からよく晴れて、冷え込んでいた。
夕方、彼との待ち合わせは、最寄り駅の公園側出口、改札横。
待っていると、次々と人が出て来る。
待ち人と会えた人、待ちわびる人…さまざまな人がいた。
待ちわびた彼を見つけて、ばあっと顔が上気する女の子。
私も、彼が来たらあんな顔をするのかな。
彼と二人で歩いたら、彼氏と彼女に見えるのかな。



待ち合わせの時間が迫ってしまって、急いで駅の階段を降りた。
彼女との待ち合わせは、駅の改札横。
駅の階段は、イルミネーションを見るために電車を降りた人で、混み合っていた。
急いで走りたくても、走れない。
改札を出てパッと右側を見ると、改札を見ていた彼女と目が合ったので、大きく手を振った。
近づくと、結んでいた口元がほころび、ばあっと笑顔になる。
今日の彼女は、いつもと同じ、髪は緩くまとめて1つにしている。
いつもと違うのは、首もとのスヌードと同じ、ワインカラーのバレッタで髪を留めていることだった。


「待たせちゃってごめん」
「…そんな、待ってないです。走って来たんですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫。いや、とにかく人が多くて。じゃ、行こうか」
「はい」



彼が改札から出てきた時、すぐに分かった。
前に見かけて好きだった、濃いグリーンのコートを着てたから。
仕事の時と違うのは、中が赤いパーカーだったこと。
急いでくれたのか、息を切らし気味で彼が近づいた時、髪に目が行ったのが分かった。
このバレッタは、研修期間中にたまたま通ったお店のウインドウで、欲しいんです、と営業途中の彼に見せたもの。
あれから、自分で買った。
でも、そんなこととっくに忘れてるよね…




山の上の公園、と言うだけあって、公園は山の中腹にある。
山と言っても、広々とした丘陵のような場所だ。
駅から途中までは幹線道路で広い。
けれど、公園入口の曲がり角からは、そこまで広くはないため、人がごった返していた。
「すごい人だね。ぶつかってない?大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫ですけど、さっきからぶつかってます」
横を歩いてるはずの彼女が、脇を通る人に押されがちで、すぐ遅れてしまう。
はぐれたらまずい。
半歩後ろになった彼女の手を掴み、引っ張ってから握った。
「こうしてれば、はぐれないから」
彼女が一瞬驚いた顔を見せたけれど、すぐぎゅっと握り返してついて来た。
ちらりと見えた、ワインカラーのバレッタ。
見覚えがある…
横に並んだ彼女に尋ねた。
「それ、買ったんだね。欲しいって言ってたのでしょ。今日の髪に合ってる」



公園入口で曲がってから、ものすごい人になった。
次々とぶつかられて、彼から遅れてしまう…
「ぶつかってない?大丈夫?」って聞かれたけど、これじゃ、人に流されそう。
流されかけて半歩下がったとき、彼の腕が伸びた。
私の腕を引っ張って、手を繋ぐ。
「こうしていれば、はぐれないから」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
彼と、手を繋いでる?
はっとしてから、ぎゅうっと握り返してついて行く。
はぐれないため-それは分かってる。
でも、今繋いでる手は、ずっとずっと繋がりたいと願ってた彼の手なんだ…
ドキドキと早い鼓動が、繋いだ手から伝わりそうだった。
「それ、買ったんだね」
「え?」
「欲しいって言ってたのでしょ。今日の髪に合ってる」
「今日の髪?」
「この、バレッタ。綺麗な色だね」
「あの、覚えててくれたんですか」
「うん、まあ…これ、俺の好きな色だから」
知ってる。
あなたが、赤やワインカラーが好きだってこと。
ずっと前から知ってる。
だから、あの時見せたの。
でも、覚えててくれたなんて。
目の奥がつん、としてきた。
いけない、涙が出そう。
こんなことで泣いてちゃダメ。
彼の前で泣いてばかりじゃない。
振り切るように顔を上げると、イルミネーションのある広場に着いた。
目の前に広がるきらきらした景色に、圧倒された。
「綺麗…」
思わず目を見開き、立ち止まって繋いでる手にぎゅっと力をこめた。
「あっちに、見渡せる場所があるよ」
彼の手に引かれ、展望スペースに向かった。


バレッタのことを尋ねたら、俺が覚えてたのに驚いたみたいだ。
ほんとは、以前見た時したら似合うだろうなあって思ってた。
今日見たら、やっぱり似合ってたな。
俺の好きな色…
だから?
俺の好きな色を、してきたのか。
似合うって言ったら、泣きそうに見えた。
口をきゅっと結んでる時は、泣くのを我慢する時の癖。
研修の時に気がついたけど、彼女には言わなかった。
広場に着くと、目の前に広がるのはきらきらとした花畑。
左右にも奥にも、広大な光の海。
案内板を見て彼女を、展望スペースに誘った。



人が多かったから、展望スペースに行くまでにだいぶ時間がかかった。
スペースと言う名前には似合わない、だだっ広いそこは、イルミネーション広場を見下ろせるくらい、高くなっていた。
広場の歩道には人が集まっていたけれど、ここはさらに遠いのに、思っていたより人がいた。
イルミネーションが一望出来るからか…カップルだらけだったけれど。
「こっち、空いてる」
彼に引っ張られ、手すりのある場所の端に立った。
右側に大きな木があるから、眺望はいま一つだけど、それでもイルミネーション広場がよく見える。
「綺麗だねえ」
彼がふう、とため息をついた。
彼の横に立って、イルミネーションを眺める。
嘘みたい。
ちょうど3年前の今頃、異動して行った彼にメールした。
彼からの返事がショックで、どんよりしたクリスマスだったのを、覚えてる。
それが、今横に立って彼の横顔を見てるなんて。
…気づいたら、私はイルミネーションじゃなくて彼の方ばかり見ていた。



イルミネーションをみる俺を、彼女がずっと見てる。
それをずっと感じていて、今が気持ちを伝える時だと分かっていた。
でも、きっかけがなかなか訪れない。
「あの…」
「あの…」
二人同時に声を出して、思わず彼女を見た。
「ごめん…」
「いえ、私こそごめんなさい。あの、お先にどうぞ」
いくら優柔不断な俺でもこれはちゃんと話さないと。
「3年前に、きみにあんなことを言ったくせに、向こうにいる間一番気になってたのは、きみのことだったんだ」
彼女が、じっと俺の目を見て聞いていた。
「でも、思い出して浮かぶ姿は、涙ぐんでるきみで…それで繰り返し思うんだ、なぜあの時涙を拭ってやれなかったのかって」
彼女の目元が少し、潤んでいるように見えたけれど、口元をきゅっと結んでる。
「こんなこと、今さらだけど」
彼が、繋いでる手にぎゅっと力を込めた。
「あの時から、いやもっと前からきみが気になって…好きになってた」
「なのに、メールであんな返事なんかして」
「その上、何もなかったみたいな顔して戻って来て…」
「嫌な思いをさせたんじゃないか、傷つけたんじゃないかって…ずっと気になってたんだ」



「嫌な思いなんて…」
彼の言ってくれた言葉を聞いて、我慢してたつもりだったのに、もう目尻に涙が溜まっていた。
ダメ。ちゃんと彼に気持ちを伝えるまでは、泣いたらダメ…
「メールの返事は悲しかったけど、大沢さんが戻って来てまた会えて、私は嬉しかったんです。でも…」
「近づいて、また振られたらって思うと、こわくて…」
我慢出来なくなって、目尻からポロッと雫が落ちた。
「…振ったりなんか、しないよ」
彼が指で、涙を拭ってくれた。
「…いいんですか、ほんとに?」
「なんで聞くの?」
「こんな、ずっと追いかけて、すぐ泣いて…面倒じゃないかなって」
もう、止められない。
彼の手を握りしめて、頬に涙が伝った。
「こんな、ずっと追いかけてくれて、泣き顔が綺麗で。いつもきみのことを考えてしまう。だから、好きだって言ったんだよ」
言葉が出て来なくて、彼の腕に顔を寄せて、涙を堪えた。
「ごめんなさい…悲しくないのに、嬉しいのに止まらないの」
「我慢しなくていいよ、そのままで」
「そのまま…」
「やっと、同じ景色を見て繋がれたんだ。そのまま、繕わないまま、一緒にいよう」
「一緒、に?」
「うん、ずっと」

頷いて、そっと彼の肩にもたれた。

























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