加藤誠之氏
定年後の楽しみの一つとして、65歳からアコーディオンに親しみ、現在地元(横浜大岡町)の愛好会に所属して合奏を楽しんでいます。アコーディオンだけの合奏は珍しいとみえ、方々から声が掛かるので、そのため毎月1~3回くらい、老人ホーム、介護施設や地域の行事に訪問演奏に出かけております。もちろんボランティアです。
演奏に出かけると、いろいろなことに出会います。ある時は、淡谷のり子さんの「別れのブルース」を演奏していると、突然大声で泣き出したおばあさんがいました。なくなったご主人が生前に良く歌っていたのを思い出したのだそうです。
またある時は「ラ・メール」「ベサメムーチョ」「ラ・クンパルシータ」と順調に演奏が進んでいたところで、突然1人の老婆が立ち上がり、身振り手振りよろしく大きな声を張り上げて「月が出た出た、月が出た!」と踊りだしたのには思わず会場全体が大爆笑となりました。そうかと思うと、最初から最後まで下を向いたまま全く無表情でいた人が、演奏が終わりその人の脇を通り抜けて帰ろうとすると、いきなり手を差し延べてきたので握手をしてあげると、無言のまま力を込めて握り返してくれたのには強く感動しました。
またある施設では、演奏が終わり施設の責任者からご挨拶がありましたが、その中で「一生懸命演奏をして下さった皆さんには大変申し訳ない話ですが、明日の朝になるとほとんどの人が、皆さんがここに来た事さえ忘れてしまっているのが現実の姿なのですよ」と恐縮して話されました。しかし、この言葉は私の胸にぐさりと刺さり未だに抜けません。
人間生身のからだ、何時どうなるか分かりません。今日は他人の身でも明日は我が身であるかもしれません。今までお世話になった世の中の人々に、今の私の出来ることで、少しでも感謝の気持ちを表してゆければと思います。
第一労組OB会 副会長 加藤誠之(記)