水月光庵[sui gakko an]

『高学歴ワーキングプア』著者 水月昭道 による運営
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宮台真司氏の発言の全てを聞きたかった。高学歴ワーキングプアは予想された事態?

2010年04月07日 | 庵主のつぶやき
宮台真司「高学歴ワーキングプアは予想された事態」(日刊アメーバニュース)

「大学院の定員が増え、質が下がった。だから、当たり前」。記事で触れられていた宮台氏の発言だ。

まいった。文脈の一部だけが切り取られてしまったのだと信じている。気鋭の社会学者が、まさか本気で「高学歴ワーキングプア問題は、個人(博士)の質と関係している」などと言うはずがないからだ。

若手研究者は深刻な雇用問題に直面している。いや、若手だけでなく、生涯〝非常勤講師〟で年収二百万円弱の生活に甘んじなければならない、中堅・ベテランの「先生」も膨大数にのぼっている。

アカデミアにおける雇用は、少数の正規と多数の非正規という構図が地方私大などを中心に当たり前になりつつある。少子化と大学運営に対する助成金が削られる中、総支出に占める人件費の割合も圧縮がかけられるばかりで、正規雇用が増える可能性はこの先もほぼ無い。

一方、現在、正規に所属している人たちには、その人件費の約九割が費やされていると言われる。非正規の先生方は、残りのたった一割を多くの人たちで分けている、というわけだ。だが、大学で開講されている講義の多くは、実はこの非正規の先生方が受け持っていたりする。なにか、おかしくないだろうか?
大学には、超格差社会が形成されている。それは民間ではおよそ考えられないほどの、雇用格差なのだ。もちろん、犠牲者がいるからそんなことも成り立つ。狙い撃ちされているのが、大学院重点化以降に大量増産された博士たちであることは言うまでもない。「専業非常勤講師」と言われるベテランの先生方もここに入る。任期付研究員、いわゆるポスドクもお仲間だ。

みなさん、何の保障もなく〝安い教育労働者〟として何年も仕事に従事させられ、そのうちに解雇される日がやってくる。「任期が終了しました」という無情な通告とともに。

社会問題が発生すると、一般的には「個人の資質」に目が向けられる傾向が強い。しかし、ことはそう単純でないことのほうが普通だ。高学歴ワーキングプアは、現在では十万人近くいるのではないかとささやかれている。地方都市の人口にも匹敵する規模だ。到底、〝個人のせい〟だけで説明できるレベルではない。

つまらない〝自己責任〟発言では、世の中は一向によくならない。社会問題の解決につながる視点や発言こそが、もっと大きな声でなされなければならないはずだ。

7月刊行予定の拙書『ホームレス博士』(光文社新書)は、そんな気持ちをぶつけた一冊です。少しでも、世の中が変わるように、ぜひ、みなさんのお力添えのほど、よろしくお願いします。

高学歴ワーキングプア 筆者拝


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