
(産経新聞)
若さとは時に「バカ」と同義であり、「悪ノリ」とイコールであったりする。だが「若気の至り」で許される事柄にも限度はある。大阪市此花区の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)で男子大学生3人が迷惑行為を繰り返した問題は、USJが被害届を提出し、大阪府警が威力業務妨害などの容疑で書類送検する刑事事件に発展した。来園者に夢を与えるテーマパークの性格上、刑事罰を求めることには慎重論もあったが、学生らの不遜すぎる振る舞いがUSJにレッドカードを決断させた。安全に気をもむ係員に学生はこう言い放ったという。「はい、確信犯です」
■後悔先に立たず
《“格好だけなら誰にでもできる”と。ならば“普通じゃないことをして格好だけじゃないとこを見せる”。これが信念》
威力業務妨害などの非行事実で家裁送致された神戸大生(19)は昨年10月15日、USJでの自らの行為についてブログにこうつづった。誰もやらないことをして目立ちたい。そんな“ウケ狙い”の行動は半年後、世間の猛烈な批判にさらされることになる。
騒ぎの発端は神戸大生が3月21日、USJが新設したばかりのアトラクション「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ」で手首を骨折したと、ツイッターに嘘を書き込んだことだった。
《鬼横乗り出して手広げとったら、よ!柱に手ぶつけて手首骨折した。まじで柱にあたるもんやねんな》
※「鬼横」=おそらく「鬼のように横に」(つまり、大きく横に)の意
書き込みには、実際にはサッカーで骨折した際に撮影したX線写真が添付されていた。臆面もなく迷惑行為を自慢する内容にネットユーザーらが反発。ツイッターなどの更新履歴から過去の迷惑行為を暴き出し、ネット上で拡散させた。
ユーザーらはさらに、一緒に行動していた関西外大生(19)と同志社大生(20)の存在も割り出し、各大学に迷惑行為を通報。大学は学生を処分したが、USJは7月10日、「もっと厳しい処分が必要」として府警に被害届を提出した。
3人は同月22日、アトラクションを運行停止に追いやったとして威力業務妨害容疑などで書類送検された。8月1日には神戸大生と関西外大生が家裁送致に。神戸大生はツイッターに嘘を書き込んだとする偽計業務妨害の非行事実にも問われた。
捜査関係者によると、3人は府警が事情聴取を始めた当時、まるで人ごとのように淡々と動機を語っていた。しかし次第に事態の深刻さを理解し、後悔を口にするようになったという。ある学生は捜査員にこんな本音を漏らした。
「今ではUSJや他のお客さんにひどいことをしたと思います。こんな大きいことになるとは思っていませんでした」
■ネットと現実で二枚舌
実はUSJ社内では騒動の発覚後、被害届提出の是非を話し合う会議が頻繁に行われていた。
「迷惑行為によって事故が起きれば責任問題。厳しく罰するべきだ」と強硬派が主張すれば、「すでに社会的制裁を受けている」と同情的な社員もいた。「エンターテインメント企業のイメージに刑事罰はそぐわない」との声も上がった。
USJは議論の末、捜査当局に3人の刑事処分を求める方針を確認。最終的に被害届の提出に踏み切ったのは、3人に反省の態度が見られなかったからだ。
3人はいずれも奈良県在住で中学時代の同級生。USJを「聖地」と呼び、大学入学前の24年3月ごろから年間パスを使って来園しては、迷惑行為を繰り返していた。
アトラクションに乗って暴れるのは当たり前。園内の茂みに隠れ、来園者の背後から突然大声を出して驚かせることもあった。USJはそのたびに3人を注意したが、神戸大生はその様子まで面白おかしくネットに書き込んでいた。
《係員さんに2回きれられたわず。「あなた確信犯ですよね」「あ、はい、確信してます」わず。ジュラパご利用禁止なりかけわず》(昨年3月26日)
※「わず」=ネット用語で何かをやり終えたことを表す。英語の「was」が由来
※「ジュラパ」=USJの人気アトラクション「ジュラシックパーク・ザ・ライド」のこと
《この日はほんまに係員からの注意が多かった。あげくの果てには係員が後ろをつけてくる始末。〈中略〉あと一歩で退園かい》(昨年10月16日)
ネットでの強気な態度と裏腹に、現実に注意を受けた際には係員に泣いて謝罪したこともあったという。ある社員は「われわれの前では従順な態度なのに、ブログやツイッターでは小ばかにするようなまねをする。演技で謝っているとしか思えなかった」と振り返る。
アトラクションで骨折したという事実無根の書き込みがあった3月、USJは攻勢に出る。年間パスの登録情報をもとに、3人に事情を説明するよう呼び出しをかけたのだ。
しかし、3人は再三にわたる呼び出しを無視。月末から4月にかけてようやく来園したが、それも騒動を察知した大学関係者や保護者に強制的に連れられてのことだった。
社員は「相手はまだ学生だという思いもあったが、安全に関わる問題を軽んじる態度には厳しい姿勢で臨むしかないと考えた」と打ち明けた。
■“余罪”の告白多数
テーマパークでは非日常的な体験に気分が高揚し、思慮なくいたずらに走る若者が稀(まれ)にいる。実際、USJでも過去にアトラクションの緊急停止ボタンを押されたことはあったが、あくまで一過性。ここまで常習的に迷惑行為を受けたのは初めてだったという。
3人が立件されたのは3件の迷惑行為だったが、犯行はこれだけにとどまらない。神戸大生はネット上で“余罪”を多数告白しているばかりか、アトラクションごとに迷惑行為のノウハウも教示していた。例えば「ジュラシックパーク・ザ・ライド」についてはこんな具合だ。
《最後のティラノ以外のところは乗ってる途中に立ち上がったり寝転がったりしても大体マシンが止まることはない。〈中略〉正直おふざけはジュラシックパークに限る》(昨年3月30日)
※「最後のティラノ」=ティラノサウルスの仕掛けが登場するアトラクション終盤の場面
一歩間違えば重大な事故につながりかねないテーマパークでの迷惑行為。ある府警幹部は今回の事件の意義をこう強調した。
「楽しむことと悪ふざけをすることは全然違う。悪質なマナー違反は罰せられるという認識が広がったことで、若者たちが自分たちの行動を考え直すきっかけになるのではないか」
わざわざ自分のバカさ加減を公開している…ということに気付かないんですね、バカだから。
記事の冒頭の一文、『若さとは時に「バカ」と同義であり、「悪ノリ」とイコールであったりする』…名文ですな。 