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りんごの日記

ミュージカルの感想や旅行、その他思いついたことを自由に書きます

宝塚歌劇花組公演 「舞姫」観劇

2008-03-15 22:35:18 | 観劇
 昨年6月、大劇場に隣接するバウホールで上演され絶賛されたこの作品は、評判どおり素晴らしかった。「舞姫」の世界はまさに宝塚にぴったり。明治時代、国費留学生としてドイツで生きる日本のエリートたちの姿、主人公太田豊太郎を日本で待つ家族や友人らが持つ伝統的価値観と、ヨーロッパ的自由、価値観、華やかな王宮舞踏会と人種問題。これらをうまく膨らませ、宝塚の舞台に合うよう描き出した植田景子先生の力量に感服。

 原作は短編小説。舞台は6枚の縦長のパネル(衝立?)が開いたり閉じたりするたびに場面が変わる。シンプルだが見事な演出だ。出演者は総勢24名、花組の若手がよくやっている。オープニングで愛音羽麗さんは、ポスターの白い軍服姿で登場。明治天皇の命により、ドイツ憲法を学ぶため留学。家族や親友相沢の期待を背負い洋々たる思いでベルリンにやってくる。だがここで、太田以外の国費留学生たちは日本人同士で固まっており、なかなかドイツ人社会に入っていけない。そして互いのプライバシーを監視し合っている。このあたりの事情は今もさほど変わりないのでは?本人の意思でなく社命で海外転勤を命じられたサラリーマンらは、異国の地でも同胞だけで集まるのはよくあることだ。しかし太田はダンスを学んだりするなど積極的にドイツ社会に溶け込んでいる。それが他の留学生の妬み・僻みにつながる。これって男性社会にありがちなことではないだろうか?国費留学生役で面白いのが細菌学を研究する岩井を演じる日向燦さん。厚いレンズの黒縁メガネをかけ三枚目を演じ、このお芝居で唯一観客をほっとさせるパートを担っている。愛音さんは軍服もスーツ姿も見事に似合っている。さすが男役10年。

 税金でぬくぬくと生活する国費留学生とは対照的に、自分の芸術のために狭い日本を離れ、必死で油絵を描き、それを売ることで活路を見出そうとする貧しい私費留学生、原芳次郎。彼と太田は出身地が近いこともあり、すぐに意気投合。だがなかなか原の才能は評価されず、彼は寒さと貧しさの中「お粥が食べたい。」と言いながら死んでいく。演じるのは華形ひかるさん。これまたいい役だ。華形さんの演技もいい。

 そしてヒロインのエリス、野々すみ花さん。メークを研究したのか、以前より綺麗になった。宝塚の娘役にしては演技が自然体で好感が持てる。少女役を演じる時幼さを出すために、高い声でキンキン話す人がいるが私はどうもあのキンキン声が苦手だ。その点野々さんの台詞廻しは耳に心地よい。惜しいのは歌。囁くような声量なので高音部に伸びがない。だが演技は素晴らしい。太田から贈られた舞扇で一生懸命舞おうとする姿がいじらしい。今回この舞扇がとても素晴らしい小道具として使われた。第2幕、相沢から太田との別れを宣告され狂ってしまう場面が見事。精神病院に別れを告げに来た太田を見ても、それが自分の恋人とは判別がつかない。手にはあの舞扇を持ちひらひらさせる。これは名場面だ。私の隣の人は泣いていた。

 まっつの相沢。原作を読んだ時「これは悪役として描かれるな。まっつは新境地を開拓するのだな。」と思ったのだが、この舞台を見る限り、悪役には見えなかった。むしろ才能ある親友太田の未来を憂い、自分が秘書官を務める天方伯爵(のちの首相)に取り計らって、太田の能力に見合ったポストを提示するなど、何と友達思いのいいヤツだろうと感心した。だから彼がエリスに手切れ金を渡す場面も全然嫌味に感じられなかった。原作では最後に「嗚呼、相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裡(なうり)に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり。」とあるが、今回の舞台ではラストで相沢が太田に「俺を恨んでいるか?」と尋ねると太田は「いいや。憎むべきは己が心だ。」と答える。このほうが私は好きだ。さすがは植田先生、この解釈、気に入りました。

 この舞台、花組の若手が主体だが、専科3名の名演技が全体の流れを引き締めていた。特に星原美紗緒さんの天方伯爵は絶品。ラストは軍服姿で大日本帝国憲法を発布するのだが、まるで歴史の教科書を見ているようだ。エリスの母は光あけみさん。自分の娘が異国の人と恋愛するのが許せない母の無念さを表現していた。一方太田の母役の梨花ますみさんは、自分の息子がドイツ娘との恋愛を理由に免職に追い込まれたことを知り遺書を残して自害する。明治の日本の母親は、まだまだ江戸時代の価値観を引きずっていたんだなあ。

 悲劇だが、見終えて余韻が残る佳作だ。終演後劇場を出る時、私の前を歩くカップルの男性が彼女に「この前見たのが雪組だったから、今日はものすごく良く感じた。いやあ良かった、良かった。」と言っていた。痛く同感。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (exercise dependency)
2008-03-16 08:28:38
景子先生の作品で、素晴らしい作品を観れて良かったですね。この作品はみわっちの当たり役ではないでしょうか。特にあの雪組公演を観た後の方々には、救われる思いがしたでしょうね(苦笑)。私は来週、久々の観劇で「赤と黒」です。
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文芸作品は間違いがない (りんご)
2008-03-16 09:48:54
 e.d.さま、コメントありがとうございます。ここ最近、本公演で座付演出家のオリジナル作品のヒットがなくて残念に思っていたので、この「舞姫」はとてもよかったです。(本公演ではありませんが)これからも文芸作品の上演が続くので、期待できそうです。「赤と黒」をお楽しみください。私はチケットが取れていませんので、e.d.さまのレポを楽しみにしております。
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