第6話 アンゴラボーイ 後編
第6章 アンゴラビザ取得戦線 経過良好
南部アフリカ周遊は猛スピードで行われた、これまで行ってなかったボツワナ、南アフリカ共和国、モザンビーク、スワジランド、レソト、ナミビアの6カ国を回り、訪れた都市は10箇所、この間にレンタカーを借りて喜望峰やアフリカ大陸最南端のアグラス岬にいったりナミブ砂漠を見に行ったりしたので休む暇も無かった。
ザンビアには7月16日にナミビアからリビングストーンへと再入国、この何も無い国にこれで3度目、ビザをマルチ(複数入国可能)で持っていたので回数は問題なかったがこのアンゴラビザの為だけに戻ってきたと考えると心も晴れない。ルサカには7月17日に到着、いよいよアンゴラビザ取得戦線も大詰めだろう。
7月19日、タナカ、イヌイ氏の入国予定日より私のほうが少し早かったので一人でアンゴラ大使館に行く、まあボーイの事だから面倒くさがって3人揃った時に発給したがっているとは思ったが顔を見せて感触を確かめるのも悪くは無い。
0900時頃大使館に到着して暫く領事部の応接室で待っていると1000時過ぎにようやく彼が姿を現す。ビザの事について確認するとすべなく
「今日はボスがいなくて発給は無理だから明日来い」
という。まあ今日の所はこれでいい。怒って切れてしまいビザの発給停止というのは最悪の事態だ。
おとなしく引き下がり宿に戻る。
夜タナカ氏が帰ってきて合流し、そして翌朝イヌイ氏とも再会を果たす。今度はイヌイ氏は靴を入手していた。いよいよ本格的な共同戦線開始だ。
そして3人でアンゴラ大使館に向かう。1000時に到着、1130頃まで1時間半近く待たされたが、今回でようやく、我々3人のパスポートの提出を求められる。発給は明日。料金はパスポートと引き換えだ...、ビザ一つで実に長く待たされたが明日で終わりだろう...
第7章 アンゴラビザ取得戦線 やっぱり異常あり
翌7月21日、私の入国予定上なら今日アンゴラに入国しているはずだが未だザンビアのルサカに貼り付けられたままだ。まあビザが無いので動きようも無い。それも今日で終わりだ。後はパスポートを受け取るだけになっている。しかし、最初に申請したときからもう1ヵ月半掛かっている。他の国を周る事が出来たからこそ耐えれたのだがそれでこの待ち時間は異常な長さだ。
今日は午後に来いと言われていたのとイヌイ、タナカ両氏は別行動だったのでアンゴラ大使館で落ち合う事になっており、私が到着した時はまだ彼らは来ていなかった。
先に中に入るとボーイが忙しそうに仕事をしている。もちろん忙しそうにしているだけで忙しいわけではないのだが...
まあ何も声をかけないのも不自然なので当たり障り無く話しかけると
「いやー忙しくて喉が渇いたな、おいお前!俺の飲物は何処にあるんだ??」
等としたり顔で抜かしてくる。毎回毎回人を待たせて予定をコロコロ変えてこっちに迷惑をかけているなどという常識的な考えはボーイの思考からは完全に抜け落ちてるのだろう。
答えるのも阿呆らしくなってしまい、適当にいなして待っているとイヌイ、タナカ両氏も到着する。
何はともあれ約束の日は今日だ。ボーイが我々3人の前に現れる。よーし、これで終わりだ...
「今日は発給できない、明日明後日と休みだから来週の月曜に来い...」
「なっなっなっ...???」
いまなんて言った??、さっき俺がいる時にそれを言えばいいじゃねえか!!それにしてもコロコロコロコロ毎回言う事を変えやがって、それに言い方も気に入らない、いくらこっちがただの旅行者といってもお前のせいで毎回振り回されてんのは分かってるだろう!!さっきはジュースまでたかろうとしやがって...
パスポートも渡して大詰めになった今、激怒して対決してしまうのは上手くない考えだ、でもしかしもう我慢はしない。殺ってやる(実際に殺すわけではありません、英語で罵詈雑言を気の済むまで浴びせかけるだけです)。
と私が思いかけた矢先、イヌイ氏が既に暴発していた!!
「おい、手前、毎回言う事変えやがって、月曜というならそれでもいいけど一言謝る位は出来ないのか??」
イヌイ氏はさらに畳み掛ける、しかし最初は誤りこそしなかったもののバツの悪い表情を見せていたアンゴラボーイの顔つきが変わる
「じゃあ、アンゴラビザいらないんだな...!!」
ちっ、またしても伝家の宝刀を抜いてきやがった...
イヌイ氏が先にキレていたので私は冷静に戻っていた。これ以上揉めるのは得策ではない。イヌイ氏も怒りながらも途中からは冷静になっていたらしく、彼が怒った事によりタナカ氏や私のビザまで発給されなくなったら悪いとも考えていたようで、彼が臍を曲げきる前に旨く怒りを納め、そして3人でボーイを取り囲むようにして約束させる。
「月曜だな...」
しかし今日は木曜日だ、これでさらに4日待が決定だ。こんなルサカなんて何も無いところで...
タナカ、イヌイ両氏は寺へ、そして私は宿泊してる安ホステルへと戻る事となった。
第8章 戦友達の負傷、そして離脱...
7月24日の日曜、ルサカのネットカフェを出てふらふら歩いている時だった、タナカ、イヌイ両氏が反対から歩いてくる。タナカ氏は開口一番、私にこう告げてきた。
「いやー、東城さん、聞いてくださいよ。昨日寺に泥棒がはいりましてねぇ~、追っかけて掴まえたのはいいんですが2人とも怪我をしてしまったんですよ」
「えっ??」
イヌイ氏はいかにも強そうな大男だし、タナカ氏も小柄とはいえ以前器械体操をやっていただけあって全身筋肉質だ、彼ら二人に怪我をさせるなんてアフリカ人はそんなに強いのか?それとも人数が多かったのか??
「相手は一人なんですよ、でもねぇ、寺で飼っている犬がいましてねぇ、泥棒が外を走って逃げているのを追いかけている時に犬も後ろから追ってきて我々に追いついたのでここぞとばかりに『コイツだー』とけしかけたら俺達に噛み付いてきちゃったんですよ~...、」
ちなみに飼っている犬の名前は「ライオン」だ。
「いやぁ~!結局2人ともこのライオンに噛まれてしまっちゃったんですよ~!!」
それにしても良く出来たストーリーだ。タイミングの悪さも絶妙である。
タナカ氏もイヌイ氏も明るく話しているけど...、確かにそいつは面白すぎる(笑っている場合ではありませんが...)
その後彼が話すには泥棒は取り押さえた物のわざわざケープタウンまで行って中央アフリカ対策用として買っていたイヌイ氏の寝袋が盗まれ、そして懐中電灯も追撃のさなかに壊れてしまったらしい...
「そういう訳で明日の朝、一度はアンゴラ大使館は行きますけど、その後すぐに狂犬病の注射を打たなければいけないんですよ...」
「!!!」
こんな展開はいかに私が「プロ」といったところで予想できるものではない。正に「カタストロフィー(破局点)」といった出来事であろうか?
「お大事に」
と当たり障りの無い一言を言うのが精一杯であった...
翌25日、3人でアンゴラ大使館に行く、しかしボーイが言うには午前中は忙しいから午後に来てくれということだ。
しかし一体全体いつまでじらせばいいのだろうか??
キレイな彼女と付き合うことは出来たものの“最初のコト”をいたすまで延々と待たされてしまっているような気分だ。いつ会ってもじらすだけじらして次は必ず、きっとするからってか??そして次に会っても「今日はダメなの、特別な日なの...」と言われ続けなければいけないのか??恋なら待つ時間も楽しみといえるが今私がやってることは単なる作業だ。面白くもなんともないし第一アンゴラビザを取得したところで入国許可が手に入るだけでロマンスなんて生まれやしない。
イヌイ、タナカ氏はタイムリミットだった、もう医者に行かなければ行けない。彼らの代理受領を約束して別れる。
今度は私は彼らにこうお願いする。
「今度という今度でダメならこの間のイヌイさん以上に激怒してボロクソに言ってやるつもりなのでそうなったらビザは諦めて下さい」
と...
彼らも異論は無く「ビザがダメならそれでいいですから、我々の分も含めてガンガンに言っちゃって下さいよ!」と応援してくれる。
夜の再会を約束し、別れる彼等の背中を眺めてこう誓う
「友よ!君達の死(単に狂犬病の注射に行くだけです。念の為)は無駄にしない。ビザか、しからずんばボーイの首を取ってくる」
と...
第9章 アンゴラビザ 取得戦線戦争終結
約束の1430時丁度に大使館を訪ね、ボーイに面会する。
彼は私を見ると何も言わずにアンゴラビザのシールと我々のパスポートを取り出し、シールの空欄の部分に手書きで必要事項を記入し始める...
「おいっ、今からかよ...!!」
そして記入を終えシールをそれぞれのパスポートに貼って印を押し、上役の所に行きサインを貰って私の前に戻り、そしてパスポートを手渡す。
所要時間...“約20分...”
「早っ!!」
これだけだったら午前中でも出来たんじゃねえの??それよりもいままで散々に待ってきた時間は何だったのか???
キスするまでに何回もデートを重ね、待ちに待ったいよいよのファーストキッスが一秒もかからずに終わってしまったようなものだ。キスならまだ余韻が残って後でロマンチックな思い出でもなろうが込上げてくるのは怒りとやるせない気持ちだけであるから救いようがない...
それでも何とか気を取り直して必要事項を口頭で再度確認し、記載漏れもチェックして領収証を貰いこれでようやくアンゴラの観光ビザの受領が出来る事となった。
第10章 エピローグ
夜、タナカ、イヌイの両氏にパスポート渡し、これでこの長期に渡るアンゴラビザ取得戦線の終結となった。
我々はこのビザのせいで散々振り回された挙句に不本意に長い時間を費やす事になってしまったし、その上タナカ、イヌイの両氏は負傷まで負わされている。イヌイ氏にいたってはこの先の作戦用のアイテムまで奪われてしまう有様だ。
我々3人はビザを取得できた喜びよりもこの地獄のような長期戦による心のダメージの方が計り知れず大きい物となっていた。
彼らは泥棒事件により寺に戻る事になり、また出国日も遅くせざるを得なかったのでルサカで別れる事となった。
私はと言えば、この後にコンゴ(旧ザイール)のビザをここで取得。そしてザンビアの出国は7月31日となった。国境が接していると入ってもザンビアーアンゴラ間は危険地帯なのでまたナミビアに入国し、そしてそれからナミビアーアンゴラへと向かう予定だ。
そしてザンビアを去り、ナミビアからアンゴラに向かう途中、これまでの経緯をまざまざと思い起こす。
初めてアンゴラ大使館を発見したのは5月23日、そして受領は7月25日、ザンビアでは実に3ヶ月に跨る長期戦となってしまった。この間アンゴラ大使館を訪ねた回数は実に12回、ザンビアでの滞在日数はトータル30日を超えてしまっている。
はっきりとしていることはアンゴラのビザは1ヶ月で、実際そんなに滞在するわけではなく、せいぜいマックスで2週間がいいところだろうから
「アンゴラビザの取得に掛かった日数の方がアンゴラ観光に費やす日数よりも明らかに長いだろう」
という有難くない結論だ。
去り行くザンビア、そして迫り来るアンゴラ、その狭間で私はこう考えていた。
「アンゴラビザなんてむきになって取得するもんじゃなかった...」
と...
※終始一貫して我々を苦しめ続けたルサカのアンゴラ大使館の入口。燃やしてぇ~!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/c9/9a178ce84684619e12c6dcd35cc9737d.jpg )
追記:
本作品の文中には殆ど登場いたしませんが、今回のアンゴラビザの取得に関しては度重なるレターの変更に嫌な顔一つせずに対応して頂き、また時にはアンゴラ大使館に直接電話まで掛け、我々をアシストして下さった日本大使館領事部の方々のお力添えがあったからこそ出来た事であります。
彼等の多大なこの誠意のある好意的な御助力に対して、拙いながらもこの場を借りて感謝の気持ちを表させて頂きたいと思います。
ザンビア日本大使館の領事部の皆様方へ
私のような一介の旅行者に対しての今回の多大な御尽力、誠に感謝の気持ちで一杯であります。本当に有難う御座いました。
デューク東城
第6章 アンゴラビザ取得戦線 経過良好
南部アフリカ周遊は猛スピードで行われた、これまで行ってなかったボツワナ、南アフリカ共和国、モザンビーク、スワジランド、レソト、ナミビアの6カ国を回り、訪れた都市は10箇所、この間にレンタカーを借りて喜望峰やアフリカ大陸最南端のアグラス岬にいったりナミブ砂漠を見に行ったりしたので休む暇も無かった。
ザンビアには7月16日にナミビアからリビングストーンへと再入国、この何も無い国にこれで3度目、ビザをマルチ(複数入国可能)で持っていたので回数は問題なかったがこのアンゴラビザの為だけに戻ってきたと考えると心も晴れない。ルサカには7月17日に到着、いよいよアンゴラビザ取得戦線も大詰めだろう。
7月19日、タナカ、イヌイ氏の入国予定日より私のほうが少し早かったので一人でアンゴラ大使館に行く、まあボーイの事だから面倒くさがって3人揃った時に発給したがっているとは思ったが顔を見せて感触を確かめるのも悪くは無い。
0900時頃大使館に到着して暫く領事部の応接室で待っていると1000時過ぎにようやく彼が姿を現す。ビザの事について確認するとすべなく
「今日はボスがいなくて発給は無理だから明日来い」
という。まあ今日の所はこれでいい。怒って切れてしまいビザの発給停止というのは最悪の事態だ。
おとなしく引き下がり宿に戻る。
夜タナカ氏が帰ってきて合流し、そして翌朝イヌイ氏とも再会を果たす。今度はイヌイ氏は靴を入手していた。いよいよ本格的な共同戦線開始だ。
そして3人でアンゴラ大使館に向かう。1000時に到着、1130頃まで1時間半近く待たされたが、今回でようやく、我々3人のパスポートの提出を求められる。発給は明日。料金はパスポートと引き換えだ...、ビザ一つで実に長く待たされたが明日で終わりだろう...
第7章 アンゴラビザ取得戦線 やっぱり異常あり
翌7月21日、私の入国予定上なら今日アンゴラに入国しているはずだが未だザンビアのルサカに貼り付けられたままだ。まあビザが無いので動きようも無い。それも今日で終わりだ。後はパスポートを受け取るだけになっている。しかし、最初に申請したときからもう1ヵ月半掛かっている。他の国を周る事が出来たからこそ耐えれたのだがそれでこの待ち時間は異常な長さだ。
今日は午後に来いと言われていたのとイヌイ、タナカ両氏は別行動だったのでアンゴラ大使館で落ち合う事になっており、私が到着した時はまだ彼らは来ていなかった。
先に中に入るとボーイが忙しそうに仕事をしている。もちろん忙しそうにしているだけで忙しいわけではないのだが...
まあ何も声をかけないのも不自然なので当たり障り無く話しかけると
「いやー忙しくて喉が渇いたな、おいお前!俺の飲物は何処にあるんだ??」
等としたり顔で抜かしてくる。毎回毎回人を待たせて予定をコロコロ変えてこっちに迷惑をかけているなどという常識的な考えはボーイの思考からは完全に抜け落ちてるのだろう。
答えるのも阿呆らしくなってしまい、適当にいなして待っているとイヌイ、タナカ両氏も到着する。
何はともあれ約束の日は今日だ。ボーイが我々3人の前に現れる。よーし、これで終わりだ...
「今日は発給できない、明日明後日と休みだから来週の月曜に来い...」
「なっなっなっ...???」
いまなんて言った??、さっき俺がいる時にそれを言えばいいじゃねえか!!それにしてもコロコロコロコロ毎回言う事を変えやがって、それに言い方も気に入らない、いくらこっちがただの旅行者といってもお前のせいで毎回振り回されてんのは分かってるだろう!!さっきはジュースまでたかろうとしやがって...
パスポートも渡して大詰めになった今、激怒して対決してしまうのは上手くない考えだ、でもしかしもう我慢はしない。殺ってやる(実際に殺すわけではありません、英語で罵詈雑言を気の済むまで浴びせかけるだけです)。
と私が思いかけた矢先、イヌイ氏が既に暴発していた!!
「おい、手前、毎回言う事変えやがって、月曜というならそれでもいいけど一言謝る位は出来ないのか??」
イヌイ氏はさらに畳み掛ける、しかし最初は誤りこそしなかったもののバツの悪い表情を見せていたアンゴラボーイの顔つきが変わる
「じゃあ、アンゴラビザいらないんだな...!!」
ちっ、またしても伝家の宝刀を抜いてきやがった...
イヌイ氏が先にキレていたので私は冷静に戻っていた。これ以上揉めるのは得策ではない。イヌイ氏も怒りながらも途中からは冷静になっていたらしく、彼が怒った事によりタナカ氏や私のビザまで発給されなくなったら悪いとも考えていたようで、彼が臍を曲げきる前に旨く怒りを納め、そして3人でボーイを取り囲むようにして約束させる。
「月曜だな...」
しかし今日は木曜日だ、これでさらに4日待が決定だ。こんなルサカなんて何も無いところで...
タナカ、イヌイ両氏は寺へ、そして私は宿泊してる安ホステルへと戻る事となった。
第8章 戦友達の負傷、そして離脱...
7月24日の日曜、ルサカのネットカフェを出てふらふら歩いている時だった、タナカ、イヌイ両氏が反対から歩いてくる。タナカ氏は開口一番、私にこう告げてきた。
「いやー、東城さん、聞いてくださいよ。昨日寺に泥棒がはいりましてねぇ~、追っかけて掴まえたのはいいんですが2人とも怪我をしてしまったんですよ」
「えっ??」
イヌイ氏はいかにも強そうな大男だし、タナカ氏も小柄とはいえ以前器械体操をやっていただけあって全身筋肉質だ、彼ら二人に怪我をさせるなんてアフリカ人はそんなに強いのか?それとも人数が多かったのか??
「相手は一人なんですよ、でもねぇ、寺で飼っている犬がいましてねぇ、泥棒が外を走って逃げているのを追いかけている時に犬も後ろから追ってきて我々に追いついたのでここぞとばかりに『コイツだー』とけしかけたら俺達に噛み付いてきちゃったんですよ~...、」
ちなみに飼っている犬の名前は「ライオン」だ。
「いやぁ~!結局2人ともこのライオンに噛まれてしまっちゃったんですよ~!!」
それにしても良く出来たストーリーだ。タイミングの悪さも絶妙である。
タナカ氏もイヌイ氏も明るく話しているけど...、確かにそいつは面白すぎる(笑っている場合ではありませんが...)
その後彼が話すには泥棒は取り押さえた物のわざわざケープタウンまで行って中央アフリカ対策用として買っていたイヌイ氏の寝袋が盗まれ、そして懐中電灯も追撃のさなかに壊れてしまったらしい...
「そういう訳で明日の朝、一度はアンゴラ大使館は行きますけど、その後すぐに狂犬病の注射を打たなければいけないんですよ...」
「!!!」
こんな展開はいかに私が「プロ」といったところで予想できるものではない。正に「カタストロフィー(破局点)」といった出来事であろうか?
「お大事に」
と当たり障りの無い一言を言うのが精一杯であった...
翌25日、3人でアンゴラ大使館に行く、しかしボーイが言うには午前中は忙しいから午後に来てくれということだ。
しかし一体全体いつまでじらせばいいのだろうか??
キレイな彼女と付き合うことは出来たものの“最初のコト”をいたすまで延々と待たされてしまっているような気分だ。いつ会ってもじらすだけじらして次は必ず、きっとするからってか??そして次に会っても「今日はダメなの、特別な日なの...」と言われ続けなければいけないのか??恋なら待つ時間も楽しみといえるが今私がやってることは単なる作業だ。面白くもなんともないし第一アンゴラビザを取得したところで入国許可が手に入るだけでロマンスなんて生まれやしない。
イヌイ、タナカ氏はタイムリミットだった、もう医者に行かなければ行けない。彼らの代理受領を約束して別れる。
今度は私は彼らにこうお願いする。
「今度という今度でダメならこの間のイヌイさん以上に激怒してボロクソに言ってやるつもりなのでそうなったらビザは諦めて下さい」
と...
彼らも異論は無く「ビザがダメならそれでいいですから、我々の分も含めてガンガンに言っちゃって下さいよ!」と応援してくれる。
夜の再会を約束し、別れる彼等の背中を眺めてこう誓う
「友よ!君達の死(単に狂犬病の注射に行くだけです。念の為)は無駄にしない。ビザか、しからずんばボーイの首を取ってくる」
と...
第9章 アンゴラビザ 取得戦線戦争終結
約束の1430時丁度に大使館を訪ね、ボーイに面会する。
彼は私を見ると何も言わずにアンゴラビザのシールと我々のパスポートを取り出し、シールの空欄の部分に手書きで必要事項を記入し始める...
「おいっ、今からかよ...!!」
そして記入を終えシールをそれぞれのパスポートに貼って印を押し、上役の所に行きサインを貰って私の前に戻り、そしてパスポートを手渡す。
所要時間...“約20分...”
「早っ!!」
これだけだったら午前中でも出来たんじゃねえの??それよりもいままで散々に待ってきた時間は何だったのか???
キスするまでに何回もデートを重ね、待ちに待ったいよいよのファーストキッスが一秒もかからずに終わってしまったようなものだ。キスならまだ余韻が残って後でロマンチックな思い出でもなろうが込上げてくるのは怒りとやるせない気持ちだけであるから救いようがない...
それでも何とか気を取り直して必要事項を口頭で再度確認し、記載漏れもチェックして領収証を貰いこれでようやくアンゴラの観光ビザの受領が出来る事となった。
第10章 エピローグ
夜、タナカ、イヌイの両氏にパスポート渡し、これでこの長期に渡るアンゴラビザ取得戦線の終結となった。
我々はこのビザのせいで散々振り回された挙句に不本意に長い時間を費やす事になってしまったし、その上タナカ、イヌイの両氏は負傷まで負わされている。イヌイ氏にいたってはこの先の作戦用のアイテムまで奪われてしまう有様だ。
我々3人はビザを取得できた喜びよりもこの地獄のような長期戦による心のダメージの方が計り知れず大きい物となっていた。
彼らは泥棒事件により寺に戻る事になり、また出国日も遅くせざるを得なかったのでルサカで別れる事となった。
私はと言えば、この後にコンゴ(旧ザイール)のビザをここで取得。そしてザンビアの出国は7月31日となった。国境が接していると入ってもザンビアーアンゴラ間は危険地帯なのでまたナミビアに入国し、そしてそれからナミビアーアンゴラへと向かう予定だ。
そしてザンビアを去り、ナミビアからアンゴラに向かう途中、これまでの経緯をまざまざと思い起こす。
初めてアンゴラ大使館を発見したのは5月23日、そして受領は7月25日、ザンビアでは実に3ヶ月に跨る長期戦となってしまった。この間アンゴラ大使館を訪ねた回数は実に12回、ザンビアでの滞在日数はトータル30日を超えてしまっている。
はっきりとしていることはアンゴラのビザは1ヶ月で、実際そんなに滞在するわけではなく、せいぜいマックスで2週間がいいところだろうから
「アンゴラビザの取得に掛かった日数の方がアンゴラ観光に費やす日数よりも明らかに長いだろう」
という有難くない結論だ。
去り行くザンビア、そして迫り来るアンゴラ、その狭間で私はこう考えていた。
「アンゴラビザなんてむきになって取得するもんじゃなかった...」
と...
※終始一貫して我々を苦しめ続けたルサカのアンゴラ大使館の入口。燃やしてぇ~!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/c9/9a178ce84684619e12c6dcd35cc9737d.jpg )
追記:
本作品の文中には殆ど登場いたしませんが、今回のアンゴラビザの取得に関しては度重なるレターの変更に嫌な顔一つせずに対応して頂き、また時にはアンゴラ大使館に直接電話まで掛け、我々をアシストして下さった日本大使館領事部の方々のお力添えがあったからこそ出来た事であります。
彼等の多大なこの誠意のある好意的な御助力に対して、拙いながらもこの場を借りて感謝の気持ちを表させて頂きたいと思います。
ザンビア日本大使館の領事部の皆様方へ
私のような一介の旅行者に対しての今回の多大な御尽力、誠に感謝の気持ちで一杯であります。本当に有難う御座いました。
デューク東城