Being on the Road ~僕たちは旅の中で生きている~

日常の中にも旅があり、旅の中にも日常がある。僕たちは、いつも旅の途上。

泰安の街角から 第1回 / 泰山火車站界隈

2021-03-29 00:48:17 | 旅行

2019年の記録

 

中国の宿泊施設は、〇〇大酒店、〇〇大飯店、〇〇賓館、〇〇旅館、〇〇旅社、〇〇招待所といった名前がつけられる。名称によって、高級ホテル、木賃宿といった区分けはないが、概して旅社、招待所といったら安宿である。(外国人を泊めるためには、登録が必要で、登録済の招待所は、まずない。)

 

泰安で一泊した後、隣町の済寧で一泊、南下して常州でさらに一泊して、上海に戻る弾丸出張が続く。

 

日曜日の早朝、上海から高鉄(中国版新幹線)で、泰安に向かう。新幹線で泰安に行くのは、はじめてのことだ。昼すぎに泰安に到着し、ホテルにチェックインしたあとの数時間が、束の間の休息である。

泰安には、北京オリンピック(2008年)の前後に住んでいた。中国の変化は、常に爆速だが、北京オリンピックの頃を境に地方都市が、急激な変貌を遂げた。

僕の住んでいた頃の泰安は、ほんとうに田舎町で、朝夕になると、馬が荷車を引いていたし、交差点には、職を求める人の人だかりがあった。部下を2、3人連れて、呑みに行っても、100元(約1,500円)もあれば十分だったので、駐在員にカネの苦労はなかった。

 

泰山(道教の聖地である五岳の1つで、中国人ならば、誰でも知っているほど有名) の麓にあるホテルに投宿。そこからタクシーで、在来線の駅に向かう。別に駅に用事がある訳ではないが、高鉄が開業する前は、駅周辺が泰安市の繁華街で、買い物に散歩にと通った街で思い出深い。中国では、往々にして鉄道の駅は郊外や街はずれにあることが多く、泰安は例外的な存在だった。中国の在来の鉄道は、貨物輸送、つまり軍需を中心に考えているので、街中に鉄道を引かないのかもしれない。ともかく、高鉄が開通し、高鉄の泰安站ができるまでは、人や車両、モノがごったがえす猥雑だが、活気のある一角だったのである。 (高鉄の駅が泰安站、在来線の駅は泰山站。泰山の麓に広がる街が泰安市)

 

在来線の現在の駅名は、“泰山站”であるが、僕が住んでいた2008年頃は、“泰安站”だった。その前は、“泰山站”。なぜだか古い駅舎には、いつも一世代むかしの駅名が書かれている。

 

鉄道のキップは、今(乗車日の30日前からネットでも窓口でも購入可能)と違って、乗車日3日前から乗車駅に行かないと買えなかった。それでも、鉄道運賃は、長距離バスより格安なため、慢性的に供給不足だった。そんな訳で、駅は、いつもキップを買い求める人が溢れていて、最短でも1時間ほど並ばないと、購入できない。「何とかならないの?」という需要があれば、必ず供給者が出現するのが中国である。いわゆるダフ屋だ。当時の中国の駅には、必ずダフ屋がいた。

ダフ屋と書くと、法外な価格、裏社会といったイメージを持つかもしれないが、日本ほどダークではない。(もちろん、正規の商売ではないし、元締めは、裏社会の人だと思う。) 今と違って、キップの購入に身分証のパスポートは、必要なかったので、欲しいキップ(日時、行き先、等級) をダフ屋に伝えれば、ものの5分も待っていれば、欲しいキップを持ってきてくれた。キップ1枚あたり一律10元(=約150円) ほどの手数料を払えばよい。1時間以上、買えるか否かハラハラしながら並ぶより安いといえば安い。1時間乗っても、冷房なし鈍行ならば、10元もしないので、時には高い手数料かもしれないが、上海まで冷房付き特別快速2等寝台下段215元でも、手数は10元なので格安だと思う。中国では、金持ちがカネの力でズルするとは思われない。金持ちが1時間並んでキップを買えば、ダフ屋の稼ぎはなくなる。何はともあれ、金持ちが、カネを使って経済を廻すことが、金持ちの義務みたいに考えられている。だから質素な生活をする金持ちは、軽蔑されるし、ドンチャン騒ぎをして、浪費する金持ちが軽蔑されることもない。

僕がいつも使うダフ屋Lさんは、「××ならバスの方が良い」とか、「カネがあるのだから飛行機使いなよ」とか、なかなか良心的だった。ある時、彼に電話したものの繋がらず、駅に行っても見つからないので、別のダフ屋に頼もうとしたら、「あなたはLのお客なので、俺からは売れない。すぐにLを探して連れてくるから待っていてくれ」と言われてしまった。そのダフ屋は、あちこちに電話して、Lさんと連絡を取り、ほどなくしてLさんが来たなんてこともあった。

 

駅や長距離バスターミナル(泰山站に隣接している)の近くには、安宿街があり、猥雑な空気が流れている。一般の外国人は近寄らないが、どうにも僕は、そのような怪しいところに吸い寄せられるようにぶらぶら行ってしてしまう。

 

微かに猥雑さが残るものの浄化が進んだ安宿街。“保健品”というのは、日本の“おと〇のおもちゃ”のことだが、かなりあっけらかんと販売している。その先には、男性のための“床屋さん”がならんでいた。

 

三輪の電動車は、地方のポピュラーな乗り物だ。乗用車のタクシーより安く人を乗せ、また荷物も運ぶ。

 

 

旅は続く