社会部長・佐藤泰博 原発ゼロの夏 再び言う、関西は危機なのだ http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20140629529.html 2014年6月29日(日)15:33
(産経新聞)
あちこちにさびが浮いた建屋、大型モニターもなく、アナログなメーターがずらりと並んだ中央制御室…。運転開始から40年を超えた火力発電所は、まさに「くたびれた」という言葉がぴったりだった。
関西電力の海南火力発電所(和歌山県海南市)。今月19日、近畿経済産業局の立ち入り調査が行われた。こうした調査は異例であり、しかも小林利典局長自らが設備の保守管理状況を確認した。それは、この“高齢”発電所こそが、夏の電力供給を乗り切る関電の命綱であることが一番の理由だ。4基で総出力210万キロワット。関電管内で最大級であり、ここでの予期せぬトラブルによる停止は即座に、関西を電力危機に突き落とすからだ。
もちろん、“高齢”ならではの苦労は多い。最新の発電所なら大型モニターで機器のチェックができる。コンピューター制御で炉などの操作も簡単だが、ここではさまざまなメーターのチェックを職員が行い、操作も職員の熟練の腕に頼らなければならない部分も少なくない。
補修などの期間を短縮するため、停止させた炉が冷え切る前から作業に入り、70度という高温のもと、作業員は15分交代で配管の交換などに取り組んでいた。夏本番を前に、発電の現場はすさまじいまでの緊張状態に突入しているのだ。
実は同発電所の2号機(45万キロワット)は平成13年4月から長期停止していた。再稼働は関西の電力問題が深刻になった24年7月からだ。職員は苦しい胸の内をこう表現した。「定年から10年以上たった高齢者をいきなりフルに働かせているようなものなので…」
◆電力供給 綱渡り
関西は震災後初めての「原発ゼロの夏」を迎える。
今夏の関西電力管内の最大電力需要は2873万キロワット、供給力は2960万キロワットで予備率はなんとか3%に達し、国は7月1日から節電要請(9月30日まで)をするものの数値目標は定めなかった。しかし、内実をみてみると、特に関西は安心していられるレベルにはない。
姫路第二発電所設備更新工事の前倒しや火力発電の夏季補修の回避…。関電の自己努力だけでは足らず、周波数の異なる東京電力からの電力融通も含めての数字だからだ。さらに言えば、海南をはじめ火力の2割は運転年数40年以上で、トラブルによる計画外停止も増えている。最大需要と供給の差はわずか87万キロワット、火力機がひとつでも停止してしまえば、たちまち危機は現実になる。
しかし「電力供給の現場が綱渡りの状況だということが理解されていない」(小林局長)のが現状だ。震災後、関西では毎年のように電力不足への注意と節電が求められたが、これまでブラックアウトや計画停電など事態に追い込まれなかったことから、社会から危機感が年々薄れてきているのは誰もが認めるのではないか。
◆薄れる危機感の陰で
24年6月、関電大飯原発の再稼働が決まった際、経済部長だった筆者は「電力はすべての産業の『血液』であり、不足すれば工場などが流出して雇用が失われ、住民の生活基盤を壊してしまう。そんな『いまここにある危機』への対応が忘れられていたのではないか」「大飯再稼働はゴールではない…ようやくスタートラインに立っただけにすぎないのだ」と書いた。
2年がたったにもかかわらず、「いまここにある危機」への対応はおろそかにされたまま、スタートラインから一歩も前に進んでいない。危機感だけが薄れてきていることを考えると、関西が置かれた状況は悪化しているとしか思えない。
実際には危機は静かに、しかし着実に進行している。
韓国に工場を移したり、九州に主力をシフトしたりする企業が出ている。電力の安定供給に見通しが立たず、夏が来る度に節電が求められるようではリスクが高いと判断するのは当然だ。
さらに、関西の中小企業の強みである部品産業にも深刻な影を落としている。東大阪などは削る、磨くなどで高い技術を持つ企業が多い。しかし、品質を安定させるため不可欠な熱処理には多くの電力が必要で、電気料金値上げなどによって、熱処理を行う企業は苦境に追い込まれている。部品産業の土台が崩れる危機にも直面しているのだ。
先月、福井地裁で大飯原発の運転差し止めを命じる判決が出た。科学的な検討を無視した論理構成には疑問が残るが、ここではふれない。また、原発の再稼働に必要な原子力規制委員会の安全審査はなかなか進まない。
25年度版エネルギー白書によると、電源に占める化石燃料(天然ガス、石炭、石油)の比率は、第1次オイルショック時を突破して88%に達した。太陽光や風力発電は、原発の代替電源としてはまだあまりにも未成熟だ。
イラクでイスラム過激派組織の勢力拡大の影響もあり原油価格は上昇が続いており、さらなる電気料金の値上げも浮上してくるだろう。
もう一度、言いたい。「いまここにある危機」に目を背けるな、と。(佐藤泰博)
<節電要請>原発頼らぬ夏…7月1日スタート、初の稼働ゼロ
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/business/mainichi-20140630k0000m020077000c.html
2014年6月30日(月)01:29
毎日新聞
政府による夏の節電協力要請期間が全国(沖縄を除く)で7月1日からスタートする。2011年の東京電力福島第1原発事故後で初めて稼働原発がゼロの夏となり、事故前に原発比率の高かった関西電力や九州電力管内では電力の安定供給に最低限必要な水準しか確保できず、電力需給が逼迫(ひっぱく)する可能性もある。ただ、政府は、昼間の電力使用の一律削減を求める数値目標を昨年に続いて見送り、企業や家庭の自主的な節電で乗り切りたい考えだ。
◇過去3年、混乱なし
節電要請期間は9月30日まで(8月13~15日を除く)の平日午前9時~午後8時。政府はエアコン温度を28度以上に設定するなどの節電に無理のない範囲で協力するよう呼びかけている。政府による夏の節電要請は今年で4年目だが、過去3年は大きな混乱もなく終了しており、政府が原発再稼働の方針を打ち出す中、今年の動向が注目される。
政府が4月にまとめた今夏の電力需給見通しによると、8月の全国の最大電力需要は1億6666万キロワット。一方、最大供給力は1億7434万キロワットで、供給余力を示す「供給予備率」は4.6%と、電力の安定供給に最低限必要とされる3%を上回る。ただ、予備率は、東日本の電力3社の6.1%に対し、西日本の電力6社は3.4%。関電は1.8%、九電は1.3%にとどまり、周波数の異なる東日本から電力融通を受け、ぎりぎり3%を確保する。西日本の需給が厳しくなったのは、昨年夏に稼働していた関電大飯原発3、4号機(福井県)が同9月に定期検査のため停止したことなどが要因。
今夏は全国で供給力の8割を火力発電に依存する。だが、火力の2割は運転開始から40年以上経過して老朽化が進んでおり、故障のリスクを抱える。また、気象庁によると、今夏は太平洋高気圧の勢力が強くなり、8月の西日本の平均気温は平年より高くなる可能性がある。発電所のトラブルや猛暑などで電力不足に陥る恐れもある。
政府の今夏の需給見通しは、10年並みの猛暑(中部、関西、九州電管内は13年並み)を想定し、水力や太陽光などの発電量も過去の実績で少なかった水準をベースに見積もるなど厳しいケースを前提にしている。政府の節電要請は震災後の11年夏から始まり、政府は同様の需給見通しを事前に発表してきたが、過去3年の供給予備率の実績はほとんどが見通しを上回った。【中井正裕】
◇供給予備率◇
電力の最大需要量に対し、電力供給にどの程度の余力があるかを示す比率。電力需要は1時間の平均値に対し最大3%程度変動するため、安定供給には予備率3%が最低限必要となる。猛暑などに備え、予備率7~8%を確保することが望ましいとされる。3%を下回る見通しとなった場合、電力融通や管内での節電要請を実施。それでも予備率が1%程度を下回る見通しになると、事前に対象時間や地域を知らせる計画停電が実施される。