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draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

相変わらず体調は悪い

2012-03-25 03:45:08 | 最近読んだ本
・「そばかすの少年」/ジーン・ポーター

 ある日、リンバロストの森の伐採場にやってきたのは、片腕のない、みずぼらしい少年だった。彼は食事と仕事を求めていた。飯場のコックは彼の貧相な姿を見るなり、ここでやっていくのは無理だと追い返そうとした。しかしその時、少年は現場の支配人のマクリーン氏に呼び止められる。そこで語る、少年のなめらかな声と話しぶりに感心され、マクリーンは彼を雇うことを決めたのだった。

 それから少年は森で働くことになった。彼の仕事はリンバロストの森の見張り、値打ちのある材木を盗まれないようにフェンスを張り、森を見回る仕事である。名前のない、孤児院から来た少年はただの「そばかす」から、マクリーン氏の名前を貰い受け、彼の息子同然の扱いとなった。他人から愛され、愛を受け取ることが、どんなに幸福なことか!そばかすはマクリーンの期待にこたえるよう、精一杯仕事をがんばるのだった。
 同時にそばかすを感動させたのは、リンバロストの森に棲む多様な鳥たちだった。そばかすはこれらの鳥の名前や生態に興味を持つようになり、本を買って読むことを覚えた。見張りの合間合間に餌をやったり、歌を歌ったり、花や昆虫を集めたり…。リンバロストの森はまさに、そばかすにとっての我が家、故郷となるのだった。

 何も持たないボロボロの少年が仕事を得て、より人間らしく成長していく…という、とても純朴な話ではあると思う。でもまあ「仕事」という側面で考えた時、やっぱりそこまでしないと人の信頼関係は築けないものなのかなあ…と。ある意味バカみたいに、飼い犬みたいにマクリーンさんにすがりついていくのが、果たして正しい道なのか?という。
 実はそれをそばかすに問う場面が最初のほうにあって、その時そばかすは「マクリーンさんは僕にとって親以上の存在だ、だから僕は裏切るわけにはいかないんだ!」と、まるで教科書のような理想的な返答をしている。まあべつにこれが間違いってわけじゃないけどね。

 とまあネガ思考はここまでとして、ある日リンバロストの森にとても魅力的な少女が現れる。それはまさに少年のもとに現れた天使、エンジェル。彼女はそばかすの片腕を気にすることなく、とても親しく接してくれる。その振る舞いはまさに小さなレディといった感じで、こんな素敵なレディが隣にいたら、誰だって自然と紳士の振る舞いをしたくなってしまうもの。
 やっぱりそんな感じで、世の女性たちが男性の不甲斐なさを嘆くのも、それは女性自身が魅力的な、気品あふれる淑女ではないのも原因なんじゃないのかな…と思った。

 そして物語は、そばかすのエンジェルの友情から恋愛へと発展していく。なんかこれも今更ながらに気づいたことかな、恋愛って、親しい友達関係から発展していくんだっていう。こういうプロセスってけっこう大事。
 そばかす自身はエンジェルのことを愛しているものの、なかなかそれを認めようとはしない。それは自分自身に対する嫌悪、こんな片腕のない姿になってしまったこと、それから自分を捨てた両親への嫌悪など。けれどもエンジェルは主張する、あなたに備わっている紳士の振る舞いや素晴らしい歌声は、あなたの両親から授かったものではなくて?それはあなたの両親を憎む理由にはならないはず。だから私のことも嫌いにならないで、と。

 最後はそばかすが貴族の息子だったという事実を、彼がどんないきさつで片腕と名前を失ったのかをエンジェルが足早に語ってエンドで。これによってそばかすは多大な遺産を受け取ることになるんだけど、彼は本国には戻らず、リンバロストの森が自分にとっての故郷なんだ…と答えるのもまた、お約束的展開ですね。

王冠、知恵、思慮、慈悲、力、美、勝利、光輝、基礎、王国

2011-12-12 23:24:33 | 最近読んだ本
・「ツァディク 異能の者」/デーヴィッド・ローゼンバウム

 マンハッタンのユダヤ人市場で、ダイヤ商人が殺された。天井に吊るされ、腹を引き裂かれて内臓をそこらじゅうに撒き散らすという、残酷な殺され方だった。警察は一応事件の捜査をするも、ユダヤ人たちは警察を信用していなかった。往々にしてダイヤ市場という商売は、表に出せない闇の部分が多いのである。ユダヤ人たちは、この事件はある1個のダイヤに関連するものだろうと目星をつけていた。
 そんな中ユダヤ人たちに呼び出されたのが、ドヴ・テイラーだった。元警官の彼は、アルコールによって職も妻も失い、現在はラビの保護のもと、アルコール依存症を治療するプログラムに参加している。ドヴは話がいまいち見えなかった。なぜ俺が失われたダイヤ捜しを?するとラビはこう言うのだった、お前の祖先はヒルシュ・レイブというツァディク(義人)で、馬と会話ができ、ポーランドのユダヤ人コミュニティを導き、そしてある日道端で死んだのだと。話を詳しく聞くたび、ますますドヴはわけがわからなくなるのだった。

 けれども、雇われ探偵として事件の手がかりを追っていくのは彼にとって格好のリハビリとなった。彼は事件の直前、不審な女がダイヤ商人のオフィスに入っていったという事実を掴んだ。この女を追跡していく途中、ドヴは何者かに襲われる。ナイフでの一撃。薄れていく意識の中で、彼は何者かのイディッシュ語を聞いた。言葉はわからないはずなのに、何故か話している内容は理解できる。それから彼は奇妙な夢、ドヴ・テイラーの祖先、ヒルシュ・レイブの夢を見るのだった…。

 ハードボイルドものというか、途中の第2部で18世紀ポーランドに飛ぶ、歴史小説的な側面もあります。そこで登場してくるのが冒頭で奪われた例のダイヤで、72カラットもの重量を持つこの巨大なダイヤは、古くからユダヤ人と尋常ならざるつながりを持っている…ということが明らかになっていきます。
 この歴史パートも意外と面白かったですね。偉大な人物と伝えられていたヒルシュ・レイブも、実はドヴと同じくアルコール中毒で、酒の酔いに任せて人を殴ったり、色々な騒動を巻き起こしている。そんな彼が、師によって導かれ、地元の領主といざこざを起こしながら命を落とすまで。それが第2部。

 それから時代は戻って現代。奇妙な夢によってヒルシュ・レイブの記憶を受け継いだドヴは、ダイヤを取り戻す決意を一層固める。ダイヤを取り戻し、この事件の犯人を裁くこと。まあそんな感じで物語は結末に近づいていくんですが、ここでドヴもまた、意図せずヒルシュ・レイブと同じ運命を辿りつつあることに読者は気づくと思うんです(まあもちろん、結末は違ってハッピーエンドなんですが)。例えばある集会に門前払いを食らうシーンとか。終盤の、とくに息詰まるシーンなのにちょっと面白いと感じてしまったり。
 最初のほうで出てきた、アルコールに関しての記述も印象に残りました。「酒は不安を覆い隠してくれるが、消し去ってはくれない…」とか。あとはアレです。これって800ページもある分厚い本なんです。こういうのって上下巻に分けてくれないんですかね…。

本当にやる気なし

2011-11-03 06:53:52 | 最近読んだ本
・「このペン貸します」/ローラ・レバイン

 私はジェイン・オースティン…といっても有名作家のほうのジェインじゃなくて、同姓同名の別人。私はフリーのライターをやってる。住んでいるのはビバリーヒルズ…といっても、地区のほうでも貧しい地区に住んでいるもんだから、そんなに自慢できるものじゃない。今は離婚して猫と一緒に暮らし、薄い壁の向こうの隣人はしょっちゅう文句を言いにくる…まあそんな感じの私ってわけ。
 私に依頼に来たのは、見るからにひ弱そうな青年、彼は私にラブレターを代筆してほしいのだという。普段は履歴書や、広告のコピーなどを手がけるのが仕事なんだけど、普通の料金の3倍を出すというものだから受けることにした。まあ私はラブレターを書くものの、彼がお目当ての彼女をゲットできるかどうかは、ねえ…?
 その彼がなんとデートの約束をこぎつけた翌日、彼は逮捕されていた。なんでも彼女の殺害容疑だという。あんなひ弱な彼が彼女を殺すわけがない。が、それでも警察は彼が殺人を犯したものとしてほぼ確定しようとしている。いまいち納得のいかない私は、警察官や弁護士を名乗って現場へ聞き込みする「探偵の真似事」をすることにした…。

 いわゆる「探偵もの」に分類されるというか。主人公は36歳の女フリーライター、猫と一緒に気ままな一人暮らしをしながら、物書きの仕事をし、同時に男にも飢えている。それで、読んでいて、う~ん36歳という年齢はあんまり若くないよなあ…と思える行動の節々がいろいろと。食い意地は張ってるし、いい男を捕まえようと、みっともない真似をすることもしばしば。活字だからビジュアルは見えないはずなのに、あんまり頭の中に若くて格好いい「活発的な女性」の姿が浮かんでこないのが、ある意味すごい、かも(?)。
 あとは「探偵の真似事」と称して事件を調べるのはいいんだけど、この捜査があまりにも小規模すぎる感じがする。事件の現場の近所の住人へ話を聞く。被害者の友人へ話を聞く。被害者の葬式へ忍び込んでみる…。いやもちろんこういった情報収集は大事ですよ?でもそれが何なのか?と問われれば、あんまり面白みや盛り上がりに欠けるというか。この主人公のジェインはあんまり好きにはなれなかったかな。

覚醒鳥

2011-10-04 10:44:04 | 最近読んだ本
・「時間旅行者は緑の海に漂う」/パトリック・オリアリー

 ぼくは当時、心理セラピストとしてはまだまだ新米だった。そこでのクライアントがローラだった。彼女は、自分は宇宙人に育てられたのだと語った。ホロックという、人間の夢を食べるという種族やら、彼女が育った奇妙な宇宙船やら、そこでの環境など…。ぼくは彼女が幼少期に虐待を受けていたのだと診断した。辛い現実から逃れるための、頭の中の空想の世界。
 けれども彼女のホロックの話はあまりにも完璧で、その設定に矛盾はなく、ぼくが反論する隙も見つからなかった。ぼくはセラピストとしての未熟さを感じた。ローラはぼくなんかではなく、他のセラピストで診てもらうべきだ。しかしローラは、ぼくに話を聞いてもらわねばならないと言うのだった。

 それからローラの存在は、次第にぼくの生活に危険を及ぼしていく。ホロックとやらのせいで、ぼくの弟や母親に危害が及んでいる。解決の糸口を探していくうちに、ぼくはローラの育て親の老人・ソールを訪ねることにした。ここでのソールの話もとびきり奇妙なものだったが、ぼくはしぶしぶホロックの存在を信じるほかなかった。
 ソールの話によれば、ぼくは将来ローラとの子供を作り、その子供がホロック達を滅ぼすのだという。そのためにホロックはぼくをつけ狙い、ローラは未来の必然性に導かれてぼくに近付いているのだという。そしてこの問題に頭を突っ込むことになれば、ぼくから時間の連続性が失われ、これからずっと不連続な時間を生きることになるのだと。
 ぼくはこの老人の話の半分も理解できなかったが、とにかくぼくはソールと一緒にハリウッドに隠されているタイムマシンを手に入れ、この問題を解決すべくホロックの世界へと旅立つのだった…。

 テーマとしてはどんなものだろう?時間旅行とか、タイムマシンとか…?たとえばタイムマシンに乗って異世界を旅する、そういった「わかりやすい形」での時間旅行ではなくて、いわゆる「精神世界での旅」。タイムマシンも想像するような仰々しいものではなくて、本当にただのベッドというか、よく病院にあるような手足を拘束するベッドで。この拍子抜けさに、どう反応していいものかちょっと困ってしまう。
 結末としては自分の過去の人生とか、家族の問題とかそういうのに収束して、そういった問題を清算したうえでの、ぼくとローラとの新しい子供の誕生…というエンドになるわけで。確かに全体的な流れを見れば、まあそういうものかと納得してしまうけど、どうにも釈然としない感じというか、読んでいて盛り上がりに欠けたというか。でもまあ精神世界というと最終的にすべて内へ収束してしまうようなものだから…、う~んやっぱりそういうものか。と、自分を無理やり納得させる。

iPodとプレイステーション

2011-08-13 05:10:07 | 最近読んだ本
・「道化の館」/タナ・フレンチ

 わたしは以前、潜入捜査官として働いていた。架空の人格を作り、その人の家族構成や友人関係を作り、その人になりきること…。それはわたしにとってすばらしく、神聖なもので、天職と考えていた。そんなわたしは今では第一線を退き、DV課の刑事として家庭内暴力の仲裁をしている。
 そんなわたしが招集されたのは、潜入捜査課の元上司からだった。現場に呼ばれてみると、そこにはわたしそっくりの女性の刺死体があった。名前はレクシー・マディソン、もちろん自分とはまったく関わりのない人間。

 この殺人事件には手がかりがまったくなかった。ほとんど人のいないイギリスの田舎村、現場は雨だったので指紋も見つからない。ならば、そっくりの君がレクシー・マディソンになりきり、彼女は殺されたのではなく、怪我を負ったものとして彼女の生活を再開してみてはどうか。そうすることによって犯人が君にアプローチしてきたりと、何か事件の手がかりが見つかるのではないかと。
 殺される前のレクシーは4人の若者と郊外の古い屋敷に住んでおり、そこで彼らはネットもテレビもない、奇妙な隔世の生活を送っていたという。また彼女は大学で論文を書いている途中で、これもわたし自身の専攻科目とそれほどずれていない。レクシーになりきる要素は十分だった。綿密な調査と打ち合わせの上、意を決したわたしは、4人の若者との共同生活へ潜入していくことになる…。

 別の誰かになりきる、という話はミステリージャンルの中では王道で、このスリルや緊張感は読んでいてなかなか面白いですよね。この話では主人公のわたしが元潜入捜査官、それに被害者が自分そっくり…とすでに舞台は揃っている。ならばすぐにでも潜入GO!といきたいところなんだけど、序盤ではなかなかそう踏み切れる勢いにならないのがもどかしい。
 潜入捜査課の元上司やわたしの今の上司たちが事件について検証を重ねていて、潜入という捜査方法があまりにも特殊であるが故の慎重な判断、それからわたし自身の意思の尊重も…。そんな葛藤が最初のほうで続いているので、読んでいてちょっと面白くないかもしれません。

 屋敷の共同生活に潜入してからは、まるで主人公のわたし自身がレクシーだったかのように、すんなりと彼女は若者たちに溶け込んでいく。一緒に勉強したり、屋敷を修理したり…お気に入りの木の上に登って本部と定期連絡をしながら、なかなか楽しげに捜査は進んでいく。ずっとこの生活を続けていたい、今すぐこのマイクと無線機を外して、彼らの仲間に入りたいと思うほどに…。そんな幸せの絶頂から崩壊、やがて彼らが語る事件の真相。
 やっぱり後半からの展開がすごく面白くなってきます。ある細かいことから住人の一人に正体がばれて、同時に捜査本部からもタイムリミットが突き付けられる。これまで屋敷の中で正体を明かすまいと守りの姿勢だったわたしが、今度は彼らの間の小さな隙間を見つけて攻勢に出る…。

 キャラもなかなか魅力的で、この女主人公のキャシー・マドックス刑事は作者の前作に登場してきたキャラクターとのこと。前作はちょっと読んでないんでどういうのかわからないんですが、本作品中でもしばしば回想内で前作のことを振り返っています。
 それでこの作者の次の著作…、今度はこの潜入作戦を指揮した彼女の元上司が主人公というからちょっと楽しみ。この人もなかなかに一筋縄ではいかない人物で、捜査中も些細な手がかりに気づいたり、キャシー刑事のバックアップのために多方面から裏に手を回したりと切れ者ぶりを発揮している。う~んそれじゃこの人の前作「悪意の森」も読んでみるかなあ。

どうにもやりきれない

2011-07-17 18:24:27 | 最近読んだ本
・「墜落のある風景」/マイケル・フレイン

 ぼくは本を書くために田舎に引っ越してきた。妻と。ぼくたちの小さな赤ちゃんと。ぼくは哲学から絵画の方面へと専門分野を転向しつつあるところだった。漠然とした根拠はないものの、ここで何か書けるという予感はあった。
 新しく越してきた者の常として、ぼくらは隣人のチャート氏に食事に招かれた。チャート氏はぼくらが絵画を専門としているのを知り、ぜひ我が家のコレクションを見てほしいと申し出てきた。なるほど、ぼくが専門としている時代とは外れているものの、それなりに価値のあるコレクションではある…しかし、物置に置かれた一枚の絵を見るなり、ぼくはあっと息をのんだ…もしかすると、この絵はブリューゲルではないのか!?
 ぼくはつとめて無表情を装いながら、チャート氏の話を聞いていた、彼はこの大きな屋敷を維持するために、少しずつ絵のコレクションを売りさばいているという。もしこの中で価値のありそうなものがあれば、何枚かを売って金にしたいと。ぼくはこの話に食いついた。コレクションの何枚かを画商へ売って、手数料を山分けする傍らで、このブリューゲルはあまり価値のない物だったよ、と言ってぼくの手に入れてしまおうと。その瞬間から、ぼくの中でこのブリューゲルは「ぼくの絵」となった。世界的な富と名声を得るための、ぼくの絵。

 ブリューゲルは16世紀ベルギーの画家で、この時代の多くの画家がそうであるように、画家自身についての生涯についてはあまり詳しくわかっていない。「雪中の狩人」「牛群の帰り」「暗い日」「干し草狩り」「収穫」など、農民の当時の生活を緻密に描きこんだ画家である。これら5枚は一年の四季を表現した連作と見られているが、四季というのに5枚あるのは不自然だ。夏のテーマの作品が2枚もあるのもおかしい。となれば、これら5枚のほかに失われた絵が存在するかもしれないという仮説も、ごく自然である。ぼくの絵はブリューゲルの連作の一部、「春」に相当するものではないのか…?こうしてぼくはブリューゲルの謎を解き明かしつつ、チャート氏から絵を奪うための作戦を着々と進めていたのだが…?

 話は主人公ぼくのブリューゲル研究と、チャート氏との巧妙な騙し合いの2つで構成されているんだけど、ブリューゲルの謎自体があんまり面白くないし、よくある歴史的な宗教弾圧の話に収束してしまうので、かなり退屈な感じ。しかも主人公が学者肌なものだから、ついつい研究に夢中になってしまって、絵を買い取るという現実的な問題にほとんど手をつけていない…という頭でっかちな状態に陥ってしまう。まあそこらへんは後々の展開に影響してくる重要なポイントではあるんだけどね。
 物語が大きく動くのは終盤も終盤、実はチャート氏にはいろんな裏事情があって…という事実が発覚してからなんだけど、やっぱりこうなるまでの展開が遅い…。美術品の素人が金儲けをたくらむ、そういう話は面白いんだけど、やっぱりどうにもそれまでの道中が長すぎます。

いやこれ本当に最悪なんですけど。だから腹黒いって言われるんだよ

2011-06-26 22:43:50 | 最近読んだ本
・「珈琲相場師」/デイヴィッド・リス

 大航海時代のアムステルダム。砂糖市場の投資で失敗したミゲルは多大な借金を負い、弟ダニエル夫婦のもとで居候する生活を送っていた。そこへミゲルの知り合いの未亡人が、彼にある話を持ちかけてくる。当時は医薬品として使われていたコーヒーで、彼はそれをひとくち飲むなり確信した。これは金になると。
 その日からミゲルは、すっかりコーヒーの虜になってしまった。コーヒーを飲むと頭がすっきりして、仕事がはかどる。コーヒーは商人の飲み物として、大流行するだろう。やがてミゲルの頭の中に、コーヒー市場を独占する計画が完成しつつあった。リスボン・マドリード・オポルトなど、主要な交易所のコーヒーを同時期に一気に買い占め、ヨーロッパじゅうのコーヒーを手に入れてしまおうという計画だ。

 ミゲルは未亡人にこの計画を話し、出資金を募る。お金さえ用意できれば、あとは各地方の交易仲間に手紙を書いて実行あるのみだ…しかしミゲルのコーヒー交易に、不必要に頭を突っ込みたがる輩がいた。
 マアマドというユダヤ人コミュニティの役員パリド、彼はマアマドの権力を使ってでも執拗にコーヒー交易の内容について迫ってくる。そしてミゲルの弟ダニエルも、コーヒーで商売を始めているんじゃないか、コーヒーの商売はやめておけ、と口をはさんでくる。しかしこの程度でへこたれるミゲルではない。ヨーロッパいちの金持ちになれるチャンスなのだ。計画を強行するミゲルだったが、宿敵たちはミゲルの行く手を阻もうと、次々と策略をめぐらせていくのだった…。

 やっぱり大好きなんですよ、大航海時代。でも今回は船の冒険譚じゃなくて、輸入品を売って儲ける商人たちのお話。なぜ、世界の貿易の中心地が(地理的に不便な)オランダ・アムステルダムにあるのか…という点はあまりはっきりした理由はないらしくて、それはオランダ人の気質によるところもあれば、様々な迫害から逃れてきた難民たちが集まってきて商売を始めたから…、というふうに作中では説明されています。
 そしてもうこの時代には「先物」という商売が成立していて、倉庫に無い物を取り扱う仕組みが出来上がっていた。そのため、ある商品の相場が下がるという噂を流したり、仲間内で協定を組んだりという現代的な情報戦が行われていたようです。

 それで、この主人公ミゲルがなかなかに好青年って感じで、情熱的で行動的、ユダヤ教の戒律に則り、金儲け以上に慈善を好む性格。そんなハンサムなミゲルを女性が放っておくわけはなく、居候先の弟の妻・ハナとも何やら不倫めいた関係に発展していく。う~ん、このあたりの女性の心変わりは少しばかり現代的すぎるような気がするんだけど…。まあ、彼女がこっそり口にするコーヒーの力によって彼女本来の心が解放されていく、と解釈すればそうなのかもしれないですね。それがこの作品で語られる、もうひとつのストーリー。
 で、このハナはラストで元夫のダニエルのもとを離れミゲルと一緒になるんだけど、これもまた自由国のオランダとはいえ大胆すぎる行動かな…。とはいえ、最終的に勝利してコーヒー市場を制するミゲルと、実は黒幕に一枚噛んでいて、妻も財産も失ってしまうダニエル。これらの対比を際立たせるために、こういう展開になったのかも。

身体がちぎれそうに痛い

2011-06-21 04:29:33 | 最近読んだ本
・「地球最後の野良猫」/ジョン・ブレイク

 恐ろしい猫インフルエンザによって、地上の野良猫は一掃され、厳しく管理されることになった。猫を飼うことができるのは、ほんの一握りの金持ちだけ。世界はそんな猫ビジネスを独占的に経営する、ひとつの会社に支配されていた。
 そんな中、貧しい家庭の少女ジェイドは偶然にも裏山で猫を拾うことになる。首輪の付いていない野良猫。野良猫を飼うことは法律によって罰せられるのだが、彼女は猫に魅せられ、お母さんを必死に説得して内緒で飼うことになった。
 フィーラと名付けられた三毛猫のメス、そんなフィーラとの楽しい生活が始まったのだが、やはり秘密は漏れるもの。しばらくするうちに管理局(コンプロット)によってフィーラの存在を感づかれてしまう。コンプロットの突然の襲撃によってジェイドは住む家を追われ、男友達のクリスと一緒に逃亡する。フィーラのことをただ一人打ち明けたクリスの言うことには、アイルランドは今革命が起こっていて、そこへ行けば法律にとらわれずに、猫を自由に飼えるというのだ。こうして少女と猫と少年は自由を求めて、アイルランドへ旅することになる…。

 これ以上ないほどのシンプルな世界設定とお話。何よりも、猫を愛おしがる小さな女の子の純粋な感情に、ちょっと照れてしまうほどで。う~んやっぱりこういうのはおっさんの自分には大ダメージだ…。まあそんなに長い話じゃないんですけどもね。その他にも様々なシーンに散りばめられている、ピュアでみずみずしい少女の感覚に悶絶しながら読んでました。
 さて、猫インフルエンザとはいうけれども、それは本当に人間に感染するものだろうか?と道中で少年クリスは主人公のジェイドに問いかけます。キミの信じているメディアは本当に正しいのか?と。猫ビジネスを独占するための言い訳にすぎないんじゃないか…と。まあそこらへんの真相は明かされないんですけど、インターネットやらの電子メディアが出てくるのは「今っぽい」感覚を受けます。

 ラストの終わり方もこれまた、王道的なジュヴナイルで。色々な騒ぎを起こしたということでしばらく彼女は少年院へ入ることになるんだけども、そんな中少年院の仲間がこっそり差し入れてくれた、クリスからの音声のないビデオレター…「きみをいつまでも待っている」と。そこには子供を産んで、新たな家庭を築きつつある彼女の猫の姿も映されているのです。


適当

2011-06-09 23:57:42 | 最近読んだ本
・「観光旅行」/デイヴィッド・イーリイ

 バスは観光旅行客を乗せて荒野を走っていた。しかし早くも旅行客たちはこのツアーにうんざりしていた…窓から見えるのは埃だらけの集落に、未開の原生林、みずぼらしい馬車だけ。彼らは「何か」を求めてこのツアーに参加したのだった。普通とは違った刺激。世界にはまだ自分の体験したことのない、「何か」が残されているのではないか、という思い。そんな漠然とした期待を胸に秘め、バナナ以外にはなんの産業もない貧しい「バナナ共和国」をバスで移動している…。
 そんな正体のわからない、いかがわしいツアーについてアメリカ大使館のマクブッシュは一応の聞き込みを試みるも、旅行会社の社長ガーガンはわれわれは何も違法なことはしていない、と主張する。もちろんマクブッシュ自身もそれが違法でないとは思っていないし、本心でいえば、この件には一切関わりたくない気持だ…何事もなかれ、が外交官の本分なのだから。それでもとりあえず、ツアー中の観光客の中から一人のアメリカ人、フロレンタインを呼び出し、ツアーの中で何が起こっているのかを報告するよう頼んだ。

 一方で社長は、旅行客を楽しませるための次なる舞台装置を準備していた。人を発見して、撃ち殺す機械。これを原住民の野に放って旅行客に楽しんでもらおうという計画だ。この打ち合わせ途中で、社長は旅行客の一人・フロレンタインがアメリカ大使館と通じているという情報を耳にはさむ。どこまで事情をつかんでいるのか分からないが、とにかくフロレンタインにはツアーを中止してお帰りいただくしかないようだ。彼の部下がフロレンタインを拘束するも、怠け者の部下が彼を取り逃がしてしまい、ジャングルをさまようフロレンタインの前に例の殺人マシーンが現れて…。

 無理やり話をまとめるとこんな感じだろうか。とはいえ前半はまったく話の方向が見えない謎のままに進んでいくので、読んでいる読者もちょっとした不安感を覚える。それでいて観光旅行という日常から離れた環境にいるので、これにちょっとした解放感も加わる(まるで実際に観光旅行をしているように)。別にそれでもいいんだけど、でも話の主題としては、そういったところにはないと思うんですよね。
 で結局、話の向かう先は一体何なのか?という。それは、自分は「退屈」にあると思う。旅行客たちは、成功した自分の人生に退屈し、新たな刺激を求めている。それはバナナ共和国にいる社長や、大使館のマクブッシュも同じく退屈を感じている…。そんな退屈の行きついた先が、人を感知し手当たりしだいに殺していく機械、というゲーム。
 拷問や殺し合いのゲームは堕落した権力者なら古今東西、誰でもやっていること。わかっていても彼らはそれをやめることはないし、また殺される側もそれを止めることはできない(このくだりは、社長みずからセリフとして言葉に発している)。まあそんな退屈のゲームが、殺人マシーンとハメを外す観光客という形で表わされているんじゃないでしょうかね。

もう最悪だ…

2011-05-15 10:04:08 | 最近読んだ本
・「族長の秋」/ガブリエル・ガルシア=マルケス

 もうずいぶん前から大統領府は不気味な静けさに包まれていた。意を決してわれわれが大統領府へ入ると、建物の中は家畜によって荒らされていた。牛たちが花壇の花やソファのクッションを食いやぶり、ニワトリが部屋中にふんを散らかしている。そしてそれらをつけ狙うハゲタカが、大統領府の金網のかかった窓を突き破り、我が物顔で家畜をついばんでいた。
 幾重にも施錠された建物の奥で、一人の男の変死体があった。ひどく年老いて、象のようにつぶれた足、何倍にも膨れ上がった睾丸。この男が大統領なのだろうか?思えばわれわれは、大統領がどんな姿だったかを思い出すことができない。覚えているのはわれわれが生まれる前からこの国の首領を務め、絶大な権力で何百年もこの国を独裁的に治めていたということだけだ。このようにして物語は大統領の肖像を、ときに大統領自身の視点から、またときには大臣たちの視点から描き出していく。

 …とまあ、107歳から232歳とも言われる年齢で死去した年齢不詳の独裁者の物語、その長い長い執政期間での数々の自己中心的で残虐なエピソードが綴られていくわけで。まず何よりも目を引くのは、改行も段落もないズラズラと続く文章の連続で、隙間なくページを埋め尽くす膨大な文字量に圧倒される。初めはこの息継ぎのない文体に苦労するんだけど、読んでいるうちにけっこう慣れてしまうもんである。まあ確かに、最初は読むのにちょっとだけ根気が要るんだけどもね。
 それから作中で視点がしょっちゅうコロコロ変わるというという点。ある場面では大統領自身の独白から、いつの間にか大臣や一般庶民の視点にすり替わり、一人称も大統領の「わし」から、市民の「われわれ」、大統領夫人の「わたし」など…。この混沌とした文章を読んでいくうちに、視点や時間の概念すらあいまいになってしまい、まるで終身大統領となった大統領の永劫の時間の中にいるかのような感覚に陥る。

 話としてはどちらかといえば寓話的な、きっとどの年代の読者にも共感できるようなものだと思う。俺が感じたのは、いつまでも権力に執着し続ける大統領の姿。時代に取り残された老害の姿。これって今の日本の老人たちの姿とも重なるよね。いつまでも自分たちが主役でいたい、いつまでも権力を持っていたい、という。
 大統領は自室の窓から見える、女学校の生徒たちが登校するのを見るのを楽しみにしているんだけど、100年の時代の流れから学校は廃止になり、いつしか大統領だけのために街の女たちを女生徒に仕立て上げ、自室の窓のそばを通らせるようになる。あるいは大統領のためだけに、大統領が望むニュースだけを載せる新聞を作る、大統領のためだけに、大統領が望む展開のラジオドラマを放送する…。
 う~ん、やっぱり時代に適合できなくなった老人は、自分たちだけのために時代を曲げたりせずに、さっさと消えたほうがいいんじゃないですかね。と言えるのは、まだ俺が若い世代だからなのかもしれないけど。