goo blog サービス終了のお知らせ 

draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

おなかが

2021-12-09 00:57:57 | 最近読んだ本
・スカウト52/ニック・カッター

 その男はとても痩せていて、そしてとても空腹だった。地元のカフェレストランに姿を現したその不気味な男は、ありえないほどの量を食べ、それからボートを盗んで、近くの無人島へ渡ったという。その無人島では、5人の少年と引率の医師がボーイスカウトのキャンプをしているところだった。
 島の海岸で、男が倒れているのを発見した医師のティムは、男を介護しようするが、男は暴れだし、無線機を破壊してしまう。男の様子が気になる少年たちだったが、ティムは少年たちへ、予定通りハイキングに行って来いと命ずる。大丈夫だ、問題ないと。ハイキングから帰ってくれば、この病気の男にしかるべき処置を行い、本島に送り返して、すべて元通りになって、うまくいくと。
 しかし少年たちがハイキングを終えてキャンプへ戻ると、ティム医師はすっかり痩せこけて疲労しており、鎮静剤を打ってどうにかして男を小屋に閉じ込めたところで、子供たちの目にも、事態が好転していないことは明らかだった…。

 無人島で繰り広げられるサバイバルホラー。
 痩せた男の病気の正体は、いわゆるサナダ虫のような虫であり、その回虫は人間の体の組織を強力に食べ尽くし、死に至らしめる。もとはダイエットの薬として開発されたものらしい…ということが章の間で語られているのだが。不老不死の薬、ダイエットの薬、ハゲを治す薬。これらは人類の夢とも表現されてますけどね。その回虫が見知らぬ男からティム医師に感染し、その後も一人、また一人と感染していく。

 少年たちの造形について、たとえば5人の中でオタク少年がいて、彼は他の子たちからはいじられ役みたいな感じでいじめられてるんだけど、すごく仲が悪いというわけでもない。ゆるい田舎の街ということで、意気投合したり、一緒に遊んだりした過去エピソードが合間に語られている。
 あと、大人のティム医師からの視点。子供たちの喧嘩に大人が介入するのはよくないという、なぜなら大人が助けてしまうと、子供はいつまでも大人頼りの人間に成長してしまうから…、彼は立派にオタクであってほしいという意見。

 サバイバルホラーのテイストのほかに、少年たちの青春小説という側面もあるんだけど、なんかあんまりそういうのは感じられなかったかなーという。単に、子供たちが感染して死んでいくのはおつらいものが…コロナ禍の、今の時代だけにね。
 そして後半に、信じる力という概念がちょっと出てくる。生き延びることができるのは、信じる力があるからこそ、という。大人たちはもう信じていないけど、子供はサンタさんや、そのほか迷信とか、目に見えないものを信じている。だから生き延びることができるという。それらを信じなくなることが、大人へ成長していく、変わっていくということなのかもしれない。
この記事についてブログを書く
« Angels We Have Heard on High | TOP | すとれーんじ! »