発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「職場×双極性障害」(秋山剛著)

2018-07-18 08:16:44 | 双極性障害
職場×双極性障害」秋山剛著、南山堂、2018年

双極性障害患者は社会生活をふつうに営めるのか?
・・・この質問の答について書かれた文章をあまり目にしたことがありません。
この本は、その疑問に真正面から取り組み、とくに“働くこと”に焦点を当てた内容です。

一読して、いろいろ努力しても「やはり簡単にはいかないんだなあ」という感想を持たざるを得ませんでした。

双極性障害は気分の波に翻弄される病気です。
誰にでも気分の波はありますが、それが生活に支障が出るほど“大波”なのです。

ですから治療は“気分の大波を小波に抑える”をイメージするとわかりやすいでしょう。
具体的には、薬物療法・心理療法(精神療法)が行われます。

ポイントは、気分の波がくる前兆を捉えて対処すること。
うつ状態に入る前には躁状態が必発なので、そこを捉えてクールダウンを試みます。
それに気づき、うまくコントロールできれば、まあまあふつうの社会生活を送ることができるのです。

さて、これですべて解決かというと、そういうわけにはいきません。

仕事で無理をすると体調を崩しやすい、程度によっては休職を繰り返すことは珍しくないようです。
すると、部下と責任を抱える管理職は難しい。

本の中で紹介された、双極性II型障害患者(46歳男性、サラリーマン)の手記が“当事者の声”として印象に残りました。

・もう1ステップ先に進もうとすると必ずダウンしてしまう。そんなときは少しクールダウンすればよいとわかっている。しかし、それを繰り返すと「病休慣れ」が生じてくる。
・勤務継続を最優先して職場における負担を最低限に減らしてもらった(希望降任)。すると「二次災害」が発生した。降任がもたらしたのは“強い屈辱感”だけだった。
・双極性障害が治るとはどういう意味なのだろうか?・・・人生の全体像を見失わなければ病気に負けていないことになるはずだ。
・双極性障害により、私の人生の喜び、悲しみはデフォルメされた。これはマイナスと捉えるべきか・・・いや、自分が人生をより濃厚かつきめ細かく味わうことのできる能力を得たはず、と信じたい。


これらのコメントから、就職して現場を経験し、徐々に管理職に昇進して定年退職を迎える、という“ふつうの人生”を送ることは難しいのではないか、と感じました。
しかし、その個性(人生を濃厚に味わう)を活かして発展させることも不可能ではない。
歴史に名前を残す文筆家、芸術家は皆、双極スペクトラムの傾向がありますから。
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