アジア映画巡礼

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君は『モンキーマン』を見たか? ① デヴ・パテルの監督デビュー作が凄い!

2024-07-11 | インド映画

今、試写を見た人たちが一様に驚いている映画があります。私がいつもその映画評を楽しみにしている浦川留さんのブログにも、「『あまりの面白さにジョーダン・ピールが“買い取った”復讐アクション超大作』とのキャッチコピーに大納得のアドレナリン噴出系バイオレンス映画」とあって、おお! と思いましたが、その映画は『モンキーマン』。『スラムドッグ$ミリオネア』の主演の少年、と言えば誰でもが顔を思い浮かべるデヴ・パテル(私はいつも音引きを付けた「デーウ・パテール」表記にしていますが、この作品の紹介文に関しては、公式サイトに使用されている表記「デヴ・パテル」で統一します)主演作にして、彼の監督デビュー作でもあります。もう一つ付け加えると、脚本もデヴ・パテルによるものです。まずはチラシに使われているメインビジュアルを見ていただきましょう。

デヴ・パテル、何だか怖い顔で、感じが違いますね。これまで日本公開されたデヴ・パテルの主演作には、スラム街出身の少年がその苦労した全人生から得た知識でクイズ番組に優勝し、愛する人をも窮地から救い出す『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、インドの地方のホテルを再建しようとする若き支配人が、外国人客を迎えて右往左往する『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(2012)、19世紀末に生まれた数学の天才で、イギリスのケンブリッジ大学にも留学したラーマーヌジャンの生涯を描く『奇蹟がくれた数式』(2016)、そして2008年のムンバイ同時多発テロ事件に巻き込まれた、タージマハル・ホテルのシク教徒従業員の視点から事件を描く『ホテル・ムンバイ』(2018)等がありますが、いずれでもデヴ・パテルは、善人で、ちょっと頼りないキャラクターながら果敢に行動を起こす人物を演じて、観る者に強い印象を残してくれました。ところが『モンキーマン』でデヴ・パテルが演じるキッドは、それらの残滓を残しながらも、似ても似つかないキャラクターとなっています。それがまず、「かわいくて心やさしいデヴ・パテル」のイメージを粉々にし、観る人を驚かせたのでしょう。

デヴ・パテルが演じるのは、アンダーグラウンドの賭け試合会場で、このチラシ裏面上部にあるような猿のマスクを被って戦い、最後には相手に殲滅されてしまういわば「噛ませ犬」として生き延びているキッド。やがて彼の過去が少しずつ明かされ、幼い頃はやさしい母と2人暮らしだったこと、その母が殺され、自分は母のお陰で逃げ延びたものの、ずっと母を殺した人間を見つけ出し、復讐することを願って生きてきたことがわかってきます。キッドが幼い頃から、母はインド神話に登場する猿の武将ハヌマーンの話を聞かせてくれ、祈りの言葉も教えてくれます。その思い出が蘇るたび、殺人者への復讐の誓いを新たにするキッド。やがてキッドは母の仇を発見し、その敵を殲滅すべく、敵が通う高級クラブ組織にレストランの下働きとして潜り込むのですが、クラブのホステスの1人シータとも心を通わせ合うようになります...。

©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

このホステスを演じているのが、先頃日本でも公開されたタミル語映画『PS1:黄金の河』(2022)と『PS2:大いなる船出』(2023)に出演していたショビタ・ドゥリパラ(ショービター・ドゥーリパーラ)です。『PS1』『PS2』では、将軍の娘で王女クンダヴァイの女友達であり、クンダヴァイの弟王子アルンモリを慕い、婚約者的存在になる高貴な女性ワーナティを演じていましたが、『モンキーマン』では上の画像のように、セクシーな衣装を身にまとい、酒席で男たちにはべる女性を演じていて、印象がまったく違います。でも、輝くばかりの美しさは『モンキーマン』でも観る者の目を引きつけ、さらに役名の「シータ」がインド人ならそれだけで様々な空想を広げてしまう力を持っていて、キッドのミューズとして本作に彩りを添えてくれています。

©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

主人公キッドの物語は、実際にご覧いただく方がいいと思うのであまり詳しくは書かず、あと2回ほどのご紹介では、鑑賞の手助けになるかも、という事柄を2、3取り上げることにします。しかしこの『モンキーマン』、デヴ・パテルが書き上げた物語ではあるものの、あるいはそれゆえか、デヴ・パテル自身のインド系イギリス人としての経験、思考、そして情念がぎっしりと詰まっていて、非常に見応えがあります。初脚本作&監督作で、これほど盛り込まなくてもよかったのではないか、と思うぐらい、随所に彼の思いが溢れていて息苦しいぐらいです。特にインド世界に近しい方はその思いを強くなさるでしょうが、一方でアジアン・アクション映画好きの方は、様々なプロットやアクション設計に、香港映画始め韓国映画、インドネシア映画等のアクション映画の影響を見ることでしょう。プレスによるとデヴ・パテルは、「ドラマチックな要素を混ぜ合わせた。僕の好きな映画には『アジョシ』、『オールドボーイ』、インドネシアの名作『ザ・レイド』もある。本作には『ザ・レイド』のチームから何人かが参加している。サンダーロードが製作を担当した『ジョン・ウィック』のチームからも、スタッフが参加している。これらすべてをミキサーに入れ、インド産のマサラを加えたんだ」と語っているとか。どんな作品になっているのか、とっても気になるでしょう? あと1ヶ月あまり、楽しみにしてお待ち下さいね。

©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

最後に映画のデータと予告編を付けておきますが、本作は製作国として、「アメリカ、カナダ、シンガポール、インド」の名前が挙がっています。のちほど、そのあたりの事情も加わった、本作をめぐる事件?のお話なども書いてみたいと思います。では、映画のデータと予告編をどうぞ。

『モンキーマン』 公式サイト
 2024年/アメリカ・カナダ・シンガポール・インド/英語(一部ヒンディー語)/121分/字幕:風間綾平/原題:MONKEY MAN
    監督・脚本:デヴ・パテル
 出演:デヴ・パテル、シャールト・エプリー、ピトバッシュ、ヴィピン・シャルマ、シカンダル・ケール、アディティ・カルクンテ、ショビタ・ドゥリパラ、アシュウィニー・カルセカル、マカランド・デシュパンデ、ジャティン・マリク、ザーキル・フセイン
 配給:パルコ、ユニバーサル映画
8月23日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開 

【8月23日(金)公開】映画『モンキーマン』60秒予告編

 

 


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