著作権法

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違法サイトからのダウンロード

2006-12-05 00:33:39 | Weblog
 「違法サイトからのダウンロード」を禁止し、違反者に対しては罰則がかけられるようにすることを政府部内で検討しているとの報道がありました(朝日11月24日)。12月1日の衆議院文部科学委員会における著作権法改正案の質疑の中でも、この問題は取り上げられていました。
 衆議院のHPにはまだ会議録はアップされていませんが、会議の映像は視聴することができます。社民党の保坂展人議員の質問に対して政府側は「技術的保護手段の回避による複製を違法とする法改正を行ったときも刑事罰を科さなかった。違法サイトからのダウンロードをどうするかも、そうした過去の立法例を参考に、十分慎重に検討すべき」と答弁していました。

 政府関係者が「慎重に」というときは、通常「否定的」とされています。過去の刑事罰を科さなかった立法例を引き合いに出し、かつ「慎重に」と言っているので、政府の姿勢は、違法サイトからのダウンロードについては、民事上違法としたとしても、刑事罰は科さない方向であることが推測されます。

 では、政府としては、違法サイトからのダウンロードは、刑事罰が科されないものの、「禁止」とするのでしょうか。
 文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会では、11月15日に開催された第7回会議に提出された資料には、以下のくだりがあります(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/06111523.htm)。

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②制度改正は可能
ア  違法複製物、違法サイト(ファイル交換によるものを含む)からの私的録音録画
(理由)
* 利用者に対する権利行使は事実上困難。ただし、ファイル交換の場合、ダウンロードされたものが同時にアップロードされる場合は、実態把握が可能
* 利用秩序の変更を伴うが、違法複製物等からの録音録画が違法であるという秩序は利用者にとっても受け入れやすい。ただし、利用者保護の立場から複製物等が違法に作成されたものであることを知っていた場合に限る等の限定が必要と考えられる。
・ 今回の私的録音実態調査において、80パーセント以上の人が「自分で録音した音楽をHPに掲載したりファイル交換ソフトで交換すること」を「権利者の了解を得る必要があるかもしれない行為」と認識

* 利用者の対する権利行使が困難だが、違法複製物等を減少させるためには、利用者の複製行為を減少させる必要あり
* 著作権保護技術が及ばない分野であり、法的秩序の一律の変更はやむを得ない


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 ここいにう「制度改正」とは、どうも著作権法30条で私的な複製ができるとする範囲の外に出す「制度改正」という意味ではないかと思われます。どんな議論が行われたかは、会議録がアップされていないのでよくわかりませんが・・・

 この資料によれば、30条の範囲から除かれる・・つまり複製が適法ではなくなるのは「複製物が違法に作成されたことを知っている場合」に限定しているようですから、国会で保坂代議士が述べられた「添付ファイルをあけてみたら中に違法なものが入っていた」場合は、違法とはいえなくなります。
 が、いずれにしても、そのような範囲で、違法サイトからのダウンロードは「違法」とする方向であると考えることができるのではないでしょうか。

 もしそうだとした場合、Winnyでのファイル交換についてはどうなるでしょうか。アップロードする行為についてレコード会社などの権利者は許諾していませんから、そのことを知ってダウンロードをすれば、違法ということになるでしょう。実際多くの人が「無許諾でアップロードされている」と認識しているでしょうし、法律ができたら、関係の権利者は「無許諾だ」と宣伝するでしょうから、実際ファイル交換で音楽や映像を獲得する行為は違法になってしまうでしょう。

 では、違法となった場合にはどういうことがダウンロードをした人に対して起こるのでしょうか。
 おそらく、ファイルを削除することが求められるでしょう。削除しないと裁判に訴えられるかもしれません。ただ、刑事罰は科せられないでしょうから、警察が来て逮捕したり家宅捜索されることはないでしょう。

 個人の家庭内の零細な行為については、法律はあまり立ち入るべきではないと思います。立ち入る以上は、それだけの理由が必要でしょう。

 私は、違法サイトからのダウンロードを禁止するとすれば、権利者の利益を害しているという証明がなければならないと思っています。
 そういえば、最近権利者側は「ファイル交換で6時間に100億円の被害」という報告を出したようです。100億円の計算をどのようにして出したのか、ファイル交換が新曲の周知に効果があることや新たなCD購入につながる効果があることも考慮に入れなければいけないと思います。

 また、配信ビジネスが実際に行われているかどうかもよく考慮すべきだと思います。TV番組に関しては、見逃した番組をあとから視聴する手段は、適法なものは存在しません。TV局が、そうしたビジネスをしていないからです。したがって、YouTubeは違法だといっても、過去の番組にアクセスできない消費者がそこにアクセスすることを違法としてしまうのは、私はいかがなものかと思っています。
 例えば、ダウンロード行為を違法としたとしても、適法な手段で消費者に提供するビジネスを展開していない権利者は、違法であることを主張できない、というような法律にはできないのでしょうか・・・(他の著作権の分野全般についていえる話ではありますが・・・)

 私は、実際に非常に多くのCDやDVDなどのファイルが交換されているわけですから、被害は相当の額に上るのではないかと推察しています。それを明らかにした上で、ダウンロードも違法とする方向で検討すべきではないかと思います。
 ただし、無許諾でアップロードされていることを知ってダウンロードした場合に限ることが必要でしょう。また、違法としても、刑事罰は科すべきではないと思います。さらに、ビジネスを展開していない者は、個人のダウンロードに対して権利主張ができないというような規定でもあればいいのではないかと思っています。