日本スポーツ振興センター(JSC)が選定した新国立競技場建設計画が、莫大な費用と神宮外苑の美しい景観破壊の点で批判に曝されている。6月22日のテレビ朝日 報道ステーションでも、冒頭の動画のような問題点が紹介された。
新国立競技場建設計画を巡って行われた国際コンペの2次審査に残った11案のうちには、競技場全体を樹木で覆うような個性的なものもあったという。最終案の選択経緯は明らかでないが、当初案として選ばれたのはイギリス在住の建築家ハディド・ザハ氏のものであった。審査委員長を務めた建築家 安藤忠雄氏は“大変大胆で、これまで見たことがない案”と語った。ザハ氏自身も、”革新的エンジニアリングだけでなく、流動的なデザインで、建物と周りの景観とどう融合するかに時代は注目している”と語っている。既に市民や建築家達から反対の声があがっているが、この案はザハ氏の言とは裏腹に従来の美しい神宮外苑景観には全くそぐわないもので、筆者の目には広大な砂漠か未来の宇宙基地向けのもののように映った。
ところで当初のザハ氏のデザイン通りに建設した場合、1300億円と見積もられた総工費が3000億円に膨らむことから、先月末に示された基本設計案では、前後の橋の部分をカットしたり、高さを75メートルから70メートルに下げたりしたなどに修正された。それでも8万人を収容する日本一の巨大スタジアムで、JSCの河野一郎理事長は”大変素晴らしいものができつつある”と語っている。しかし、この案で1625億円と言われる総工費は消費税5%時の概算で、今後さらに膨らむ可能性が大である。テレ朝番組は、“国民的議論もなく進んでいるが大丈夫なのか?”と問いかけている。
反対派の中心的存在が、建築家の槇 文彦である。槇氏はニューヨークのグラウンドゼロビルなどを設計し、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞している。槇氏は上から見た写真だけでは基本設計案の競技場がどんなものか分からないと主張する。歩行者の目線で見ると、現在の神宮外苑では、周りに空が広く見える中に絵画館が建っている姿が象徴的であるが、基本設計案では、そそり立ったコンクリートの壁が支配的で、絵画館のすぐ横に巨大な建物が浮かび上がってくる風景に変わっていくと述べている。
槇氏は、“建築は住む人、訪れる人に愛されるものでないといけない、対応策の一つは今あるものの改修、もう一つは新しく建てても、穏やかでささやかなものにしてお金をかけないこと、無理につくれば世紀の愚挙になる”と基本設計案を厳しく糾弾している。
下村文部科学相は”今のような見積りで大丈夫なのか、見直しが必要な部分がある。制度設計そのものを大幅に見直すことはあり得ないと思うが“と煮え切らない対応である。オリンピックが終わった後、これほど巨大な施設を満杯にするようなイベント開催の可能性は低く、維持管理費で巨額の予算を食いつぶすことは明らかなうえ、失われた景観を取り戻すことは不可能である。広大な砂漠や将来の宇宙基地に似合うような新競技場の建設計画に反対する。以前の記事で述べたように、日本を代表する建築家の一人伊東豊雄さんが、新競技場を造らず現競技場の維持改修で済ませる代替案をまとめている。
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