☆11.『見てないけど』→12.『愛されるのに臆病すぎて、』→13.『逃げるものは追うしかない』の3作品は
連動、尚且つ永久ループする物語です。
11.『見てないけど』1208
「宗田!鈴原を知らないか?」
生徒会室に入ってくるなり深行は質問をぶつけた。
「見てないけど、何かあった?」
それに応えず深行は部屋を飛び出す。
「行ったよ泉水子ちゃん」
「…うん」
物陰から泉水子が姿を現す。
真響は何も聞かなかったが泉水子の紅い顔と必死に口元を隠す仕種で何があったのか悟った
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12.『愛されるのに臆病すぎて、』12.11
深行から逃げ出してきた泉水子に真響が声をかける。
「そんな態度だと相楽、心変わりするかもね」
その言葉に思い当たる節があったのか泉水子が狼狽える。
「今なら間に合うよ」
そう背中を押すと、泉水子が部屋から飛び出す。
真響は携帯を徐に取り出した。
「あ、相楽?泉水子ちゃん今そっちに送ったから」
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13.『逃げるものは追うしかない』12.11
「待って深行くん」
という声に立ち止まる。
辿り着いた泉水子が肩で息するのを見つめながら
「鈴原、おれから逃げるなよ。おまえが逃げると追いかけたくても見つけられないんだ」
と悔しそうに呟いた。
和宮センサーの事を言っているのだろう。
素直に謝ろうと口を開いた途端、泉水子は深行の口で塞がれた。
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14.『宛先のない手紙』1210
花をあしらった便箋を綺麗に四つ折にして封筒にいれる。
封を施しあて名を書こうとして、泉水子ははたと手を止めた。
想いを綴った文書が急に色褪せた様に思えてきたのだ。
投函先をゴミ箱へ決めた途端、声をかけられた。
「あて先がおれ宛なら届けておくが」
そう言って深行は泉水子の手紙を攫っていった。
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☆15.『図書室の猫』→16.『君という名の』の2作品は連動しています。
15.『図書室の猫』1210
傾き始めた太陽の光が窓から差し込み、図書館内が黄金色に支配される。
隣に視線をやると呼吸に合わせて上下する背中が見て取れる。
程よく体が温まったのか背を丸め眠り込んでいる。
深行がそっと頭を撫でてやると小さく身じろぎする。
その様子に思わず笑みを零しながら声をかけた。
「起きろよ…泉水子」
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16.『君という名の』1210
誰かに頭を撫でられる事がこんなに心地良いとは今まで知らなかった。
名前を呼ばれた気がして泉水子は瞼を持ち上げる。
「名前呼んでくれたの?」
「…うん」
逆光で分からないが深行は困惑した表情をしているに違いない。
もう少し困らせてみたくて泉水子は言葉を続けた。
「もう一度呼んでくれないかな?」
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17.『目を閉じて、三秒』1210
顔が近づいてきて泉水子は目を閉じた。
いつもの様に心の中でカウントダウンをする。
なのに一向に訪れないそれに不安を感じ始めた頃、待ち望んでいたのとは違うものが唇に押し当てられて驚いて目を開けた。
泉水子の唇に人差し指を当てたまま深行は
「おまえさ、凄いもの欲しそうな顔してるのな」
と笑った
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18.『よくもそんな恥ずかしい台詞を』12.12
珈琲の苦さに泉水子は顔を顰めた。
「他になかったのか?」
「温かいものが欲しかったの。だけど」
泉水子の視線の先には売切の文字で埋め尽くされた自販機があった。
「そういうのは慣れだ、そのうち美味く感じる」
深行の唇に泉水子のものが押し当てられた。
「これも慣れで、そのうち上手くなると思う?」
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19.『自分のモノには名前を書きましょう。』12.12
「これ鈴原の携帯だろ?」
探していた赤い携帯を差出され
「ありがとう」
と受け取った。
「失くすなら名前書いとけよ」
とご丁寧に油性ペンも手渡す。
「わかった。名前を書けばいいんでしょう?」
面白くない仕打ちに泉水子は頬を膨らませながら、手渡された油性ペンで『鈴原泉水子』と深行の頬に書き込んだ
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20.『たとえばの話』12.13
「H・G・ウェルズか、随分古い作品だな」
SFの父と称された作家の本を手にした泉水子に声をかけた。
「もしもだよ?時間旅行出来るなら深行くんはいつに行きたい?」
質問にちらりと腕時計を見て
「9分前」
と答える。
想定外の回答に困惑した泉水子に顔を近づけ、深行は9分前の出来事を忠実に再現した
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番外編2:『嘘の質量』(ひめみゆみこ)12.11
唇に押し当てられた正体に気づく迄時間がかかった。
「何をするんですか」
深行は姫神の身体を引き剥がす。
「そなたが泉水子に施す行為を真似てみたくてな」
妖艶に微笑み深行の耳元で囁く。
「二人の秘密にするか?」
「秘密って…」
そこに姫神の姿はなく
「秘密って何?」
と聞き返す泉水子が残されていた。
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番外編3:『入れ替わり』(深行と和宮)12.13
「やぁ、鈴原さん」
泉水子は声の方に振り返ると、目を細め穏やかに微笑む深行の姿があった。
一瞬誰なのか分からなかったが直ぐに思い当たった。
「和宮くん?」
「うん」
「じゃあ…」
泉水子は足元に視線を落とすと、綺麗な毛並みの黒猫が寄り添っていた。
「深行くん?」
と尋ねると
「なんだよ」
とないた。