アジア映画巡礼

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TIFF2023-DAY2&3:ペマ・ツェテン監督の遺作『雪豹』を見る

2023-10-25 | アジア映画全般

昨日と今日は、メニエル病で三半規管がおかしくなり、会場にほとんど行けずじまい。やっと今日の夕方から外出してきました。今回の上映作品中、一番見たかったチベットのペマ・ツェテン(万玛才旦)監督の遺作『雪豹』を見るためです。正確には最後の作品ではないのですが、2022年7月に本作を撮り終えたあと、本年、2023年5月8日にペマ・ツェテン監督は急逝し、その後9月6日に本作が中国で公開されたため、遺作と言えると思います。ペマ・ツェテン監督作『轢き殺された羊』(2018)などでお馴染みの強面俳優、ジンパが主役の1人で出演し、またまた怪演を見せてくれています。

『雪豹』
 2023/中国/チベット語・中国語/原題:雪豹
 監督:ペマ・ツェテン [万玛才旦]
 出演:ジンバ、ション・ズーチー、ツェテン・タシ
 今後の上映日時:10/26(木) 21:10- / 10/29(日) 18:40- / 10/31(火)
10:00-

映画は、4人のテレビクルーが車に乗って、チベット高原をひた走るシーンから始まります。「2016年青海省某チベット自治区」とテロップが出ますが、彼らはその地で雪豹が捕らえられたというニュースを耳にし、向かう途中なのでした。ディレクターと運転手、そして主任はチベット人ですが、カメラマンの青年は漢人で、チベット語を勉強中とのこと。従って、彼らの会話はチベット語と普通話(中国語)が入り混じっています。途中ディレクターの同級生だったというチベット僧をピックアップし、そのチベット僧の実家にやってきた4人は、年老いた父親、猛々しい長男、従順な長男の嫁と赤ん坊に迎えられます。他にも人々が集まっていて、羊囲いの中を見ています。長男の話だと、雪豹が羊囲いの中に入り込み、9頭もの羊を殺したのだとか。1頭1千元はする、というので、この大損害に長男は猛り狂っています。

しかし、雪豹は第1級の天然記念物となっており、勝手に始末することはできません。省のお役人が来て、その命令に従わないといけないのです。それもあって、長男はよけいに怒り狂います。チベット僧はこの家の次男なのですが、昔、雪豹との間で不思議な経験をしていました。次男は丘の上にこの雪豹の仔らしき姿があるのを見つけ、早く親の雪豹を仔の元に返してやりたいと思ってしまいます。一方、テレビ局のクルーは、珍しい雪豹の動画を撮ることに腐心します。こうして時間はどんどん経っていくのですが...。

さすがペマ・ツェテン監督作、2時間という長さを緊張感溢れる映像と話の展開とでまったく感じさせず、観客を掴んで放しません。雪豹はCGとわかっていてもその姿には目を奪われ、ビロードのような毛並みにさわりたくなってしまいます。動物とお役所の規則や人間界の事情とのせめぎ合いでは、同じ監督の『オールド・ドッグ』(2011)を思い出してしまいますが、チベット民族Vs.漢民族の小さな不協和音が描かれているのも、ちょっと似ていますね。ただ、少々肩透かしだったのは、チベット僧がもっと大きな位置を占めるのでは、と思っていたらそれほどではなかったことで、僧の法力などは感じさせぬように避けたのでしょうか。9頭の羊が雪豹に襲われるシーンも出てきますが、「動物は一切傷つけていません」とありましたので、安心してご覧下さい。ペマ・ツェテン監督の遺作はほかに、監督作と脚本執筆作がそれぞれ1本ずつあるようなので、これらも見られることを願っています。

あと2本、オンラインで見た作品(ゲストパスをいただいているので、全部ではありませんが、いくつかの作品はオンラインの英語字幕付映像で見られます)を簡単にご紹介しておきます。

『ラ・ルナ』

© 2023 CLOVER FILMS PTE LTD

 2022/シンガポール、マレーシア/マレー語・英語/原題:La Luna
 監督:M・ライハン・ハリム
 出演:シャヘイジー・サム、シャリファ・アマニ、ワン・ハナフィ・スー
 今後の上映日時: 10/26(木) 13:35- -

© 2023 CLOVER FILMS PTE LTD

敬虔なムスリムが暮らす、マレーシアの田舎の村。都会からその村にやってきたハニー(シャリファ・アマニ)が開店したのは、何とセクシー・ランジェリーのブティック「ラ・ルナ」。厳格な村長や警察官らは渋い顔をしますが、そこで買ったセクシー・ランジェリーを着用に及ぶと夫婦仲がぐっと円満になることがわかり、村中の女性がこぞってお買い物に訪れる人気店に。トラブルに右往左往していた警察官も、いつしかハニーの魅力に惹かれていき...。艶笑コメディ(と言うにはかわいいもの)ですが、最後は大事件があってちょっとしんみり、という、ありがちの筋運び。でも、少しおばさんっぽくなったシャリファ・アマニ(あの可憐なオーキッドももう37歳)が奮闘しているから許す! てな感じの作品でした。

© 2023 CLOVER FILMS PTE LTD

 

『青春の反抗』
 2023/台湾/中国語/原題:
 監督:スー・イーシュエン [蘇奕瑄]
 出演:リー・リンウェイ、イェ・シャオフェイ、ロイ・チャン
 今後の上映日時: 10/26(木) 10:30- -11/01(水) 10:20- 

© 2023 SUZ CREATIVE STUDIO. ALL RIGHTS RESERVED

台湾で、戒厳令が解除された1987年の少し後、1994年の物語、という設定になっています。美術を専攻するため大学に入ったチーウェイが、学生運動の中心となっている男子学生クァンや女子学生チンと知り合い、友情を越えた愛情にからめとられていくストーリーで、残念ながらあまり乗れない作品でした。当時の台湾の雰囲気もいまひとつ捉えられておらず、机上の空論だけ言ってはビールを飲むばかりの主人公たちにも共感できず...。

© 2023 SUZ CREATIVE STUDIO. ALL RIGHTS RESERVED

1994年の台湾の若者たちは、もっと地に足が着いていたように思います。1994年は捷運(地下鉄)の建設が進み、試運転が始まった頃でした。それに伴い、街のデザインが一新されつつあったのですが、その一方で、捷運の駅は有事の時には防空壕になる、ということも市民には知らされており、緊張感が漂っていたのを思い出します。若者も含めた市民は皆、香港の3年後の「返還」の意味も肌に感じつつ、台湾の将来を透視しようとしていた時期でした。そんな台湾を感じさせてくれる作品ではなかったのが残念です。

© 2023 SUZ CREATIVE STUDIO. ALL RIGHTS RESERVED

明日も体調がいいといいのですが。というわけで、おやすみなさい。


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