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everything will be worthy but cloudy

まどかの感想をここで書くのもアレだから僕は今日も書評を書く

2011-04-24 09:42:27 | 最近読んだ本
・「ミミ・クインの復讐」/シャーリー・コンラン

 ミミ・クイン、リヴァプール貧民街出身の13歳の少女。彼女はメイドの職に就くため、駅で列車を待っているところだった。駅の構内で出くわしたのは、楽しげな旅芸人の一団。彼らに誘われ、ミミはメイドよりも芸人として生きていく道を選択した。
 ミミは劇団の中で少しずつ芸を覚えていった。何よりも嬉しかったのは、彼女に同じ年頃の親友ができたことだった。いつも母親にべったりで、何でも母親の言いなりのベッツィ。ミミより歌は上手くないけど、美少女で、母親から厳しく教え込まれた、上品なたたずまいをしている。二人は親友だった。この関係は生涯続くものと思っていた。しかし友情はそう長く続かなかった。

 きっかけは出し物の終わった劇場で、ミミがストッキングを染め直しているところだった。残っているミミに気づかず、管理人はカギを閉めてしまう。そんな劇場の中で、火事が起きてしまう。
 かろうじてミミは救助されたものの、彼女は顔の一部と腕に消えることのない傷を負った。ミミはもう舞台に立つことはできない。自分がこんな目にあってしまったのは、ベッツィのせいだ。ベッツィが劇団から自分を蹴落とそうと、わざとカギを閉めたにちがいない。その日からミミは、ベッツィを深く恨むようになった。

 ベッツィを絶対に許さないと心に誓った一方で、ミミの私生活は次第に好転していく。彼女は男装のシンガーとして新たに人気を博し、劇団の友人と結婚もする。名門俳優の一家に嫁いだことによって、彼女の地位は大きく飛躍した。いまやミミは劇場を経営しながら自らも舞台に立つ、イギリスでもっとも有名な俳優となっていた。
 一方でベッツィにも好機が訪れた。しがないコーラスガールを続けていた彼女は心機一転アメリカに渡り、新興産業の映画の仕事をしていくうちに、一流の映画女優となる。彼女は実業家の男と結婚し、ベッツィもまた、ミミと同じく成功を手にしたのだ。
 けれどもミミとベッツィの間の緊張は解かれることはなかった。アメリカとイギリス、遠く離れていてもお互いの噂は耳に入ってくる。ラジオや新聞で互いの名前を聞くたびに、二人は相手への憎悪を燃やすのだった。そんな関係は二人が結婚しても、子供を産んでも、その子供がまた結婚しても続いていく。果たして二人の少女に和解の日は訪れるのだろうか…?

 1900年代の初頭から第1次世界大戦をはさみ、第2次大戦の途中の1940年代まで脈々と語り継がれる、まさに二人の一大サーガといった感じ。言うまでもなくこの年代は20世紀の歴史のダイジェストともいえる時代背景で、そんな激動の時代の中で必死に生き抜いていくミミとベッツィの二人の姿がありありと描かれている。
 タイトルには「復讐」とは書いてあるけど、やっぱりコレ自体「成功の物語」なんじゃないかなと読んでいて感じる。ミミはイギリスで、ベッツィは新天地アメリカで才能を認められ、それぞれの成功を手にする。その成功を一緒に喜びあえる家族がいる。成功体験という、明るい側面があるから楽しく読めるんだと思う。二人の陰湿な足の引っぱり合いの話だけじゃなくてね。

 でもそれだけが物語のテーマではなくて、相手を深く愛しているからこそ、裏切られた時のショックが計り知れないという愛憎…このモチーフは子供の代にも使われていて、中盤はそういった二人の子供の世代の物語が中心かな。美少年で情熱もあるんだけど、才能が伴わずに空回りばかりしている、ミミの息子がいいキャラかも。
 それで、ラストは唐突にぶつ切れになっている。ミミとベッツィは最終的に和解したけれども、両家族にはまだまだ深刻な問題が残されている。それでも同じ方向を見つめている二人にはきっと明るい未来が…みたいなエンドで。続編につながりそうな雰囲気だけど、こういう終わり方も印象的でいいかもしれない。

眠い 疲れた

2011-04-03 22:48:27 | 最近読んだ本
・「アレクサンダーの暗号」/ウィル・アダムズ

 考古学者・ノックスはダイビングのガイドの仕事をしながら、アレクサンダーの秘宝を追い求めていた。紀元前に一大帝国を築いたアレクサンダー大王は32歳の若さで急逝し、その遺体は莫大な装飾品と黄金の棺とともにエジプトへ運ばれたとされるが、いまだその墓は発見されていない。ノックスは装飾品の一部が海路を使って運ばれたと考え、こうしてダイビングの仕事をしているのだった。
 この日の客はハッサンだった。大富豪の傍らで様々な黒いうわさが流れている、ヤバい人物である。ノックスはその連れの女が気になった。彼はどうしても女の怯えた視線を無視することができず、ついハッサンとの間に立って彼女を助けてしまう。こうしてノックスは一転、ハッサンから追われることになった。
 一方、アレキサンドリア郊外のホテル建設地。ここで地中から大きな遺跡が発見される。ローマ時代よりも古いと目される地下墓地に、あるスポンサーが飛びついた。ニコラス・ドラゴミウス、彼の一族は密かにマケドニア復興に向けてクーデターを画策していた。遺跡がマケドニア時代のものなら、これは絶好のマケドニア復興の旗印となるだろう…。
 逃亡生活の間、ノックスはこの遺跡の発掘の仕事にありつくことができた。久しぶりの発掘現場に心が躍る。しかしここでもノックスはついつい調査隊よりも先んじて、遺跡の最深部へと潜入してしまう。そこに書かれていた古代文字。この遺跡は一体誰の墓なのか?それはアレキサンダーの財宝に結びついてくるのか?こうして物語は大きく動いていくことになる…。

 アレクサンダーの墓についてはじっさい考古学上での大きなミステリーらしく、その財宝の価値に大きなロマンを感じるところ(すまんけど俺はそういうのをほとんど知らなかったので…)。それを追い求める主人公の考古学者、それから民族蜂起をたくらむ、きな臭い勢力。これらが遺跡を求めてスリリングなバトルを繰り広げる。
 それで、この主人公のノックスもなかなか一縄筋ではいかない男で、過去に事故を起こして考古学会を半追放されている。それから冒頭のハッサンの事件などに見られるように、ついつい「余計なことをしてしまう男」。ここなら追手が来ないと遺跡の奥に潜り込んだり(しかも人より先に遺跡の謎をあばいてしまう)、考古学者でありながらハッサンの私設傭兵団と渡り合ってしまうこのアグレッシブさは、ちょっと笑えてしまうかも。戦う考古学者…というと映画のインディ・ジョーンズをイメージするけど、それともちょっと違う感じかなあ。
 最後まで読み終わっても、この主人公に対する評価がよくわからなかったりする。でもやっぱり、ノックスの行動の中にどこかあくどいものを感じてしまうなあ…。でもまあ、そうでもしない限りこのエジプト考古学というかエジプトの地では生き抜いていけないよ、ということなのかもしれない。あと自分が不勉強なせいか、あんまりこの時代について興味が持てなかったです。まあこれは個人的なことなんで作品とは関係ないんですが…。

さーてどうしようか

2011-03-21 23:41:12 | 最近読んだ本
・「一瞬の光のなかで」/ロバート・ゴダード

 わたしは写真を撮るためにウィーンに滞在していた。美しい街並みを求めて街をぶらつき、シュテファン広場の聖堂でファインダーをのぞいた時、ふと赤いコートの女が映りこんだ。まさに絶好の構図だった。たまらずシャッターを切ると、女はつかつかとこちらへ歩み寄ってきた。私は写真を撮られるのは嫌いなの、と。
 それがわたしたちの始まりだった。出会って数時間もたたないうちに、わたしたちは深く愛し合い、離れられぬ仲となった。わたしはマリアンこそが最愛の人だと思った。妻と娘を捨ててでも、一緒になるべき人。仕事を終えるとわたしはイギリスへ帰国し、マリアンからの連絡を待った。しかし彼女からの電話は来ない。ようやくつながった電話から聞こえてきたのは、マリアンからの一方的な別れ話だった…。

 わたしは妻と娘を失った。同時に仕事も失った。マリアンがわたしとの関係を清算するために、フィルムをすべて感光させてしまったのだ。わたしはマリアンをあきらめきれなかった。彼女の会話の断片を思い出しながら、マリアンの実家を探そうとする。と同時に、わたしの前にマリアンを探している人物がもう一人現れたのだった。
 彼女はマリアンの精神科医で、マリアンは多重人格障害になっていると説明した。本名はエリスといい、エリスの中にマリアン・エスガードという19世紀の女性の人格が入り込んでいるのだと。
 マリアン・エスガード、写真が発明される20年以上前に写真機を発明していた婦人。当時は女性が科学を研究することはあまり褒められたものではなく、それ故に闇に葬り去られた名前。精神科医から渡されたエリスのテープは、マリアン・エスガードの生涯を綴っていく。マリアンの記憶を求めて、エリスはイギリスを放浪しているという。
 彼女が一体マリアンなのか、エリスなのかは分からない。しかしわたしはどうしても、彼女にもう一度会いたかった。すべてを失ったわたしはマリアンの行方を求め、この複雑な迷宮に深く入り込んでいくことになるのだった…。

 歴史に残ることのなかった人物、それから現在の時間軸で起こる事件。同じ作者の第1長編『千尋の闇』でも使われた構図だけど、むしろこの作品でもそのまんまで、なんだよワンパターンじゃん!と思わず口にしてしまう。まあでもコレがつまらないわけでもなくて、少しずつ明かされていくマリアン・エスガードの隠された歴史を読み解いていくのは、相変わらず安定した面白さを見せます。
 んで、結局この19世紀の婦人が主人公のわたしに何の関連性をもたらすのか?…といえば、実はあんまり関係がなかったりして…。そう、こんな七面倒な罠を用意してまで妻と娘を別れさせたのは、何者かの陰謀がバックにあったから…その原因は5年前、わたしが起こした自動車事故にさかのぼるわけで…。

 ということでマリアン・エスガードの歴史の次は、わたし自身の歴史を探っていくことになるのです。今までずっと目をそむけていた、自動車事故で死んだ女性の歴史。それがマリアンを、妻と娘を取り戻すカギになると信じて、わたしは再び歴史の闇に飛び込んでいくことに。こういうのが後半からの急展開です。
 でもやっぱりショックを受けるのは、マリアン(エリス)からの最後のテープ、「あなたはだまされていたの。何もかもウソなの。」と告白するところかもしれない。え~じゃあ今までのフリは何だったの~っていう。本当に最後の最後までエリスは姿を見せず、その胸中もナゾなんだけど、テープの中にあった通り、多少なりとも主人公のわたしを愛していたんだと思いたいですね。

ログイン面倒臭くなってきた

2011-03-10 00:57:11 | 最近読んだ本
・洞窟/ジェイムズ・スターツ

 南イタリア・マンカンツァーノの町。太古よりこの町の住人たちは、丘にできた自然の洞穴に居を構えて生活していた。中世の時代には隔世を求める修道士たちが、その後は貧しい農民たちがここに暮らし、現代でも多くの住民が頑なにこの穴居生活を続けている。
 そんな町に僕らが調査にやってきたのは、ある事件がきっかけだった。ある無人の洞窟で少年少女の死体が発見された。二人は裸で抱き合い、壁から削り取った石を口いっぱいに詰め込んで死んでいた。死体のそばにはまだ無傷のフレスコ画が残っており、その壁画調査のために外国人の僕らのチームが招集されたのだった。

 文化人類学者の僕は滞在中、この一風変わったマンカンツァーノの住民の暮らしぶりを取材している。ここの住民たちはみな、辺境の町特有の排他的で悲観的な性格をしている。穴居から外に出ようとしないし、新しいものを望もうとしない。そしてもちろんよそ者の僕にも、好意は持っていない。
 そして住民たちは、日常的に壁から削り取った砂(トゥファ)を食べる。ちょうど食べ物に調味料をかけるように。口いっぱいに石を詰め込んで死ぬという少年少女たちの姿は、ここの住民から見てもいささか異常な行動ではあるものの、しかしそれが直接の死因ではなかった。

 いっぽうでフレスコ画の調査にも変化が現れてきた。智天使たちが赤いワインを飲んで宴を開いているという絵だったのが、後年に描き足された部分を除去していくと、おぞましい絵になりつつあった。天使たちが人間たちの血をむさぼり、悪魔たちが巨大なペニスで地面に穴をあけ、人間たちを生き埋めにしている絵…。そんな中、第2の死体がまた別の場所で発見されたのだった…。

 石を食べて死んだ少年少女の死体。グロテスクな壁画。なかなかに衝撃的なモチーフが並んで新鮮味を感じるけど、やっぱり何といってもここでの主役はマンカンツァーノの町の異常性、これに尽きると思う。
 悲観的な歴史を持ち、土着の信仰心が強いこの町で、アメリカ人の僕たちのグループは村八分を受ける。ものぐさな警察署長は保身と自分の利益のために、なかなか事件を解決しようとしない。それどころか、署長は新たな事件を巻き起こしたとして、僕らのパスポートを取り上げ、町に拘留してしまうのである。仕事も何もかも取り上げられ、やることもないまま真綿でじわじわと締め付けられるような感覚…、そういうのが後半からの部分ですね。

 結末もやっぱりマンカンツァーノの異常性、というところに収束する。結局この町の住人は死ぬまで穴居から離れられない。生まれる時も洞窟の中、死ぬ時も洞窟の中。裸で死んだ少年少女たちも別に驚くことはない、ただこの摂理に従って死んでいったということだけ…ということを主人公の僕は悟り、暗いエンドで話は終わります。

なんだかなあ

2011-02-27 02:16:37 | 最近読んだ本
・「ブラック・ドリーム」/ケイト・グリーン

 ある朝、テリッサは少女の声を聞いた。クライアントの発する内なる心の声を聞き、人生のアドバイスをするというのが彼女の仕事だったが、何者かがテリッサに呼びかけてくるのは珍しいことである。心の中の少女は助けを求めていた。どうやら少女は誘拐されたらしい。気になったテリッサは警察へ誘拐事件を問い合わせるが、今のところ誘拐が発生したという通報は届いていない。
 しばらくして誘拐事件が明らかにされ、少女の母親がテリッサを訪ねてきた。会うなりテリッサは、母親に違和感を感じる。生気のないイメージ、または死のイメージ。娘が誘拐されて落ち込んでいるのとはまた違った感覚だ。彼女は母親と協力して少女を探し出そうとリーディングを試みるが、超能力に対する恐怖感なのか、どこか拒否的な態度を取っていた。

 ところでテリッサには警察に友人がいた。殺人課のジャーディーン警部補、過去の事件の捜査中に知り合った仲だ。ジャーディーンはテリッサの超能力・リーディング能力を高く評価し、彼女からリーディングをたびたび教わっている。
 ジャーディーンはひとつの殺人事件に関わることになった。小さな店を営んでいる古物商の殺人、そこにはなぜか誘拐された少女の写真があった。偶然なのか、それとも二つの事件は関連性があるのか?テリッサとジャーディーンの二人はリーディング能力を駆使しつつ、事件の真相へと迫っていくのだった…。

 物語は特に複雑なことはなく、超能力によって断片的なヒントを覗きながら、真相へ向かっていく…という至極真当なミステリといえる。やっぱり二つの事件が絡まりあっていく、というのがこれのポイントだろうか。事件が進むにつれて、少女の複雑な家庭事情が深く関わってくるのが明らかになってくる。
 でもまあ、主人公のテリッサがいかにも典型的な女主人公的で、あんまり好きにはなれなかったかなという感想。俺がおっさんというのもあるのか、ジャーディーン警部補の視点とか誘拐犯の視点でのパートのほうが面白かったかもしれない。

もう死にそう

2011-01-30 07:01:50 | 最近読んだ本
・「時間封鎖」/ロバート・チャールズ・ウィルスン

 空から星が奪われたのは、ぼくらが13歳の頃だった。ぼくとぼくの親友の双子、ジェスとダイアンとで天体観測をしていたことを覚えている。地球は突然黒い膜に覆われ、あらゆる人工衛星の通信や星々の光が遮断された。世界はにわかにパニックに陥った。次の日には無事太陽は昇ってきたものの、それはどこか人工的な、違和感のあるものだった。
 後からわかったことは、黒い膜のようなシールドが地球のまわりを覆いつくして、地球の時間だけを極端に遅くしてしまったことだ。地球での一年は、外宇宙での一億年に相当する。果たしてこれが何者か、宇宙人のしわざなのかわからない。しかしただひとついえることは、このまま40億~50億年(地球時間で40年~50年)もすれば太陽は寿命を迎え、地球上の人類は死滅してしまうということだ。

 そんな中、ある国は核攻撃でシールドを破壊しようとした。ある国では終末論を唱え、カルトに走るところもあった。しかし一方では、この状況を好機と考えるところもあった。宇宙は一億倍のスピードで流れている。火星は氷の惑星から少しずつ温暖化しつつある。火星へ微生物やバクテリアをロケットで打ち込み、何億年もかけて地球環境化(テラフォーミング)すれば、やがては人間の住める環境になるのではないか。そしてそこへ人間を送り込めば、人類は一億倍のスピードで進化を遂げ、地球を救う解決法を見つけ出すのではないか…?と。
 ぼくの親友のジェスはこの計画に夢中になった。元々天才的な頭脳を持っていた彼は、父親の権力のコネもあって、そのプロジェクトの中心人物となっていた。しかし彼の身体は病に蝕まれつつあった。ぼくは彼の主治医として、プロジェクトに途中から参加することになる。果たして火星をテラフォーミングする計画は、地球が滅亡する前に、あるいはジェスの命が尽きる前に成功するのだろうか…?

 地球の滅亡というSF的テーマと、主人公の青春の物語という私的テーマが素晴らしく融合した作品。とにかくアレコレ言うまでもなく面白いんだけど、やっぱり登場人物の設定や描写が優れてるから読みやすくて引き込まれるんだろうな(なんというか、ポール・オースターっぽい雰囲気を感じた)。特にとりえのない凡才のぼくと、秀才のジェス、双子の姉で、科学にはちょっと懐疑的な態度を取るダイアン。この3人の、幼なじみの三角関係。
 そして「現在」のぼくは、熱にうなされていて、ダイアンに看病されながら東南アジアの都市に潜伏している。手持ちの2つのスーツケースの中にはぼくの手記と、ジェスの遺した、他人の手に渡らせるわけにわいかない数々の資料。ぼくは薬の副作用によって濫書症になっていて、ぼくたちの世界が封鎖された時から、現在までの出来事を、とりとめもなく書き連ねている。あれから何が起きたのか?火星を開拓するプロジェクトは、一体どうなってしまったのか?それは下巻からの怒涛の展開…ということで。

 読んでいて感じたのは、科学の発達というSF的要素と同じぐらい、世界の終末について起こってくる宗教的な論争が「厚く」書かれていること。確かにこれはこの作品のテーマのひとつでもある。科学を追及し、時間封鎖とは何なのかを追い求めたジェスと、新興のキリスト教分派に入れ込み、田舎でひっそり生きていくことを決めたダイアン。どっちが正しいというわけではなくて、みんなそれぞれ何かを信じて生きているということ。
 それで作者名を見てみればこの作家、タイムトンネルを題材にした作品「時に架ける橋」の作者だった。ははあ、なるほど…とは思ったけど、スピリチュアルなところを除けばスケールもスピードも何もかもまるで違う。この調子でさらなる次回作を期待したいところです。

何とか

2011-01-07 01:57:57 | 最近読んだ本
・「ハートシェイプト・ボックス」/ジョー・ヒル

 ロック・ミュージシャン、ジュードには蒐集趣味があった。中世の魔術書や、怪しげな儀式に使われる呪物のようなおぞましいもの…、コレクションの大半はいかれたファンたちが勝手に送りつけてきたものだ。そんな中、マネージャーがネットオークションで幽霊を売りたいという物件を見つけてきた。ジュードはてきとうに入札でもしてやれ、と答え、その件はしばらく忘れられることになった。
 やがて幽霊が乗り移ったとされる黒の礼服が、ハート型の衣装箱に入れられて送られてきた。そしてその日から、ジュードの自宅は奇妙な現象に襲われることになる。服に触れたジュードのガールフレンドが指先を怪我し、つけていないテレビから不気味な音声が聞こえる。ついにはマネージャーがその幽霊によって殺されることになってしまった。
 このネットオークションの出品者を調べてみると、ジュードには思い当たる節があった。かつて付き合っていたフロリダというニックネームで呼んでいたゴス女…フロリダは付き合っているうちに気がおかしくなり、最後には自殺してしまったのだが…彼女の姉が腹いせに、この幽霊の乗り移った服を送りつけてきたのだった。
 服を燃やしても、家を離れても亡霊はいっこうにジュードのもとを離れない。とにかくフロリダの姉に会って、こいつを何とかしてもらうほかない。ジュードと彼のガールフレンドのジョージアは、執拗につきまとう幽霊をかわしながら、愛車の黒いマスタングに乗って旅に出たのだった…。

 得体の知れない闇と対決するというのはホラーの定番なんだけど、もちろんこの作品でもその構図は受け継がれていて、これに主人公のジュードという、ロック・ミュージックのエッセンスが含まれている(といってもジュード自身、半引退した中年のおっさんなんだけれども)。退屈しのぎにラジオをつければフー・ファイターズが流れてくるし、陽に焼かれた黄色いキッチンを見て、なんかコールドプレイの曲みたいだな…と思い浮かべたり。
 全体的なストーリーでいえば何だろうね。読むのに結構時間がかかってしまったんだけど、ジュードがネットオークションで幽霊を手に入れることによって、その幽霊の記憶を受け継いでしまうという事、そしてその記憶から見える、ゴス女フロリダの隠された真実(彼女は小さい頃に性的虐待を受けていて、その事実を隠ぺいするために父親から殺されたという事実)…そのあたりが主軸なんでしょうか。
 そしてジュード自身も、ラストで自分の父親と対面することになる。今まで目をそむけていた、心の底から嫌っている父親との対決。戦いが終わって、エピローグで再会するフロリダのいとこの女の子。特に言うこともないスタンダードな展開かつスタンダードな結びだと思うよ。

 んで、解説を読んでみればこの作者のジョー・ヒルという人物、じつはスティーブン・キングの息子だったという真実…いや、べつにそういうオチは必要ないんですけども!

5駅ぐらい寝過した

2010-12-05 05:24:44 | 最近読んだ本
・「ジャマイカの迷宮」/ボブ・モリス

 当代きってのお気楽男こと、ザックの第2シリーズ。基本自分はシリーズものには手を出さないんだけど、なかなか感じはよかったんでこれも読んでみた。
 ある日、おれと愛しのバーバラの二人でフットボールを観戦していると、ハーフタイム中に友人の姿が見えた。おれの選手時代のチームメイトで、ぜひとも頼みたい仕事があるという。もちろん彼は大事な友人だ、依頼を断るわけにはいかない。
 彼は現在リゾートホテルグループ<リビドー>のもとで働いていて、グループのボスであるダーシー・ホワイトホールの警護を手伝ってほしいのだという。警護なんておれの専門外だが、ともかく話を聞くためにおれはジャマイカに飛んだ。

 空港でモンクが出迎えると、彼は車を取ってくると言い駐車場に向かった。と、その後とてつもない爆発があり、モンクは死んだ。あっけにとられるおれ。彼が死んだ今、おれはもうグループとは関係がないのだが、モンクを殺した犯人を捜すため、おれはこの一件に関わることを決意した。
 行き先を伝えず、あまり口を開かないダーシーに、地元ジャマイカで立候補しようとしている息子のアラン。それからモンクと密かにつきあいがあった、娘のアリ。どうもこの一族は謎が多すぎる。一体リビドーグループとホワイトホール一族の水面下で何が進行しているのか?おれは次第に彼らの陰謀に巻き込まれていくことになる…。

 読み終わって思うのは、やっぱり1作目はキャラ紹介なり背景紹介なりで忙しかったなあ、ということ。今回ザックは友人の依頼でジャマイカの問題事を解決していくのだが、この相変わらずなスローライフなテンポが心地よい。借り物のメルセデスを転がしながら、眺めの良いレストランで酒をやり、時には電話で愛しのバーバラに相談してみたり…。
 そんなわけで、なかなかこのシリーズは気に入りました。第2作目ということで、愛しのバーバラとの愛の行方も少しずつ進行中。結婚は考えているんだけど、なかなかそれを言うタイミングが見つからなくて…、さあどうなるんでしょうね。

相変わらず最悪な流れ

2010-11-21 02:10:58 | 最近読んだ本
・「震える熱帯」/ボブ・モリス

 おれは2年の刑期を終え、そこでとびきりの彼女・バーバラがおれを迎えに来るはずだった。しかし刑務所の門の前に現れたのは、黒いベンツのいかすけない野郎たち。そいつらには身に覚えがあったのでつとめて無視していると、もう一台のリムジンがおれを迎えに来た。バーバラの代理で来たとのことだったが、とにかくおれはバハマに写真撮影中の彼女に一刻でも早く会いたい。が、運転手はおれを途中のPAで置き去りにしてしまう。べつにまあそれは構わないのだが、奴はおれの身分証明書まで持って行きやがった。これはちょっとマズい。
 パスポートなしのちょっと危険な入国を果たすと、はたして海岸に愛しのバーバラが見えた。ああ、きみはいつだって素敵だ。仕事を終えて夜にでもゆっくり再会…とバーバラの部屋を訪ねてみると、彼女はいない。どういうわけか、その後もバーバラといつもすれ違ってばかり。
 ところでこの島には、おれとバーバラがお世話になっているダウニー卿という老紳士がいた。久しぶりに会うダウニー卿は年のせいか元気がないように見えるし、あちらこちらで徘徊癖があるという。バーバラを探しているうちにいつの間にか、卿の姿も見えなくなっていた。
 そうこうしているうちに、ダウニー卿とバーバラが誘拐されたという連絡が卿の邸宅に入った。犯人が要求したのは100万ドル。いやはや、おれは彼女に会いたいだけなのに、どうなってしまうことやら…。

 南国フロリダとバハマを舞台に繰り広げられる、リゾートな気分の小説。全体に漂う何ともいえないユルい雰囲気、明るくのんびりとした空気が何よりの特徴。この主人公のおれことザックが、人生を急かずにお気楽に…という考え方をしているのが大きいのかもね。そんなザックの人生観が、最初のほうのこんな一節にあらわれている。
 『…おれはちょっとした蓄えがあったから、あまり効率的な商売をしなくても大丈夫だった。船のチャーターやヤシの木の栽培、ダイビングなど手広く分野を広げていたが、どれも専門的とまではいかなかった。単純な仕事の繰り返しは退屈を呼ぶ。たとえば専門ガイドが客を水上に連れていくと考えただけで、不機嫌になるのをさんざん見てきた。おれはあくまで、自分の仕事を楽しみたかった。…』

 とこんな感じでザックはバーバラの行方を捜しながら、温暖なバハマ島でときに酒を飲んだり、メシを食ったりとのんびり進行していく(むしろ常に酒を飲んでいたりするのだが)。でも雰囲気はいいんだけど、色々とストーリーが散らかり気味なのが気になったかなあ。誘拐事件のほかにもザック個人の問題ごとが重なって、なんとも物語のメインが見えにくいのが…。まあそれはシリーズ第1作めということで色々キャラ紹介もあることだし、続編ではザックのお気楽道中がメインで見られるのかもしれないです。

すんごい寒くなってきた

2010-10-28 06:05:27 | 最近読んだ本
・「乙女の湖」/キャロル・グッドマン

 ハートレークの寄宿学校にはひとつの言い伝えがあった。学校の裏にある湖、そこには三姉妹の岩と呼ばれる大きな岩があり、感傷的な少女たちはそこで昔から祈りを捧げたり、身を投げて自殺することが多かった。もちろん私の時代もそうだった。私は今、卒業したハートレークに舞い戻り、ラテン語の教師をしている。
 そんな今年の冬も湖で自殺者が出てしまい、ダイバーは凍った湖で遺体を引き上げることになった。そんな折に出てきたのが、お茶の缶に入れられた小さな未熟児。ここで、私の少女時代を語らなければならない。

 …私はルーシーとデアドラの3人部屋で学園生活を送っていた。小さいころからの幼馴染のルーシー、それからハートレークで知り合った奔放娘のデアドラ。それぞれ性格もバラバラな3人だったが、私たちは仲良くやっていた。
 私たちのうちルーシーは家庭事情がちょっと特殊で、彼女には腹違いの弟・マットがいた。もちろん宿舎に男の子を呼ぶわけにはいかないので、私たちはよく湖にマットを呼んで一緒に遊んでいた。私は当時、マットに好意を寄せていた。しかし親友のルーシーの手前、私はそのことを口に出すことはなかった。

 そんな私たちの関係が終わりを告げたのは、ある事件だった。母の葬儀を終え、私が寮に戻るとルーシーが狂乱していた。なんでもデアドラが子供を身ごもって、死産してしまったという。わたしはルーシーと一緒にその死んだ胎児を隠すことになった。私はお茶の缶に胎児を入れ、湖の底に沈めることにした。とはいえ血だらけの部屋は説明がつかないため、ルーシーは手首を切って自殺をしたように見せかける。
 その後私の周りの世界は狂っていき、デアドラは自殺、ルーシーもマットと言い争いの末、二人とも湖に落ちて死んでしまった。私はいまひとつ納得がいかなかった。ルーシーは、死んだ胎児はデアドラとマットの子と言っていたが、はたして本当だったのだろうか。私の少女時代に隠された真の物語が、今になって明かされることになる…。

 …というのが話の一部。大まかに説明すると私の少女時代のレイヤーがあり、その上に教師時代の現在のレイヤーがあって、そこで3人部屋の生徒が次々自殺していくという少女時代の再演を見ている…といった感じ(本当はさらにレイヤーが重なっているんだけど)。なかなかに立体的で奥深い構造なんだけど…あまりにも複雑すぎて読んでいる途中でイヤになってくる、というのが正直な感想。
 やっぱりこの構造を書くのなら、ストーリーを一部削るか、あるいはよっぽど筆力が上手いか…というふうになっちゃうよね。たとえば最初に私の少女時代の話を置いて、それから現代に移るとか。そうでないと一体何が起きているのかさっぱりわからん。文章も長くて重くて、読みにくいし…。
 ともかく、あるシーンが登場人物によってまったく別のものに映っている、というのがこの小説のポイントか。ルーシーしか知らない真実、私だけが知っている真実。そんなすれ違いが、この話を構成している要素。