新釈いろは歌留多「あ」2
『開いた口が塞がらない』
開いた口を塞がせないのは、歯医者である。
歯の型を採らされるときなど、苦しくて涙が出るときがある。
塞がらないほど大口を開けるケースで考えられるのは、
はばける(これは新潟弁か?)ほど大きいものを押し込むか、
いきなりバカデカイ声を上げるなどして、
アゴが外れる場合であるが、この状況の意味するところは、
そーゆー物理的な状態を指すのではなくて、
唖然としてしばし時間が止まってしまう、あの感覚である。
英語の発音記号でいうと『∂е』(発音記号のフォントがないので代用)
アとエを同時に発する感じである。
バカバカしさと、情けなさと、失望と怒りが混然となって、
意味のある言葉が出ないのである。
”信じらんなーーーぃ”では、曰く言いがたい気分が出ないだろう。
またこの時重要なのが目であって、
目を閉じて口を開けっぱなしでは、間抜けである。
目に力を込めて、キキッと睨んでこそ、
無言の『∂е』の迫力が相手に伝わるのである。
口を大きく開けると、とかくダラシナイ表情になりやすいから、
常々練習を積んでおいた方がよいだろう。
蛇足であるが、口を開けっぱなしにする際は、
口臭には気をつけるべきである。
口臭というのはバカ正直に忠告しにくいものである。
”開いた口を臭がらない”エチケットを守らせるより、
ときどきは自分で気をつけよう。
密閉した車の中で並んだときなど、閉口する。
人が妙に顔を背けて話すなぁと感じたら、
すぐ歯医者に行くことを勧める。