draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

2023-04-22 22:22:22 | 最近読んだ本
・望郷太郎/山田芳裕

地球規模の寒波から逃れるためにコールドスリープに入った舞鶴太郎。しかし妻と子供のコールドスリープは電源切れによって200年前に死んでおり、太郎は一人、500年後の地球で目覚めることになった。
せめて日本がどうなっているのか、日本の地を踏んでから死にたい。絶望の中にかすかな希望を持ちながら、太郎はバスラ(イラク)のシェルターから旅立つのだった。

500年前の大寒波の後に地球の文明はリセットされ、生き残った人たちは絶滅した文明の廃材を使いながら原始的な狩猟生活を送っているようだ。太郎は道中出会った人々から助けられながら、旅を続けていくことになる。

といっても「日本への旅」が主題になっているのではなくて、文明がどのように再興していくのか、文明の中で貨幣がどのように生まれて社会システムとなっていくのか?…というテーマをメインに描こうとしているように見える。マンガなんだから、ポストアポカリプスをサバイバルしていくだけでいいじゃないか…と思うけど、そんな中でややもすれば読者が離れていきそうな、なかなか難しいテーマをやろうとしていることに注目。マンガ自体は面白いと思うよ。

最新話までは読んでないんですが、大寒波後の人類はレアメタルを貨幣とする国家を作り始めており、行く先々では、早くもそれによる圧政や紛争が起きている。太郎は村の人々が平和に暮らせるために、大国から独立し、新たな貨幣を作ろうとしている…といったところで。そのあたりの手腕が、かつて経営者として働いていた太郎の経験が役に立ってくる。

政治・宗教・戦争と金。人間は金の奴隷なのか?金は、人間が殺し合いをせずに平和に暮らすためのシステムではないのか?500年前の経営者時代の記憶を重ねながら、太郎は新しい世界を作ろうとしている。うーむやっぱり一筋縄ではいかないテーマだな。
以下続刊なので最終的な結末はどうなるかわからないのだけれども…やっぱり無理でした、崩壊前の文明と同じく金は人を不幸にするものでした、なのか、作者なりの答えが用意されているのか…。完結したらまた読むかもしれない。

おなかが

2021-12-09 00:57:57 | 最近読んだ本
・スカウト52/ニック・カッター

 その男はとても痩せていて、そしてとても空腹だった。地元のカフェレストランに姿を現したその不気味な男は、ありえないほどの量を食べ、それからボートを盗んで、近くの無人島へ渡ったという。その無人島では、5人の少年と引率の医師がボーイスカウトのキャンプをしているところだった。
 島の海岸で、男が倒れているのを発見した医師のティムは、男を介護しようするが、男は暴れだし、無線機を破壊してしまう。男の様子が気になる少年たちだったが、ティムは少年たちへ、予定通りハイキングに行って来いと命ずる。大丈夫だ、問題ないと。ハイキングから帰ってくれば、この病気の男にしかるべき処置を行い、本島に送り返して、すべて元通りになって、うまくいくと。
 しかし少年たちがハイキングを終えてキャンプへ戻ると、ティム医師はすっかり痩せこけて疲労しており、鎮静剤を打ってどうにかして男を小屋に閉じ込めたところで、子供たちの目にも、事態が好転していないことは明らかだった…。

 無人島で繰り広げられるサバイバルホラー。
 痩せた男の病気の正体は、いわゆるサナダ虫のような虫であり、その回虫は人間の体の組織を強力に食べ尽くし、死に至らしめる。もとはダイエットの薬として開発されたものらしい…ということが章の間で語られているのだが。不老不死の薬、ダイエットの薬、ハゲを治す薬。これらは人類の夢とも表現されてますけどね。その回虫が見知らぬ男からティム医師に感染し、その後も一人、また一人と感染していく。

 少年たちの造形について、たとえば5人の中でオタク少年がいて、彼は他の子たちからはいじられ役みたいな感じでいじめられてるんだけど、すごく仲が悪いというわけでもない。ゆるい田舎の街ということで、意気投合したり、一緒に遊んだりした過去エピソードが合間に語られている。
 あと、大人のティム医師からの視点。子供たちの喧嘩に大人が介入するのはよくないという、なぜなら大人が助けてしまうと、子供はいつまでも大人頼りの人間に成長してしまうから…、彼は立派にオタクであってほしいという意見。

 サバイバルホラーのテイストのほかに、少年たちの青春小説という側面もあるんだけど、なんかあんまりそういうのは感じられなかったかなーという。単に、子供たちが感染して死んでいくのはおつらいものが…コロナ禍の、今の時代だけにね。
 そして後半に、信じる力という概念がちょっと出てくる。生き延びることができるのは、信じる力があるからこそ、という。大人たちはもう信じていないけど、子供はサンタさんや、そのほか迷信とか、目に見えないものを信じている。だから生き延びることができるという。それらを信じなくなることが、大人へ成長していく、変わっていくということなのかもしれない。

Angels We Have Heard on High

2021-10-05 22:22:22 | 最近読んだ本
・エヴァーロスト/ニール・シャスターマン

 14歳のアリー(アレクサンドラ)とニックは、自動車の衝突事故によって命を落とした。二人が目を覚ますと、森のような場所にいて、変わった格好をした男の子がいた。
 ここはエヴァーロストと呼ばれる生者と死者の狭間の世界で、ここでは時間も、空腹も、呼吸も、一切の心配もせずに過ごすことができるという。しかしアリーにとってはそんなことはどうでもよかった。こんなところより家に帰りたい。家族のもとに帰りたい。それはニックも同じ意見だった。
 二人は森を抜け、歩いていくうちにニューヨークに到着する。そこにはテロで崩壊したはずのツインタワーがあって、アリーのような子供たちが多く暮らしており、メアリーという年長の女の子が支配していた…。

 エヴァーロストという、不思議な世界のお話。
 そこは単純に楽園じゃなくて、死者の世界に行くことのできない、さまよえる魂が集まっている感じで、見た目的には半分現実世界が入ってるんだけど、アリーのような死者は現実世界に干渉することはできない。ただし、現実世界の物を動かしたりと、何かしら干渉する方法はあるらしいのだが。
 メアリーの支配するツインタワーは一見安全だけど、実は毎日同じことの繰り返しループであり、堕落であることに気付いたアリーは、メアリーの元を離れる決心をする。何よりアリーの目的は、家に帰ることだから。

 子供たちが主人公の、子供向けストーリーといった感じだけど、ダークなちょっと怖いテイストもある。誰しも、死んだ後の世界で際限なく泥の中に沈んでいくとか、こんな夢を見たことがあるかもしれないよね。死者の魂が人に憑依して、ある程度動かせるというのは映画「ゴースト・ニューヨークの幻」を思い出した。っていうかこれも相当昔の映画だなこりゃ。
 最終的には、アリーが家に帰れたのかは語られずに話としては閉じないんだけども、エヴァーロストという世界は続いており、新たなさまよえる魂がまたここに入ってきて、メアリーは手を変え品を変え子供たちを受け入れる…みたいな感じの結びです。

teardrops

2021-08-14 13:36:47 | 最近読んだ本
・時の地図/フェリクス・パルマ

 アンドリューは最愛の人メアリーを切り裂きジャックに殺され、絶望の底にあった。
 あれから8年も経った今も虚ろな人生を送っている彼だったが、いとこのチャールズがある話を持ってくる。近年発表されたH・G・ウェルズのSF小説「タイムマシン」のように、西暦2000年への時間旅行ができることが今話題になっているということだ。

 西暦2000年へ行けるのならば、8年前にさかのぼって、恋人が殺されるのを阻止できるかもしれないと。アンドリューはいとこに説得され、時間旅行社を訪れるのだが、旅行社の社長によれば、行けるのは2000年のみで過去にタイムスリップすることはできないという。では、この2000年への旅とは何なのか?それはタイムスリップという科学技術ではなく、ある種の魔法ということらしい。時間旅行社の社長は、奇妙な話を語り始めるのだが…。

 次々と現れる新たな展開が見事な作品で、どんどん読み進めてしまう。実は冒頭に出てくるアンドリューは主人公じゃなかったりするんだけどね。後半からは、2000年の未来の男に恋する少女が出てきたり、時間旅行というロマンに魅せられた、様々な人物のオムニバスといったところだろうか。
 特徴的なのが、19世紀イギリス文学を倣ったような文体。まあぶっちゃけていえば、くどい・説明過多・作者が現れてどうでもいい方向に話が逸れるetc…、ストーリーが面白くなかったら、もうそれだけで脱落しますけどね。面白かったからまあ許す。

 作中でのタイムスリップの概念は、たとえ過去に行って事実を変えたとしても、自分の未来が変わるわけではなく、事実を変えたパラレル世界が分岐して生まれるだけ。だからアンドリューが切り裂きジャックを殺して恋人を救って現代に戻ってきても、恋人は生き返ることはない。ウェルズはそのように説明する。

 まあネタばらしをしてしまうと、これらの時間旅行はデタラメであり、裏方の人々によって巧妙に仕組まれた演出ではあるんだけど、それを信じて、救われる人もまたいるということがテーマじゃないかな。切り裂きジャックを殺して、恋人を救ったという結末。二度と会えない、未来の男に恋をしたという結末。偽りだとしてもその結末に満足して、人は幸せな死を迎えられるということ。

 でもこれだけで終わらないのがすごいところ。
 ある日ロンドンで、2000年の光線銃で殺されたような、身体にぽっかりと穴の空いた死体が発見される。ウェルズの未発表の小説の一節が、壁に落書きされる。そう、タイムスリップは実在して、未来から時間旅行してきた人物が、このロンドンに潜んでいるのだ。未来からの時間旅行者はウェルズらを呼び寄せ、パラレルワールドの恐ろしい真実を伝えるのだが…。最後のジェットコースターぶりはなかなかにすごいですね。これだけで続編ができるんじゃないかと思うぐらいに。

strive

2021-07-25 20:00:00 | 最近読んだ本
・ブリリアンス/マーカス・セイキー

 80年代より、常人をはるかに超えた異才の能を持つ「能力者」が少数生まれるようになり、世界はこの「能力者」によって大きな発展を遂げた。しかし、世間は能力者たちを畏れており、多数の非能力者たちは、少数の能力者たちにいずれ支配されるのではないかという不安を抱いていた。
 そのため、能力者が生まれると、アカデミーと呼ばれる施設によって慎重に管理される。能力者としての才能は維持しつつ、社会の脅威とならないように、従順になること、厭世的であることを植え付けるのである。

 主人公のクーパーは能力者でありながら、犯罪者の能力者を追跡し、場合によっては抹殺するエージェント。すべては世界をより良くするため、自分の家族のために働いてきた。彼の所属する対策局は今、何百人もの犠牲者を出した能力者のテロ首謀者を逮捕することに全力を挙げている。
 クーパーはひとつの提案を出す。能力者としてテロ組織に潜入し、首謀者に接近できないかと。そして首謀者を逮捕するなり暗殺できないかと。万が一失敗すれば、調査対策局自体が失墜することにもなりかねない、リスクをともなう大きな賭けではあるのだが…。

 派手な能力バトルものにフォーカスしているわけではなくて、異能力者が存在する社会や人間関係という、このあたりが細かく描写されている。たとえばそれが、アカデミーという更生施設だったりね。能力者は、社会の中ではいわゆる異端で、差別され、脅威となる存在であるのだが、そんな能力者に、もし自分の子供がなってしまったら…?という話。
 主人公の子供に能力者としての兆候が表れ、彼は苦悩する。このままいけばアカデミー行きで、彼の子供にはつらい人生が待っているだろう。テロ首謀者を挙げることによって、なんとかそれを見逃してもらえないかと。主人公が戦うのは、平和という大義のためじゃない。自分の家族の安全のために戦っているんだと。

 主人公の能力と言っても、そんなスーパーマン的なものじゃなくて、相手を観察することによって、何を考えているのか、どう行動するのかが読めるというもの。そのおかげで近距離から撃たれても弾丸をかわせたりする。ほんのちょっとだけね。
 能力者的なのかどうかわからないけど、推理バトルは面白いかもしれない。敵はある重要なものをどこかに隠している。いつでもそこに行けて、誰もいなくて、長い間放置していても安全な場所。その隠し場所はどこなのか。こういう謎解きで引っぱっていくのは基本ですよね。

2020-01-09 18:52:59 | 最近読んだ本
・「卵をめぐる祖父の戦争/デイヴィッド・ベニオフ」

 第二次世界大戦当時、私の祖父はサンクトペテルブルグに住んでいた。兵士になるには1歳若かった祖父は、その代わり街の消防団(いわゆる自警団のようなものだ)に所属し、敵の来襲から自分の街を守ること、それが自らに課せられた使命のように感じていて、毎日アパートの屋根に登って、ドイツの戦闘機が飛んでくるのを監視していた。家族はみな疎開していったが、戦火が激しくなっていく中でも、祖父は、決して自分の街を去ろうとはしなかった。
 そんな祖父が、ある日、軍の大佐から呼び出され使命を受けたのだった。大佐の娘が結婚式を挙げるので、結婚式のケーキを作るために、卵を1ダース調達すること。
 とはいえ、こんな街に卵なんて残っているのだろうか?どうやって手に入れればいいのだろうか?祖父は相棒のコーリャとコンビを組み、廃墟の街で新鮮な卵を探しにいくのだったが…。

 戦火の街を舞台に、少年たちが繰り広げるお気楽な(ぜんぜんお気楽じゃないんだけど)冒険譚。相棒のコーリャがなかなかにいいキャラクターで、彼は脱走兵ということで連れてこられたらしいのだが、本人は否定しており、美形で、物腰も優雅で、どんな悲惨な状況でも文学を引用して、皮肉や冗談をいうのが大好き。彼がなぜ脱走兵となったのか、そういった身の上話も、物語が進むにつれ、彼らしい口調によって語られるんだけどね。
 なによりも、彼がいることによって、話全体が戦争の悲観的じゃない雰囲気になっていて、(ぜんぜんお気楽じゃないんだけど)やっぱりおもしろおかしいムードを出している。

 途中からは、2人の旅にヴィカという少女も加わる。パルチザンのメンバーで、少女とはいえ優秀な狙撃手で、敵のドイツ軍兵士を何人も殺しているという。「鼠たちの戦争」もそうだったけど、ロシア人っていうのはスナイパーの血でも流れてるんですかね。多感な年ごろの主人公としては、ヴィカのことがあれこれと気になっていて、面と向かうと、ドギマギしてしまったり。
 そんな彼らがどうやって敵のドイツ兵から逃れ、卵を手に入れることができたんでしょうね?というお話です。

roboroo

2017-07-31 15:18:13 | 最近読んだ本
・黒い夏/ジャック・ケッチャム

 今から4年前、キャンプ地で地元の不良少年が少女2人に発砲し、死亡するという事件が起きた。警察はレイという少年を最有力容疑者として目をつけていたものの、結局証拠不十分ということで捜査は打ち切られてしまった。そして今、長らく意識不明だったもう一人の少女も死亡し、チャーリー刑事はこれを機に、もう一度この事件の捜査を開始することにする。
 これまで警察からの聞き取りをのらりくらりと躱してきたレイだが、今度こそチャーリー刑事は、レイを追い詰めることができるのだろうか…?

 いきなり罪のない女の子が無残に殺されるという胸糞悪いオープニングなんだけど、それが終わると物語は意外に淡々と進んでいく。
 物語の舞台は1960年代で、都会からは離れた田舎町。あの衝撃的な事件のほかには何もない、のんびりとした、退屈な日常が流れているというのもあるかもしれない。ラジオからはローリング・ストーンズやビートルズが流れ、子供たちは近くの池で泳いだり、マリファナを吸ったりして一日中遊んでいる。

 で、冒頭で女の子を撃ち殺した不良少年のレイも、まるっきりイカれた奴というわけじゃなくて、実家のモーテルの手伝いをしながら、女の子をナンパしたり、セックスしたり、酒を飲んだりしているという、ごく普通の年頃の不良少年だ。そして彼はこの夏、都会からやってきたキャサリンという子に対し、どうにか気を引こうとがんばっているところである。

 このキャサリンという子も都会っ子という性格というか、色々と複雑な境遇の子で、レイもドン引きしてしまうほどのエキセントリックな一面を見せる。それに負けじと、ついついレイも、ある時自分が犯した殺人を告白してしまうのだが、それをきっかけに危ういバランスで保たれていた彼の正気性が一気に崩れていって…。

 残酷な殺人シーンもあるけれども、やはりレイの元の部分は思春期の少年であり、いろんな不安やコンプレックスを抱えて、ときに感情を爆発させるのは他の人と何ら変わりない部分だ。読んでいるうちに、少年少女たちの若い感情の昂ぶりやぶつかり合いといったものが、ときに痛いほど(見てて恥ずかしいほど)に感じられて…そういったインパクトの強い作家なのかなと思いました。

添付文書B

2017-03-28 02:46:03 | 最近読んだ本
・極大射程/スティーヴン・ハンター

 ベトナム戦争で伝説的スパイパーとして活躍したボブは今、田舎の大自然に囲まれて隠居生活をしていた。戦場で腰を撃たれて退役し、リハビリと酒の荒んだ日々の後は、毎月少しばかりの年金を受け取って一人静かに暮らしている。そんな彼のもとへ弾薬会社の人間が訪ねてきた。精密なスナイパーライフルの弾丸を作っており、その精度は手製の弾丸にも決して劣らないという(長距離射撃を行うスナイパーはしばしば、自分で弾薬を調合したり、弾頭を手で削ったりして精度を高めるという。)

 こうやって彼に接触してくる人間の中には、スナイパーの腕を見込んで特定の人物を暗殺してほしい、という依頼もあった。しかしボブ自身はそういう依頼を断ってきた。殺すことは、法律にも主義にも反しているからだ。

 しかし今回、ボブはおだてられ、用意周到な計画にまんまと乗せられてしまう。接触してきた人物の正体は、やはりCIAだったのだ。彼らの依頼とは、スナイパーとして、大統領の狙撃を予測・分析すること。彼らが突き止めた情報によると、ロシアはあるスナイパーを使って大統領暗殺を計画しているというのだ。そしてそのスナイパーこそ、かつてボブの腰を撃った因縁のスナイパーでもあるとのことだが…。

 人生のすべてをライフルに捧げる、いかにも男臭い主人公といった感じで、読み始めればすぐにこの寡黙で熱いハートを持ったボブのキャラクターが好きになるだろう。やはりスナイパーっていうのは男の世界だよね、うん。身体とライフルをしっかり固定し、呼吸を整えながら射撃体勢に入る瞬間は、まさに神聖な領域と化す…。

 そして、もう一人の主人公ともいえるのがニックで、元SWAT隊員の狙撃手だった彼はとある誘拐事件にて300ヤードの狙撃を失敗し、人生のどん底に落ちた男である。彼はその後、間違って撃ってしまった人質の女性と結婚するが、彼女を病気で亡くした直後、新たな事件に遭遇することになる。
 このニックも、明るく、人当たりが良くて、なかなかのナイスガイだ。FBIやシークレット・サービスのお役所的な体質にもめげず、懸命に職務を遂行しようとしている。

 そんな2人が大きな陰謀に巻き込まれ、やがて共闘していくのだが、このバトルがかなりスリリング。何度も窮地に追い込まれ、絶体絶命になるんだけど、このボブという男は抜かりなく、あっさりと逆転し逆に攻勢に出る。これこそがアクション小説といった感じだ。ちなみにこれはシリーズものの第1作だそうです。

2017-03-03 12:47:01 | 最近読んだ本
二流小説家/デイヴィッド・ゴードン

 主人公のぼくはポルノ雑誌のライターとして働いていたが、活字からネットへの時代の推移によりライター業は食っていけなくなり、その代わりに始めたのが、SFやらファンタジーやら吸血鬼ものやらの、特に高尚でもない小説を書くことだった。
 それぞれ名義を使い分けて、たとえばこのシリーズならこんな作者だろうというイメージを作り、友人の写真を著者近影として使わせてもらったり。それらの中で、女性名義で書いた吸血鬼ものは少しだけ売れたが、あとは鳴かず飛ばずといった感じで、要するに、ぼくは胸を張って代表作と言える本をいまだ書けていなかったのである。

 そうしているうちに年齢は30代になり、同じ文学を志したガールフレンドも去っていき、人生の袋小路に入りかけていた頃。またとない話がぼくのもとに入ってきた。
 全米を揺るがせた連続殺人犯。彼がぼくの小説を気に入っていたらしく、ぼくご指名で殺人事件の全容を語る暴露本を出したいと持ちかけてきた。本を出すにはいくつかの交換条件があったのだが、最終的にぼくはこの仕事を受けることにする。こうしてぼくは、ぼく自身の最高傑作の執筆のために、取材を始めたのだったが…。

 主人公自身ポルノ小説を書いていたり、あるいは彼(ぼく)のファンが吸血鬼やSFの世界に熱狂していたりするけども、そういった変態的な仮面の表側は誰もが「退屈な普通の人間」であって、それは連続殺人鬼もまた同じですよ、というような…そんなところがメインテーマな感じがする。自らの半生を振り返る殺人鬼。そんな殺人犯にラブレターを送り続ける、いかれた女たち。それをインタビューする主人公は、どこか冷めている(インタビューにはなるべく自分の主観を入れないというのもあるけど)。

 そういうシニカルな態度が最初から最後まで続いていて、挙句、事件の全容が解明されていく中で最終的に企画していた本はおじゃんになってしまうわけだけど(こういう展開は読んでいるうちに大体予想できたかもしれないが)、何も実りのないエンディングというのはあまり面白くなかったかな。
 あとは途中でたびたび挿入される、主人公作のチープな小説の一節。あれは読んでて結構面白かったけど。

渋谷ハロウィン

2015-11-01 05:13:13 | 最近読んだ本
スターゲイト/デブリン&エメリッヒ

 若きエジプト考古学者ダニエルは、いささか常識からは飛躍した自説を持つことから、学界からは冷遇されていた。今日もまた講演会でピラミッドに関する自説を説くも、古参の学者からは見向きもされず、バカバカしさのあまりほぼ全員が途中退出してしまう結果に。
 講演後、出席していた見慣れない老婦人が話しかけてきた。自分のプロジェクトにダニエルの力が必要だと。この老婦人こそ、1920年代にエジプトで発掘された謎の遺物の発見者であるラングフォード博士の娘であり、発見と同時に起きた事故の体験者でもある。
 例の遺物はその後、軍によって管理され、研究は現在も秘密裏に続けられていたのだった。プロジェクトはまさに最終段階で、そのためにダニエルの古代エジプト言語の知識が必要だった。

 軍の目論見とダニエルの翻訳の通り、これは時空を旅する転送装置・スターゲートであり、彼は先行隊としてスターゲートの旅に同行することになった。学者であるダニエルは軍の強行的な態度は好きになれず、嫌々ながらの同行ではあったが、古代エジプトへの興味は隠しきれない。
 こうしてラングフォード女史からはなむけのペンダントを受け取り、スターゲートによって見知らぬ場所へと転送された一行。しかし、どうやらスターゲートの転送は一方通行の様で、ここから地球へ戻ることができないと分かるや、ダニエルへの風当たりは強くなっていくのだったが…。

 映画化されている通りに、あらすじだけ見ればまさにジュール・ヴェルヌのような王道的な冒険SFなんだけど、やっぱりそこはSFというか、SF小説特有のフックがあって、物語が本格的に始まるまでに一縄筋ではいかないところがある。まあぶっちゃけ文体が読みにくいというか、ストーリーラインが整頓されていないというか。現代の感覚からすると、もうこれだけでアウトのような気がしないでもない。

 さて、ピラミッドのようで微妙に地球のピラミッドと違うような場所にワープされたダニエルたちは、原住民とのコンタクトを果たすのだが、そこはある意味ディストピア的な世界になっていた。彼らは文字を禁じられ、原始的な器具で石英鉱石を採掘し、太陽神ラーに絶対服従を誓っている。
 原住民はダニエルたちをラーの使いではないと知り、ひどく困惑しているようである。一行をどう扱ったらよいものかと思案しているうちに、砂嵐が彼らの街を襲い、彼らの神である太陽神ラーが姿を現した。たちまちパニックと化す街…それほどまでに彼らの恐れる太陽神ラーとは、一体何者なのだろうか?

 全体を俯瞰してみると、暴君に長年支配されている原住民の街に、現代から主人公たちがやってきて、力を合わせて旧体制を倒す…みたいな入れ子の中に入れ子が入っているような物語の構造なんだけど、やはりというか、全容が見えてくるまでがあんまり面白くないんだよね…。繰り返しになってしまうけど、そこがSFらしさ、といってしまうのも多少暴論気味なところはある。まあ、つまらなくはない、とは思う。