アジア映画巡礼

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香港国際映画祭レポート<2>李麗華レトロスペクティブ@元香港監獄

2019-03-27 | 韓国映画と香港映画

香港国際映画祭には、1993年から続けて参加しています。1993年は香港中文大学に留学していたこともあって、午前中の授業が終わるとすっ飛んで行き、全期間をたっぷりと楽しみました。当時の私の関心は、古い時代の香港映画や中国映画で、香港電影資料館がまだなかった時代のこと、科学館や太空館(スペース・ミュージアム)のホールで上映されるレトロスペクティブをしらみつぶしに見た記憶があります。ここ10年ぐらいは毎年3日か4日しか参加できなかったため、レトロはあきらめていたのですが、今年はレトロ作品の上映本数が4本と少ない上、李麗華(リー・リーホア)作品の修復版が上映されるというので行ってみました。

映画をご紹介する前に、上映が行われたホールのある「大館(タイクン)」という場所について、ちょっとご説明したいと思います。これは、中環(セントラル)地区にあった警察関連施設3つを再利用したもので、もと刑務所(下の写真)、もと警察本部、もと中央裁判所(上の写真)がリフォームされて、文化展示施設やお店、レストラン、バー等に生まれ変わっています。3つの施設の中でイギリスが植民地化したあと一番早くできたのが中央裁判所で、1841年完成の建物だとか。


中でも面白いのがもと刑務所部分で、独房をそのまま残して展示室にしてあるのは誰でも考えることながら、中にいると囚人気分になれてスリリングです。中の展示は、19世紀半ばから、2006年に閉鎖されるまでの食事内容の変遷などで、昔の食事は再現できなかったのか、米粒が盛ったお皿が置いてありました。

そのほか、独房部分の壁をぶち抜いてバーにしてあるところもあり、間接照明の入れ方がうまくて、幻想的な空間になっています。

気さくに飲み食いできる茶餐庁のような店もあり、映画の前に卵&ハムサンドとマンゴー・スムージーの大(さすがの私も途中でもういいわと思ったぐらい量が多かった)を食べても56香港ドル(780円)。パブ的なお店もいくつか中庭に展開していて、平日の夜だというのに賑わっていました。



レトロ感あふれる建物は、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』の世界に迷い込んだみたいです。しかしながら、最初にここに行った時はさんざん迷い、建物の中でもまた迷って、劇場に辿り着いた時には大汗をかいていました。おいでになる方のために、2日目に一緒に行ってくれた香港在住の友人の指南による道案内をしておきましょう。

まず、セントラルの駅で降りて、「三聯書店」を検索して下さい。皇后大道中を歩いて三聯書店のある通りまで行き(三聯書店は寄らなくてもかまいませんが、この本屋の中二階には面白い物がいろいろ売っているので、いたん坂を下りて寄り道してもよし、です)、皇后大道中の左側のビルにあるエスカレーターを上がります。すると、目の前にセントラル名物、半山区(ミッドレベル)をずっと昇っていくエスカレーターが目に入ります。これに乗って下さい。


切れ目がいくつかあるのですが、目の前のエスタレーターが途切れ、みんなが右折して次のエスカレーターを目指す場所が現れます。目の前の左前方には、傾斜の緩やかな幅の広い階段が出現しますので、それを登っていけば「大館」の入り口となります。Googleの地図はわかりにくため、私みたいに迷う人が出てくるかも知れませんので、お気を付けて。私はその日、17,000歩ぐらい歩いたのですが、そのうちの1万歩ぐらいはこのミッドレベルを迷ってぐるぐる歩いていた分になると思います。あちこちで道も聞いたのですが、「この坂降りて右だよ」(あたらずと言えども遠からず。でも、いっぱい道が走っていて、どの道まで降りたらいいのかがわからない)とか、アバウトな教え方しか聞かれたご本人もできないため、難度が高かったです。


大館の中で、肝心の映画を上映するホールは、監獄棟を一番上まで上がって中庭に出て、左の建物に向かいます。その右端の入り口から入り、前述した独房バー(上写真)を通り抜けて、突き当たりを左に曲がったら中の左奥にエレベーターがあるので、それで1階まで上れば劇場入り口に辿り着けます。ややこしいですねー。実は、この敷地内でも迷いまくりました。

さて、その「一代影后李麗華」と名付けられた上映ですが、上映日順に『花姑娘』(1951)、『假鳳虚凰』(1947)、『艶陽天』(1948)、『揚子江風雲』(1969)が上映されます。毎日誰かゲストが来る方式で、初日は監督朱石麟の確か孫娘さんと聞こえたのですが、その方が思い出を語り、2日目は香港映画の研究家ロー・カーさん(下写真)、3日目も研究家の方が作品の解説をしてくれました。これまでに見た3本をごく簡単にご紹介しておきましょう。


『花姑娘』(1951)

モーパッサンの短編小説「脂肪の塊(かたまり)」を翻案したもの。設定を日本軍制圧下の南中国とし、上海に向かう乗り合いトラックの乗客たちがへこへこしながら日本軍の検問を受けるシーンから始まります。金持ち夫婦3組、貧乏画家、若い姉妹、そして「花姑娘」という名で知られている美女が乗り合わせますが、金持ち夫婦たちは娼婦である花姑娘をあからさまに蔑視します。

ところが、最初の宿泊地点で検問にあたった日本軍将校が花姑娘の執心し、彼女が要求を拒んだことから一行を足止めしてしまいます。最初は「日本軍になびくことなどない」と言っていた金持ちたちは、やがて微妙に主張を変えていきます...。


この物語に、抗日ゲリラ支援の人々のエピソードも加えて、上手なストーリーが作り上げられていました。20数年前に一度見たのですが、今回はプリントもきれいで字幕があり、お話に引き込まれました。李麗華の貫禄と演技はさすがで、売春婦はしていても一本筋の通った女性を硬軟とりまぜた演技で見事に表現していました。



『假鳳虚凰』(1947)


大都市の人気理容店。理容師は指名制で、いつも指名されるのがNo.3の青年。彼の顧客である金持ち娘とその親友が、No.3とその同僚を巻き込みながら、縁談成就に至るまでのドタバタを見せていきます。

恋愛コメディで、大げさな表現やベタなギャグなどにちょっと辟易。ロー・カーさんのお話だと、当時理容店組合から理容師の描き方に抗議が出て、ストライキまで行われたとか。でも、モダンな女性を演じる李麗華の美しさはさすがで、当時の流行の髪型などがノスタルジーをかきたててくれます。

『艶陽天』(1948)


こちらは社会的な視点も入ったコメディ。弁護士の叔父を助けて、叔父の家の隣にあった養護施設を悪徳業者から救う話で、のんびり屋の叔父を叱咤激励し、勝訴をかちとります。しょっちゅうキンキン声の強い口調でしゃべっている役で、李麗華のキャラにはちょっと合わなかったかも。ずぼらな叔父を演じた石■(手偏に軍)がチャーミングで、ナイスミドルの知識人をうまく作り上げています。『假鳳虚凰』のNo.3もこの人がクレジットされているのですが、顔が違うような...。せんきちさんあたりに、教えを乞わないとダメですね。


『揚子江風雲』(1969)は明日見ます。唯一のカラー作品でもあるので、楽しみです。




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