COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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エイモリー・ロビンス博士が語る「人々がより少ない資源で豊かに暮らす未来」続編

2009-09-24 16:59:50 | Weblog
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目 次
 はじめに
 1.ロビンス博士の基本戦略
 2.建物の断熱化による省エネ
 2-1) 世界が注目する建築物:ロッキーマウンテン研究所
 2-1a) 建物の概要と建築費
 2-1b) 窓と壁の断熱
 2-1c) 太陽エネルギーの利用
 2-2) 地球の自然の多様さを伝える巨大な博物館:カリフォルニア科学アカデミー
 2-2a) 博物館の斬新さ
 2-2b) 環境に配慮した様々な仕組み
 2-3) 旧式ビルの省エネ
 3.小規模分散型エネルギーへの胎動
 4.次世代自動車開発と車のバッテリーを組みこんだスマートグリッド敷設
 4-1) プラグインハイブリッド車の開発
 4-2) 車のバッテリーを活用した送電網構築
 5.米軍の省エネ化が温暖化を抑え、豊かで安全な世界を築く
 5-1) 米軍の省エネ化の取り組み
 5-2) 石油をめぐる最後のゲームに勝つための戦略
 5-3) 米軍が誘起する省エネ技術の劇的イノベーションが安全な世界実現へ
 6.日本の自然エネルギーと、その普及を阻むバリア
 6-1) 日本の風力発電への逆風
 6-2) 普及を阻むバリア
 6-3) 日本の電力業界に向けたロビンス博士のメッセージ
 7.未来を切り開くキーワード
 おわりに
 ロビンス博士の著作
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はじめに~4-2) 車のバッテリーを活用した送電網構築までは、前の記事をご覧ください。
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5.米軍の省エネ化が温暖化を抑え、豊かで安全な世界を築く
5-1) 米軍の省エネ化の取り組み
 ロビンス博士は長年にわたり、国防総省のコンサルタントを務め、アメリカで最も多く石油を使用している軍の施設と活動の省エネ化とCO2排出削減を模索してきました。CO2排出15%削減を目指して、石油に液化天然ガスを混入した合成燃料でF15の飛行テストが行われており、将来的には完全に合成燃料に切り替える予定です。ネバダ空軍基地では、70000枚の太陽光パネルで、基地電力の30%近くをまかなっています。また、表面に断熱性を高める発泡剤を塗布して、外気が50度近くでも内部をおよそ20度に保てる冷房不要なテントが、イラクやアフガニスタンに配備されているそうです。

5-2) 石油をめぐる最後のゲームに勝つための戦略
 アメリカは消費原油の65%を中東、中米からの輸入に依存し、安全保障上大きな問題になっています。国防総省はアメリカ社会全体を石油依存から脱却させたいと考えているそうです。2004年、国防総省の出資でロビンス博士と行われた共同研究の報告書「石油をめぐる最後のゲームに勝つために(Winning the Oil Endgame)が発表されました。この報告書の英文要旨は、こちらのサイトでアクセスできます。その根底にあるのは、アメリカがいま消費している石油を代替えエネルギーで置き換えることの方が、石油を買うことより安上がりだとの考え方です。アメリカでは石油の殆どが自動車に使われていますが、下図のように、プラグインハイブリッド化とともに、炭素繊維のような強靭で軽量な複合素材の導入で、超軽量・超低燃費の車を急速に普及させることで、石油使用量を半減させます。更にセルローズ由来バイオエタノールや水素など代替燃料に置き換えることで、このようにして石油消費を削減すれば、2040年代には、アメリカは完全に石油依存から脱却できると予測しているのです。



5-3) 米軍が誘起する省エネ技術の劇的イノベーションで安全な世界実現へ
 ブッシュ政権下の国防総省が何故このような研究を支援したのかとの江守博士の問いかけに、ロビンス博士は以下のように考えてみれば当然のことと答えました。米軍本来の役割はアメリカ国民を守ることで、パイプラインやタンカーを守ることではありませんが、石油の輸送ルート確保のために、多くの人命と莫大な経費が失われています。国防総省は総予算の1/3と人員の半数を物資の輸送に振り向けおり、その7割は燃料です。ところが、兵士が死傷する原因の半数が燃料輸送に関連したケースであるうえ、燃料の大半は無駄遣いされています。まるで燃料が無尽蔵でただのように思われてきたのです。国防総省もようやくこれに気付き、燃料をこれまでに10倍から100倍節約できる方法を採用し始めました。軍が乗り出すことで、省エネ技術の劇的イノベーションが起き、やがて民間部門にも波及するでしょう。こうした技術は世界のどこでも利用できるため、最終的には世界を石油からの脱却に導き、ペルシャ湾に軍を派遣する必要もなくなってしまいます。ロビンス博士は、より豊かで地球温暖化の心配もなく、安全な世界を築くためには、石油からの脱却が最も大切なステップになると主張しているのです。
 ロビンス博士は、人々が気候問題や安全保障、またはエネルギー問題に取り組む際に、目的や理念が同じ人としか協力し合えないと考えがちですが、大切なのは結果であり、主要な関心事が異なる人々も省エネという考えでは一致することができれば、幅広い合意が得られると語っていました。

6.日本の自然エネルギーと、その普及を阻むバリア
 6-1) 日本の風力発電への逆風
ロビンス博士は、世界で最も環境技術が進んだ国として日本に注目していますが、自然エネルギーの普及はなかなか進まない現状を懸念しています。番組で紹介された風力発電による町おこしに取り組む高知県梼原(ゆすはら)町は、10年前に町内に2基の風車を建て、電力販売による年間3500万円の収益は、町の貴重な財源になりました。しかし新たに5基の風車を建設する計画は、中断に追い込まれています。町で新たに送電線や道路の建設費およそ10億円を負担しなければならないのに、電力会社の買い取り価格は、最近下がり続け、とても採算が取れないからです。太陽光発電に関して、国が電力会社に高値で買い取るよう義務付ける制度を設けたので、梼原町は風力発電も高値で安定した価格で買い取って欲しいと訴えています。

6-2) 普及を阻むバリア
 ロビンス博士によれば、日本は自然エネルギーの分野で世界一の技術力を誇り、しかも自然エネルギーが極めて豊富な国であるにもかかわらず、それが殆ど使われていないことに、訪れる外国人がびっくりするそうです。原因は電力会社も政府の政策も自然エネルギーを支援していないことにあります。この傾向はアメリカでも見られ、多くの電力会社が自然エネルギーの使用に規制をかけたり、正当な買い取り価格を支払わなかったりして、自然エネルギーの技術をなかなか活用できないようにしているのです。その真の目的は、原子力発電所や石炭火力発電所へのこれまでの投資を守るためなのです。国や企業のこうしたバリアを壊し、ビジネスチャンスに変える努力をする必要があり、ロビンス博士達はバリアバッシングと呼んで、活動の中心に置いているそうです。

6-3) 日本の電力業界に向けたロビンス博士のメッセージ
 ロビンス博士は次のように語りました。「日本は真剣に電力の分野で正当な価格競争を妨げるバリアを撤廃すべきだと思います。電力の種類や使われている技術、誰が発電設備を持っているかにかかわらず、あらゆる電力がフェアに競争できるようにすべきです。要するに、日本の場合、現在の電力業界が独占状態にあること自体がバリアになっているのです。独占企業は新しい技術と競争することを嫌がりますが、本当は逆にビジネスチャンスだと捉えるべきです。顧客に対してより良いサービスを安く提供できる新しい技術があれば、他社と競ってでも採用すべきです。ですから起業と市民社会が足並みを揃え、更にそれを政府が後押ししてくれれば、大きな変革がもたらされるでしょう。」

7.未来を切り開くキーワード
 ロビンス博士は番組恒例の未来を切り開くキーワードに、”INTEGRATION(統合)”を選び、次のようにまとめました。「大切なのは全体を統合してデザインする発想です。社会を一つのシステムとして考え、全体が有効に機能するようにデザインするのです。まず私達はエネルギーをどれだけ消費しているかを、常に意識するようにしなければなりません。忙しい中でエネルギーの事なんかを考えるのは面倒かも知れませんが、この問題について知れば知るほど賢い選択ができるようになります。皆が省エネの商品だけを買うようにすれば、メーカーもそういうものしか作らなくなる。つまりお金を使うことによって社会を変えてゆけるのです。そうすれば、後で温暖化問題を振り返った時、こんな風に言うでしょう。解決は難しくなかったし、むしろお金も随分儲かってしまったとね。」

おわりに
 50分の放送時間に非常に多くのことが語られている上に、参考資料にも触れたので長文になってしまいました。最も印象に残ったのは、人々が欲しいのはエネルギーそのものではなく、エネルギーによって提供されるさまざまなサービスだということと、省エネには金がかかり、国民生活を圧迫するという論議が強調され、環境保全という高邁なメリット以外に、省エネによって使う必要がなくなったエネルギー購入に要するコストが浮くというメリットが正当に勘案されていないことです。このことは、現在盛んに論議されている温室効果ガス排出削減の中期目標設定の際に、新たな産業振興による雇用創出とともに、十分考慮に入れるきべき要素ではないでしょうか。

ロビンス博士の著作
自然資本の経済-「成長の限界」を突破する新産業革命-(原書名:NATURAL CAPITALISM)、ポール・ホーケン、エイモリ・B.ロビンス、L.ハンター・ロビンス著、佐和隆光監訳 小幡すぎ子訳、日本経済新聞社(2001)、2,500。

スモール・イズ・プロフィタブル-分散型エネルギーが生む新しい利益-(原書名:SMALL IS PROFITABLE)、エイモリー・B.ロビンス〔ほか〕著 山藤泰訳、東京 省エネルギーセンター(2005)、4,800。

ソフト・エネルギー・パス-永続的平和への道-、エイモリー・ロビンズ著 室田泰弘訳 槌屋治紀訳 (東京 時事通信社、1979)、1800、原書名:Soft Energy Paths)
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はじめに~4-2) 車のバッテリーを活用した送電網構築までは、前の記事をご覧ください。
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