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everything will be worthy but cloudy

teardrops

2021-08-14 13:36:47 | 最近読んだ本
・時の地図/フェリクス・パルマ

 アンドリューは最愛の人メアリーを切り裂きジャックに殺され、絶望の底にあった。
 あれから8年も経った今も虚ろな人生を送っている彼だったが、いとこのチャールズがある話を持ってくる。近年発表されたH・G・ウェルズのSF小説「タイムマシン」のように、西暦2000年への時間旅行ができることが今話題になっているということだ。

 西暦2000年へ行けるのならば、8年前にさかのぼって、恋人が殺されるのを阻止できるかもしれないと。アンドリューはいとこに説得され、時間旅行社を訪れるのだが、旅行社の社長によれば、行けるのは2000年のみで過去にタイムスリップすることはできないという。では、この2000年への旅とは何なのか?それはタイムスリップという科学技術ではなく、ある種の魔法ということらしい。時間旅行社の社長は、奇妙な話を語り始めるのだが…。

 次々と現れる新たな展開が見事な作品で、どんどん読み進めてしまう。実は冒頭に出てくるアンドリューは主人公じゃなかったりするんだけどね。後半からは、2000年の未来の男に恋する少女が出てきたり、時間旅行というロマンに魅せられた、様々な人物のオムニバスといったところだろうか。
 特徴的なのが、19世紀イギリス文学を倣ったような文体。まあぶっちゃけていえば、くどい・説明過多・作者が現れてどうでもいい方向に話が逸れるetc…、ストーリーが面白くなかったら、もうそれだけで脱落しますけどね。面白かったからまあ許す。

 作中でのタイムスリップの概念は、たとえ過去に行って事実を変えたとしても、自分の未来が変わるわけではなく、事実を変えたパラレル世界が分岐して生まれるだけ。だからアンドリューが切り裂きジャックを殺して恋人を救って現代に戻ってきても、恋人は生き返ることはない。ウェルズはそのように説明する。

 まあネタばらしをしてしまうと、これらの時間旅行はデタラメであり、裏方の人々によって巧妙に仕組まれた演出ではあるんだけど、それを信じて、救われる人もまたいるということがテーマじゃないかな。切り裂きジャックを殺して、恋人を救ったという結末。二度と会えない、未来の男に恋をしたという結末。偽りだとしてもその結末に満足して、人は幸せな死を迎えられるということ。

 でもこれだけで終わらないのがすごいところ。
 ある日ロンドンで、2000年の光線銃で殺されたような、身体にぽっかりと穴の空いた死体が発見される。ウェルズの未発表の小説の一節が、壁に落書きされる。そう、タイムスリップは実在して、未来から時間旅行してきた人物が、このロンドンに潜んでいるのだ。未来からの時間旅行者はウェルズらを呼び寄せ、パラレルワールドの恐ろしい真実を伝えるのだが…。最後のジェットコースターぶりはなかなかにすごいですね。これだけで続編ができるんじゃないかと思うぐらいに。
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