昨日、今年のノーベル平和賞受賞者の発表があり、イランの人権活動家ナルギス・モハンマディさんが選ばれたことが発表されました。ローマ字表記ではNarges Mohammadiさんなので、「ナルゲス・モハンマディ」との表記がほとんどだったようですが、我々南アジア関係者には「ナルギス」の読み方の方が馴染みがあります。「ナルギス(نرگس)」は「水仙」という意味で、女性名によく使われます。「イ」と「エ」の間のような音なので、「ナルゲス」でも間違いではないものの、やはり「ナルギス」と呼びたい私です。インドでもかつての大女優で、サンジャイ・ダット(『K.G.F: CHAPTER 2』のアディーラ役)の母ナルギスがいますし、2008年の春に被害をもたらしたサイクロンも、パキスタンの命名だったことから「ナルギス(Nargis)」と呼ばれました。サイクロンには不似合いかと思いますが、「ナルギス」はこんなイメージですね。
今回受賞者となったナルギスさんは、現在獄中にいる、とのことで、ノーベル平和賞が励みになればと祈るばかりですが、今回の受賞者発表で感心したのは、発表した女性委員長が冒頭で、ペルシア語の3つの単語を正確に発音したことでした。調べてみると、ベリト・レイス=アンデルセン委員長で、ノルウェイの人でした。日本での報道では「女性、命、自由」と訳された「ザン(زن)、ズィンダギー(زندگی)、アーザーディー(آزادی)」ですが、これを原稿をちらと見ただけで、つかえることなく正確に発音したことに、並々ならぬ受賞者への敬意を感じました。そのシーンが一番よくわかる、アル=ジャジーラの報道映像を付けておきます。
Iran’s Narges Mohammadi wins the Nobel Peace Prize
獄中のナルギスさんにも、何らかの方法でこの動画が伝わりますように、と祈っていますが、やはり言葉を正確に伝える、というのは、何よりも相手へのリスペクトを示すことになるのだな、と今回改めて感じました。日本のマスコミの皆さんも、この言葉に感動したのなら、即刻間違った表記の「カブール」(アフガニスタンの首都は正しくは「カーブル(کابل)」)などを正しい表記に改めてほしい、と思ってしまいます。欧米の言葉の表記は「キエフ」がすぐ「キーウ」に改められたようにすばやく右へ倣えが行われますが、アジアやアフリカの言葉には無神経な日本のマスコミには、レイス=アンデルセン委員長の爪の垢でも煎じて飲んでいただきたいです。
イランのミニアチュールに描かれた女性像
(1977年にテヘランで買った絵はがきより)
「ザン(女性)」から派生した言葉には「ザナーネ( زنانه 形:女性の、名:女性の部屋)」がありますが、昔ペルシア語を習った時に、家の中には「ザナーネ」と呼ばれる部分があり、そこは女性の領分、反対に言えばそこに女性は隔離されている、と学んだ覚えがあります。今回、ナルギス・モハンマディさんの受賞でちょっと調べてみると、「ザナーネ」はイランの女性雑誌の名前になっているようで、女性運動に関わるテーマを載せると発禁になったりしながら発行が続いている(いた?)ようです。ナギギス・モハンマディさんは、2011年に初めて当局に拘束されてから13回、拘束と釈放を繰り返しているのだとか(こちらのニュース記事に詳しい)。ノーベル平和賞がイラン当局に対する圧力にはなりそうにないのが残念ですが、イラン映画と共に、イランの女性たちの闘いにも今後関心を寄せていきたいと思います。