アジア映画巡礼

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香港国際映画祭レポート<1>インド亜大陸の作品紹介

2019-03-25 | アジア映画全般

香港国際映画祭はもう後半です。3月18日(月)から始まり、4月1日(月)が最終日となりますが、いつもならイースター休暇を中心に清明節の休暇も入って、休日の間は映画祭も一段と賑わうのに、今年は期間中にまったく休日がありません。今年のイースター休暇は4月19日から4日間で、あまりにも後になるため、前倒しにされたのでしょうか。昨年は3月19日から4月5日だったので、期間も少し短くなったようです。東京国際映画祭(TIFF)と同じで、予算が厳しくなったのかも知れません。

今年の映画祭大使は、5年間続いた古天樂(ルイス・クー)から郭富城(アーロン・クォック)に代わりました。今年はオープニングに参加できなかったため、お顔は拝めませんでしたが、昨年のTIFFで上映された『プロジェクト・グーテンベルク』(2018)での名演のように、毎年いい作品に出演しているアーロンです。上に付けたのは、香港国際映画祭事務局の広報から送られてきた写真です。この映画祭でもTIFFと同じく、広報がしっかりしていて、逐一レポートが送られてきます。

オープニング・フィルムは香港映画『沈黙的證人』で、監督はフィンランド出身のレニー・ハーリン。ハリウッドでは実績のある、アクション映画を得意とする監督のようです。ジャッキー・チェンの『スキップ・トレース』(2016)も撮っているので、そのご縁かも知れません。でも、香港人の監督作品でないのはちょっと寂しいですね。出演は張家輝(ニック・チョン)、任賢齊(リッチー・レン)らですが、開幕時の上映には、あと郭晋安(ロジャー・クォック)、呉卓義(ロン・ン/義の字が違いますが許して下さい)、陳家樂(カルロス・チャン)が登壇したとかで、上の写真は左から上記の順番になっています。オープニング・フィルムは開幕日に2回上映があるだけで、追加上映もなく、プレスに開放されているオンデマンド映像のリストにもなくて、見られないのが残念です。

というわけで、このオープニングからだいぶ遅れての参加ですが、例年になく1週間近くいられるので、しっかりと映画を見られて嬉しい限り。今日は、これまでに見たインド亜大陸の作品を3本ご紹介しましょう。

『聖山迷羊/The Gold-Laden Sheep and the Sacred Mountain』(2018、インド)


何と、珍しいガッディー語という言語の映画です。ヒマーチャル・プラデーシュ州のガッディー族の言語だそうで、ヒンディー語表記が見当たらず、ガッディーなのかそれともガッリーなのか、正確な発音は不明です。山の上で羊飼いをしている部族のようで、音声を聞いていると一部ヒンディー語に近い単語はあるものの、まったくといっていいほどわかりません。映画の中で、山の商店(といっても、テントの粗末なものですが)で買い物をする時はヒンディー語が使われていたので、ヒンディー語もしゃべれる人たちのようでした。映画はドキュメンタリーに近く、中心人物の老人アルジュンとその使用人バハードゥル、そして、麓から必要品を運んできたりする男たちが、高山の中腹にある粗末なアルジュンの小屋で話したり、羊を追ったりする様を描写していきます。


そのうち、近くに飛行機が落ちたらしい、という話になり、以前落ちた飛行機からはたくさんの金(きん)が見つかったという話が皆の口にのぼり、男たちの幾人かは落ちた飛行機を探しに行きます。ところが、留守番のはずだったバハードゥルも出かけて行き、斜面を滑落して動けなくなってしまいます。バハードゥルは宝探しの男たちに助けられ、無事戻ってきますが、アルジュンもバハードゥルを探しに出たまま途中池の端で倒れてしまいます。でも、山には不思議な神がいるのか、アルジュンも助かり、また平穏な山の生活が戻ってきます...。


羊や山の風景は本当に美しく撮られているのですが、それにひねりを加える「墜落した飛行機」はとうとう登場せず、木にひっかかったパラシュートが映し出されるだけ。各シーンの描き方にリダム・ジャーンヴェー監督の才能はよく感じられるものの、ちょっと肩すかしをくった作品でした。昨年のムンバイ国際映画祭でお披露目され、ロカルノ国際映画祭でも上映された作品のようです。予告編を付けておきます。

The Gold-Laden Sheep & the Sacred Mountain - Trailer | IFFR 2019


『ブルブルは歌える』(2018/インド)

こちらは大阪アジアン映画祭でご覧になった方もいらっしゃるでしょう。ブルブルとボニーは、アッサム州の村に住む女子高生。同級生のスムことスマンは男子なのですが、どちらかというと女子に近い心情の男の子で、いつもブルブル、ボニーとつるんでいます。彼らは性差などないように、ブランコを作って遊び、歌を歌いながら薪を集め、一緒に川で水浴びをします。ブルブルの母親はそんな3人を心配していましたが、音楽に長けた父親は村人を集めては歌や演奏の集いをするのに夢中で、ブルブルは自由に振る舞っていました。スムは同級生男子からからかわれたりしますが、クラス男子の憧れであるブルブルとの恋の仲立ちを頼んでくる男子もいます。ボニーには前からボーイフレンドがいて、ボニーとブルブルがそれぞれのボーイフレンドと学校帰りに森の中でいちゃいちゃしていた時、見張りを頼んだスムがうまく彼らに知らせる前に数人の男たちに見つかってしまい、さんざん打擲される羽目に陥ります。男たちは学校にも知らせた上、テレビにも知らせたため、この事件は大きなスキャンダルとなりました。結局、ブルブルとボニーら当事者は退学を余儀なくされ、さらに悲惨な事件が起きます...。

この高校では、共学ではあるものの教室内は男子席と女子席に分かれており、男女交際に厳しい学校であることがわかります。リマ・ダス監督は、前作『Village Rockstars』(2017)でも、主人公の少女に対し村の女性が「もう初潮を迎えたんだから、男の子と遊んだりしちゃダメよ」と言う場面を作っており、そういった因習にとらわれず男女の性差を超えて羽ばたいてほしいけど、現実は今でもこうなのだ、ということを前作に続いて描きたかったようです。


主人公のブルブルを演じたオルナリ・ダスが文字通りの美女で、先生も彼女にぞっこんでセクハラまがいのことをやる、という描写があるのが納得できるような、ファム・ファタル感を漂わせています。ラストがちょっとわかりにくいのですが、スムのキャラも自然な描き方で、前作よりはこなれた映画作りになっています。でも、日本公開はちょっと難しいですかしらん...。

Bulbul Can Sing | Official Trailer | Rima Das | Arnali Das | Manoranjan Das | Banita Thakuria


『赤色陽物/The Red Phallus』(2018/ブータン、ドイツ、ネパール)

ブータンの村で、女子高生Sangayはうつうつとした日を送っていました。それは、Sangayの父が神具の赤いベニスを作るのを生業としているからで、学校ではいつもからかわれるため、やがて学校をサボるようになります。彼女には、父が演じる祭りの道化アチャラ↓が時々幻影のように見えることがあり、それも彼女の心を沈ませます。


彼女には言い寄ってくるトラック運転手がいましたが、彼の不誠実さを知るSangayは相手にならないでいました。ところがある日、彼女は運転手に組み敷かれてしまいます....。

THE RED PHALLUS by Tashi Gyeltshen | Clip | GeoMovies

幻想的なシーンがいろいろと立ち現れる作品で、シュールな描写はちょっと私の好みではなく、あまり乗れませんでした。それにしても、インド亜大陸の女子高生は、つらい青春の主人公にばかりされてお気の毒。もっと、はつらつとしたあなたたちが見たいものです...。


なお、今、映画祭事務局にスチールの提供をお願いしている最中なので、手に入ったら記事に加えていきます。後日ご覧になって、レイアウトが違っていたりしたらそのせいだと思って下さいね。

<追記>広報担当の方から、スチール写真をいただきました。ありがとうございました! Thank you for providing the still photos of the films.  Special thanks to Mr. Jonathan TAM & Mr. Ian YUNG of 43th HKIFF.

 


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