「松山俳句ポスト365」との出会いは「種蒔」

2013-06-04 22:30:00 | 空見屋のスマホで絶句

種蒔に始まる水の季節かな 酔う太

 「種選」や「種浸し」も「種蒔」に先立って行われる作業ですが、昨今はそれら全てを農協にまかせ、田植機用の苗を購入するのが一般的農家の現状のようです。が、「種蒔」という季語本来の姿を思う時、「種蒔」から「水の季節」が始まるという一句の措辞は、瑞々しい実感に充ちています。
 「種蒔」と並行して、「田打」をし「田掻」をし「畦塗」をし田に水を入れる準備をする。その後に、日本中の水田という水田に水が満たされる「水の季節」が訪れます。「種蒔」という季語を起点とする「水の季節かな」の詠嘆が日本の水田の光景を静かに広げていく、この豊かさな一句のなんと美しい余韻でありましょうか。

種蒔きて指の間に残る種 めろ

 今の「種蒔」は機械なり器具なりを使ってのものですから、このような「種蒔」の実感は、絶滅寸前の体験というべきでしょうか。「花種蒔く」等とは全く違う実感を伴っているのが「指の間に残る」という措辞。種籾を掴み、まんべんなく苗床に蒔いていく作業だからこその感触です。
 手元に歳時記に「指先を流るる如し種を蒔く/野村泊月」という句が載っていますが、めろさんの一句はこのような作業の後の、ささやかな実体験。「手を洗うと1、2粒洗面器の底にひらひら沈みました」も貴重な季語体験だなあ。


以上↑「松山俳句ポスト365」より。講評の夏井いつきさんとの初めての出会いが衝撃的でした。こういう準絶滅危惧の季語を全力で取り上げる俳句の先生がいる、そのことさえも目からウロコ、俳句の未来を感じ信じようとの希望が見えました。

今まで農作業に触れることのなかった私ですが、「種蒔」の話は何度か娘夫婦から聞くことがあり、今回写真や動画を見せてもらったわけです。彼らは毎年親戚の米農家へ種蒔の手伝いに行っており、いろいろとレクチュアしてもらいました。


    


    


親戚のおっちゃんところは↑JAのお世話になることなくすべて人力手作業で種を蒔きます。土を丁寧にふるいにかけて良質な苗床を作り、あらかじめおっちゃんが厳選した種籾を水に浸し、上げてしっとりしたものをボールにとり、手で均一に苗床に蒔いて行きます。


    


この光景は↑熟練のおっちゃんが苗床に水をかけながら、重なっている種は水流でうまいこと離したり、さらにまんべんなく均一になるようにする職人技な作業です。


    


その後は、バケツに入れてきた土をヒシャクでふるいに入れ↑均一に土をかけていきます。中腰でずっとふるいカシャカシャ!は相当体に堪えるようです。

近在でも「種蒔」を手作業でするのは、こだわりのおっちゃんとこだけ。今どき珍しいというので、以前ラジオが取材に来たとか。JAから育苗を買わないまでも、自動で種蒔してくれる器具があるので、近隣の農家はそれを使うのです。

おっちゃんとこでも田植えや刈り入れは機械でやりますから、メインイベントは「種蒔」ということになりましょうか。娘夫婦は「種蒔」イベントがかなり好きらしく、毎回張り切って参加しています (=^・^=)

絶滅寸前の季語が、古きよき日本の姿を残しています。「温故知新」、時代が進んでも伝統や文化、経験に基づく知恵は忘れたり、簡単に捨ててはいけないものなのですね。



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5 コメント

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Unknown (nakamura)
2013-06-05 05:25:05
おはようございます。

よいものですね~、おじさんにお座布団を。
JAに頼っていないところがすばらしい!(笑い)。
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 (自然を尋ねる人)
2013-06-05 12:13:01
我が地は6月になり田植えがはじめりました。
種まきは88夜過ぎてから植えられたようですが
かなり大変な作業のようです。
水田稲作りは放棄し
かなり前から黒豆を植えています。
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Unknown (空見)
2013-06-05 13:28:11
nakamuraさんこんにちは。
ツライばかりではない「農」の楽しみ方、知っている人もたくさんいるのだろうと思います。
JAで苗を買い、機械で一人操作の田植え、JAで買った大型機械で収穫と乾燥、出荷もそのままJAへ。となると大方はJAだけが儲ける仕組みなんですね。
この作業行程を見るかぎり、おいおいは後継者のいない農業経営に、株式会社が入る選択肢があってかまわないのでは?とドライに割り切る気持ちもあります。

自然を尋ねる人さんこんにちは。
水田は草取りも手間がかかります、現在すべては機械化の世の中、大規模農業経営会社が放棄田をうまくまとめて耕作、お米を供給してくれたら、合理的と思いますが・・日本人の意識はね。
昔ながらの農法でしっかりやれる農家さんは農業特区にして大事に保護し、伝統や知恵を絶やさないようにして貰えばどうでしょう。




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Unknown (ディック)
2013-06-07 09:48:28
横浜はぼくが小学生の頃には畑がすっかり少なくなっていましたから、ぼくはもうほとんど生まれつきの都会生活者に近く、親父が裏で小さな畑を耕していたにしても、こういう生活体験が皆無です。
ぼくのような都市生活者がどんどん増えていることに、農業への理解が薄れたり、地方経済が衰退していく原因があるんじゃないのかなあ、なんて考えてしまいました。
このことは、別にぼくに責任があるわけではなく、個人的にはただ大きな流れの中で流されてきたに過ぎないのですが。
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Unknown (空見)
2013-06-07 19:35:10
ディックさんこんばんは、コメントをありがとうございます。
都市生活者は、日常で野菜畑を見ることはないですものね。なので普通に野菜のことを知らないのも無理からぬこと、と存じます。
私も農作業とは無縁で過ごしてきまして、ただ肉体的に大変だなぁ・・なんて思うだけでしたが、大変であるからこその楽しみもきっとあるに違いない、と思うようになりました(笑)

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