すっきりしないアタマとカカトの
朝はやく
ピンポーンが鳴った
なんでしょう?
すみません、
聖書のことでお願いが……。
この忙しいのに
まったく興味ありません。
言い終わるまえに
もう門を入ってきて
窓のそとにいる
追いかえそう
砕けたカカトの痛みをこらえなから
玄関を開けると
マントの男が立っている
暗―いかんじで
ベネディクト修道士みたいに
フードをかぶっている
薔薇の名前かよ
勘弁してくれよ
フードをはぐると
闇しかない
あんた、アタマどないしたん?
あの、それが
聖書のなかに忘れてきてしもうて……
ええっ、聖書のなかに?
どないすんの?
はい、百三十二ページの
パウオの手紙のところ
そこにあるんどす。
アタマの呪文
ちょっと読んでもらえません?
“ かれはおまえのアタマをくだき、
おまえはかれのカカトをくだく。“
あ、どうも。
こんなんで、ええんか?
はい、ほら
あのぼんくらアタマが追いついてきました。
わたしの生きた
2030年の時間を
やっと飛び越えてきましたよ
ほんまに、おおきに。
そう言った瞬間に
強い風
春いちばんや
あっというまにマントはとばされて
男は消えた
あいつ京都のぼんやったんか
よろしゅおましたなぁ
ひとの「お願い」は聞いてみるもんだ
男はアタマで
笑えるようになったし
わしの痛みも消えていた