アジア映画巡礼

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グレゴリ青山さんの限定本「コンパス綺譚」が素晴らしすぎる!

2018-01-23 | 日常

グレゴリ青山さんから、素晴らしいご本をいただきました。昨年12月20日に、龜鳴屋(かめなくや)という金沢の出版社から出版された「コンパス綺譚」です。1927年~1936年の、主として中国大陸を舞台にしたコンパス(方位磁石)が導く人々の物語で、531部という限定出版、つまり限定本です。


なぜに531部?というのも謎なのですが、奥付に赤い紙が貼ってあってそれに通し番号が付けられており、ナンバー「1」から「531」までを刻印したものがお買い上げ下さった方のお手元に届く、という仕掛けです。このナンバリング用紙には粋な亀さんのイラストが入っていて、寅次郎(格好がフーテンの寅さん風)ならぬ亀次郎が船のデッキにたたずんでいます。これはグレゴリ青山さんのイラストなので、出版される本毎に亀のイラストが変えてあるのかも知れません。下がいただいた本の奥付で、この本は「著者献呈本」につき「番外」となっています。


これだけでも凝った本だなあ、と感心してしまいますが、まだまだ、「凝り具合」は続きます。さっき出した画像はカバー表紙なのですが、カバーを取り外して見開きにしてみると、ほら、この通り。左右シンメトリーのイラストとなっていて、字は鏡文字ではないものの、あとは見事に表と裏の関係になっています。字以外に1箇所だけ異なる所があるのですが、おわかりですか? それにしても、これは図版の表裏になっているのでしょうか、それともグレゴリさんの描き分けでしょうか...。そんなことをあれこれ想像するだけで、たちまち時間が経ってしまいました。


というわけで、なかなか中身に到達できないのですが、さらにもう一つ表紙の遊び心を発見。それはカバーの下から現れた表紙と裏表紙に、「コンパスの旅路」と題されたイラストが描かれているのです。「コンパス綺譚」は、元々雑誌「旅行人」(編集人は蔵前仁一さんと小川京子さん)に連載されていたもので、「旅行人」がB5判の月刊誌からリニューアル季刊化し、ページ数が一挙に増えた2004年夏号から連載が始まり、2007年夏号まで続いたのでした。最初の号はカラー見開きページで、「旅行人」が届いて読んだ時、「あれ、今度のグレゴリさんは、カラーのイラストで2ページ完結かな」と思ったことを思い出します。ところが、次の2004年秋号はカラーページではなくなったかわりに一挙にストーリー漫画となり、6ページの中に意外な人物が登場してきて、「この物語、どこへ行くんや???」と思ったのでした。結局、古びたコンパスがいろんな人の手に渡り、その都度ドラマが起きる、というロンド形式のストーリー漫画となったのですが、何せ登場人物が凄い! 実在の人物がどんどん登場してくるのでです。「コンパスの旅路」のイラストでご説明していきましょう。


まず、表の方は、最初に大連でコンパスを手に入れた安西冬樹(詩人)⇒安西が大連の波止場でコンパスを餞別に与えたカフェーの女給ハルさん⇒ハルさんが新勤務先青島で再会した三船写真館の敏郎ちゃん(のちにスターの三船敏郎)⇒ハルさんを日本から追いかけてきた城田シュレーダー(探偵小説家)⇒青島の写真館主高橋さんと三船敏郎ちゃん⇒敏郎ちゃんの父三船秋香(写真家、写真店経営)⇒哈爾浜の歌姫&ダンサーで白系ロシア人のニーナ、となっています。( )内に注釈を書いた人たちは実在の人物で、ここに描かれなかった大物もいろいろと登場します。


続いて裏表紙には、前田河広一郎(作家)⇒再びニーナ⇒上海の骨董屋のおやじさん⇒魯迅(作家)⇒阮玲玉(女優)⇒孫瑜監督と金焰(男優)⇒阮玲玉と金焰⇒そして最後は泥棒、なのでした。ほかにも、脇役として金子光晴と森三千代(いずれも作家)、郁達夫(作家)、内山完造(内山書店店主)など、キラ星のごとき人物がいっぱい登場します。「旅行人」連載の時は、こういった人物に関する注が欄外に書いてあったのですが、今回の本では1ページを使って解説が書いてあったりして、そこを読む楽しみも増えました。どの人のこともよく調べてあり、戦前の上海映画好きとかにはもう、たまらない内容になっています。グレゴリさんから、「何なら中身のチラ見せもOKです」と許可をいただいたので、上のイラストの阮玲玉(ロアン・リンユィ)と金焰(チン・イェン)が出てくるページを付けておきます。


そして最後には、「夜上海雨香港」と題されたイラスト・エッセーが。このイラストがまたユニークで、ひゅっとその世界に吸い込まれそうです。この本を読めば、すぐにでも大連、青島、哈爾浜、上海、香港へと行きたくなること請け合いですが、この本の中にタイムスリップして、「三船写真館のぼん!」とか、「ニーナさぁん!」とか「魯迅先生!」とか呼びかけてみたい気持ちにさせられます。そんな魔法が可能になるような力が、この本には宿っているのですね。

この素晴らしすぎる本「コンパス綺譚」、私がどこかの漫画賞選考委員なら、絶対賞を授与しているのに! いやいや、この本は漫画賞の範疇に収まりきれないかも知れない、文学賞でもいいかも...とか考えていたら、急に、そうだ、世の中に先駆けて、この素晴らしい本に「CINETAMA大賞」を授与してしまおう、と思いつきました。というわけでグレゴリ青山様、のちほど「CINETAMA大賞2017」の賞状と星形トロフィー(エコを考えて紙にしました)、そして賞金550ユーロをお送りして、授与式に代えさせていただきます。賞金550ユーロは、ビットコインならぬチョコレートコインでの支給となります。ご賞味いただければ幸いです。

・・・と、こんな妄想にかられてしまうぐらい刺激的な「コンパス綺譚」。グレゴリ青山さんのファンの方、「旅行人」の元愛読者の方は、すぐさま龜鳴書店のサイトからお申し込み下さい。普通の本屋には置いてありませんので、ご注意下さいね。このサイトではカラーページのイラスト等が見られますので、あなたもぜひ、「コンパス綺譚」の世界に迷い込んでみて下さい。

 


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4 コメント

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ありがとうございますーーー! (グレゴリ青山)
2018-01-24 17:31:36
cinetamaさああああああん!!素晴らしいブログを書いてくださってありがとうございますうう!感激しています。
そう、龜鳴屋さん、とても凝った本にしてくださいました。カバー表紙の絵は1枚だけ描いたものを、左右対称にしたり、表紙のコンパスの旅路も、龜鳴屋さんのアイデアで本文の中からチョイスしてデザインしてくださいました。ほんとに素晴らしい造本家さんです。

そして、ああ、第1回CINETAMA大賞を授与していただき、ありがとうございます!どうしましょう?どうしましょう?よし、トロフィーを持って、スピーチします。こほん、
「心から望めば、世界中が味方してくれるんです!」
ああ、どこかで聞いたことがあるような・・・なんだかわけがわからなくなってきましたが、トロフィーが届くのを楽しみにしています!
ありがとうございました!
返信する
グレゴリ青山様 (cinetama)
2018-01-24 20:12:46
早速にコメントをありがとうございました。

制作のヒミツも明かして下さってすみません。
あのカバーイラストは、1枚だったんですね。
ひょっとして、左右描き分けかと思い、墨の色のにじみ具合とか、いろいろ検証してしまいました。
グレゴリさんのアイディア豊富なことはよく知っていますが、出版社の龜鳴屋さん(最初、「かめなきや」と読んでしまい、「亀、なきや?(おらへんの~、亀ちゃん)」「亀、鳴きや(鳴かへんかったら浦ちゃんに売ってしまうで~)」「噛めなきゃ」とか、いろいろ脳内で遊んでいたのですが、HPで「かめなくや」さんとわかり、脳内遊びは終了しました)もいろいろアイディアマンでいらっしゃるのですね。

「CINETAMA大賞2017」の授賞スピーチ、オーム君みたいな調子でやっていただき、恐縮です。
でも、マジでどこかの賞にノミネート&受賞とならないかしら、と思うほど、創造力&想像力に溢れた作品ですね。
では、近日中にトロフィー(すみませんが、組み立てて下さいまし、って、どんなトロフィーだ??)と賞状、賞金をお送りしておきますので、ご笑覧下さい。
返信する
届きましたあああ! (グレゴリ青山)
2018-01-27 13:46:34
栄えある第1回「CINETAMA大賞」の品々が届きました!!す、素晴らしい、感激です。なんてあたたかい賞なんでしょう。極寒の寒さも吹き飛ぶようでした。ほんとうにありがとうございます!
ツイッターに写真を上げました。猫も神妙にしています。
https://twitter.com/gureao?lang=ja組み立て式トロフィー、こ、これで正しいでしょうか?--って、このトロフィーつくるのに、どんだけ時間かかってるのか、とか、この素敵なカード類は、やっぱりチチマンラールコレクションの一部なのかしらとか、思うだけで、泣けてきます!うれしいです!漫画家を続けてきてよかったです!もう、この賞、グだけでなく、毎年誰かに差し上げて、つくり手さんたちを勇気づけて差しあげてください。
あらためてcinetamaさんの遊び心とあたたかさに感謝します。ありがとうございました!ちゅっ。(トロフィーにキス)
返信する
グレゴリ青山様 (cinetama)
2018-01-28 01:51:13
コメント、ありがとうございました!
いただいたコメントを読んで、こちらの方がウルウルしてきました。
こんなに喜んでいただけるなんて...。
あんな「工作」みたいなトロフィーですのに...。

ツイッターへの写真アップもありがとうございます~。
美猫ちゃんが2匹もそばに写っていて見入ってしまいましたが、あの組み立て方で、バッチグーです(ふるっ)。
本当は、星が3つ正三角形の足場に立つように、もうちょっと大きい発泡スチロールの台(ダミーケーキ)をケーキ材料店で買おうと思ったのですが、恵比寿のその店に行ったら閉まっていたのです(泣)。
というわけで、百均の小さな円形パッケージに、うちにあった発泡スチロールをくりぬいて埋め込む、という台座になりました。

ペーパークラフトの星も、賞状も、ガネーシャのカードもご明察!のチマンラール製です。
孔雀の利是(お年玉)袋は香港製で、中身はよく考えたら500ユーロ+50ユーロセントでした。
ユーロは使ったことがないので、間違えてしまいすみません(香港ドルかインドルピーのを売り出してほしい)。

これが呼び水になって、本物の賞が「コンパス綺譚」に授与されんことを!
あんな素晴らしい作品にはしばらく出逢えそうにないので、CINETAMA大賞は毎年というわけにはいかない気がします...。
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