目 次
はしがき
1.レベッカ・ハルムスさん(ドイツ緑の党所属の欧州議会議員)のメッセージ
2.鈴木真奈美さん(南相馬出身のジャーナリスト)のメッセージ
3.原子力発電は安全であるとの考えが広まった経緯
4.世界会議場の中と外の温度差
5.大規模街頭行動や署名運動で国を動かす
6.現在進行中の脱原発に関連した署名運動
6A.脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める全国署名
6B.原発都民投票
6C.原発国民投票
はしがき
2012年1月14、15の両日、横浜で脱原発世界会議が開催され、これに関連して15日には冒頭の動画のような脱原発世界大行進がありました。未だ福島原発事故の収束の目処が立たない日本での世界会議というと、あたかも国の主催による国際会議のように響きます。しかし実際には、ピースボート(船旅を通じて国際交流を深めるNGO)の呼びかけにより、環境エネルギー政策研究所、グリーンアクション、原子力資料情報室、国際環境NGO Foe Japan、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが昨年9月に実行委員会を発足、国内外の多数の団体が賛同して開かれたものでした。会議では20カ国50名以上の海外ゲストを含む識者達が登壇してメッセージを発信、原発のない世界のための横浜宣言を採択しました。会議の概要はそのウェブサイトや、公式ガイドブック「原発のない世界のつくりかた」(合同出版、\1200)から得られるので、ここでは特に印象に残った講演2題と、会場の外で感じたことについて述べたいと思います。
1.レベッカ・ハルムスさん(ドイツ緑の党所属の欧州議会議員)のメッセージ
会期前に来日して福島も訪れたハルムスさんは、開会イベント「ふくしまから世界へ」で登壇し、福島の事故以来、欧州で加速する脱原発への動きについて語りました。それには事故当事国でありながら、国として脱原発へ向けてきっちり舵を切れない日本政府への懸念が感じられました。ハルムスさんは、公式ガイドブックに以下のようなメッセージを残しています。
「欧州ではチェルノブイリの大事故以来、20年間新しい原発のプロジェクトはなされていません。それ以降、フランスとフィンランドだけが各1基の建設を決めたのみです。福島の事故の後、ドイツ、スイスおよびベルギーでは原発を取り止める決議を出しましたし、イタリアでは90%以上の国民が、自国での原発の使用に関する国民投票で”No”と反対投票を投じました。欧州の国民の大多数は原発に対して反対の意を唱えていますし、もはやこれ以上の新たな原発による惨事の危険性を担いたくないと思っています。今日、原子力発電が制御不可能なリスクに結びついていることは誰も否定できません。しかし、チェルノブイリ事故の後に比べると、今日我々は安全なエネルギーの未来を手にすることができる科学技術を持っています。過去のエネルギー解決策に固執するにではなく、我々はエネルギーの備蓄。エネルギー効率化や革新に投資すべきです。我々の将来のエネルギー体系は、無駄の多い消費や危険で汚れた科学技術の代わりに、知的で効率がよくクリーンで再生可能なエネルギーの使用に基づいて作られるべきです」。
2.鈴木真奈美さん(南相馬出身のジャーナリスト)のメッセージ
2日目に3階ホールで行われた「原発も核兵器もない世界へ」で最後に登壇した鈴木さんは、「核」は多くの日本人に核兵器を思わせ、「原子力」は平和利用を思わせるが、両方とも核分裂のエネルギーを利用している点で違いはないと切出しました。平和利用のためと抗弁しているイランには核兵器開発の疑惑が持たれていますが、プルサーマル用と称されている日本のプルトニウムも、核兵器に転用可能なのです。また鈴木さんは、核不拡散体制が核兵器保有国、原子力発電と使用済み核燃料の再処理やウラン濃縮を認められる国、発電のみ認められる国に差別化されている問題や、日本が未だに原発技術の輸出を目論んでいることを強く批判しました。
3.原子力発電は安全であるとの考えが広まった経緯
広島、長崎の原爆投下で大きな被害を蒙った日本が、原発大国と化したのにはアメリカの国策がありました。このブログに掲載した広島原爆投下前の米政権内の意見対立と、ポツダム会議の裏側に書きましたが、第二次世界大戦前にアメリカの国務次官だったジョセフ・グルー等は、ウォール街のビジネス戦略として日本のインフラの徹底的破壊を回避するため、原爆投下阻止のため様々な画策を行いました。彼等の試みは成功しませんでしたが、グルーは戦後の日本でのビジネス再開のために作ったアメリカ対日協会の名誉議長に就任し、原爆開発のノウハウを基にしたアメリカ原子力産業を日本に展開するため、原子力平和利用博覧会を各地で開催、原子力は原爆だけでなく、様々な平和利用につながっているというキャンペーンを展開し、日本人の反核アレルギーを弱めていったのです。やがて日本では政界、官界、業界、学会、マスメディアなどで構成される利益共同体(俗称原子力ムラ)が実体のない安全神話を生み出しました。この間に大勢の日本人が原子力発電は安全であるとの教育を受けて育ったことを思うと、教育の効果には恐ろしいものがあります。はからずも福島の事故によって、このような虚構の実体が暴かれたのです。
4.世界会議場の中と外の温度差
会場は脱原発に向けた気運で大いに盛り上がっていました。主催者側発表によると、入場者数は初日に6000、二日目は5500で合計11500でした。両日とも入場した人が大勢いた筈で、これは延べ人数と見るべきでしょう。参考までに私が現役時代に関わりのあった日本分子生物学会年会の実参加者数は、ここ数年10000前後で推移していました。これと比較すると、原発事故がこれだけ問題になっている日本で開かれた脱原発世界大会にしては、入場者数が多かったと単純に喜べない気がします。
2日目の午前、図のようにみなとみらい駅を出たところと、パシフィコ横浜の少し手前と、玄関前にポスターを手にしたボランティアの方が一人ずつ立っていました。玄関にはスポーツフォーラムの大きな看板が設置されており、脱原発を掲げた重要な世界会議が開催されているという雰囲気から程遠い感じがしました。また、初日午後、会場から脱原発世界大行進が通るみなとみらい大通りに急ぎましたが、途中のクイーンズスクエアやランドマークタワーは会場とは別世界でした。この世界会議は六つの非政府系組織が共同で実行委員会を立ち上げたもので、公的支援や金づるになる企業の協賛はなく、芸能やスポーツのイベントのような大規模な前宣伝がなかったことも関係したでしょう。
5.大規模街頭行動や署名運動で国を動かす
今までに幾度も市民団体の街頭行動を見てきましたが、今回の脱原発世界大行進ほど大勢の警官が付きまとって歩いたのを見たことがありません。まるで護送しているようで、過剰規制の最たるものでした。歩道沿いにも公安の腕章をつけた要員がちらほら見られました。警察当局は街頭行動による意思表示を極力抑え込もうとしているようです。翌日、東京新聞が第一面で大行進を大きく報道したほかは、新聞報道は微々たるもの、NHKは何ら報じませんでした。NHKニュースは凶悪犯罪については長時間を割いて微に入り細に入り伝えるのに、このような動きを伝えなかったのは残念なことです。民主的手段によって市民達の要求を知らしめるには、アラブの春のようにネットを通じて情報を周知して、メディアが無視できないような大規模の街頭行動を展開するとか、脱原発に向けて国を動かすような署名運動を進める必要があります。
6.現在進行中の脱原発に関連した署名運動
私の知る限りでは、現在少なくとも三つの署名運動が進められています。未だの方はぜひご協力ください。
6A.脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める全国署名 内橋克人さんら9人の著名人が呼びかけ人になっている「さようなら原発」一千万署名 市民の会」が衆参両院議長と総理大臣に提出しようとしています。最終締切は2月28日で、次のサイト趣旨と署名用紙をダウンロードできます。12月21日までに、320万署名が集まっているそうです。
6B.「原発」都民投票
天野祐吉さんら19人の著名人が発起人になって、東京電力管内にある原発稼動の是非を問う都民投票条例の制定を請求するために集めている署名です。署名集めできるのは32名の請求代表人か、登録した受任者に限ります。請求代表人は全都の有権者から署名集めできますが、受任登録者は同一市区町村の有権者からに限られます。都民有権者の1/50(約22万人)以上の署名が提出されると、都知事は受理した日から20日以内に議会を召集し、審議し、結果を公表しなければなりません。署名集めの期間は12月10日から2ヶ月間で、現在追い込み体勢に入っているようです。受任者達が署名を集めている場所は、こちらにアクセスして、スクロールダウンして御覧ください。
6C.「原発」国民投票
原発都民投票を求めているのと同じ著名人が発起人になって、原発をどうするのか決める国民投票の実施を求めるために集めている署名です。みんなで決めよう「原発」国民投票事務局のホームページから署名できます。国民の1%に当たる111万名からの署名を目標としていますが、「さようなら原発」のように集まればこの目標値を大幅に上回ることが可能と思われます。
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