元歌 夏の夜はまだよひながら明けぬるを雲のいづくに月やどるらむ 清原(きよはらの) 深養父(ふかやぶ) (『古今集・巻十七』)
もじり歌 初夏の夜はまだ宵(よい)のうちに明けました 懐かしい夢の宿る間もなく
毎日暑い日が続いています。
昔は6月は夏とは言っても、日本列島の大方の地域は合着(あいぎ)の季節です。私が幼かった頃、母と姉は6月1日の衣替えの日、箪笥の入れ替えが終わると袷(あわせ)からセルの単衣に替えて6月中は感触の爽やかな毛織物のセルが普段着でした。今はセルの和服など見かけることもなくなりましたが、洋服の合服も着る機会が少なくなりました。ここ数年、春秋の季節がなくて冬から直ぐ夏という感じです。季節が「四季」ではなくて「二季」になったのだとか。
今年は特に雪が消えた途端に寒さが去って爽やかなもので、もともと夜型の私は、ついつい夜更かしをして、気が付いたら外が明るくなっていたということもありました。私が独り暮らしをするようになって23年、昼の居眠りをなしにして夜は早く寝ろと言う人も居ないのを幸いと、全くでたらめな生活リズムの毎日です。深夜何をしているかというと、生産的な仕事はゼロ。ほとんどがパズルと「読書もどき」です。
なぜ「読書」ではなくて「読書もどき」なのかと言いますと、「読書」とはおこがましくて言えない幼稚な本ばかり読んでいるからです。例えば、最近読んだ(見た?)のは講談社の絵本の『桃太郎』(2001年発行の復刻版)です。「講談社の絵本」の創刊は1936年、『桃太郎』はその1冊目でした。絵は、当時一流の日本画家の齋藤五百枝。子供の時には全く気付かなかった、時代や装束の念入りな考証のもとでの繊細な描写に驚嘆しました。例えば、表紙は鬼が島に向かう船上の桃太郎の凛々しい姿が描かれていて、同じような場面のページもあるのですが、海上の風に吹かれている髪の毛一本々々のなびき方がそれぞれ違うのです。「読書もどき」も老人に新しい感動を与えてくれます。