現役精神科医 西田昌規氏の「薬漬け」に関する 興味深いコラムを要約してご紹介しましょう。
従来から精神科医には「薬を出すしか能がない」「次々と新しい薬を出してくる」「薬をなかなか減らしてくれない」といった批判もあるが、それは事実だろう。実際の医療現場では、いま飲んでいる薬を整理するところから治療を始めて、薬を減量しただけで状態が良くなる人もけっこういる。世間では『製薬会社キャンペーン』に医師が無批判に従う実体も散見されるが、これは “病気と言うほどではない心身の不調” を指しており「病気だから大変だ」と騒ぎ立て「医者にかかったほうがいい」「治療しないと危険だ」とやかましく説いてまわる・・いわゆる よくテレビCMでも見られる『疾患宣伝』の類に思える。さらに米国では、新薬の治験に患者を差出しては多額の報酬を得る不届き者もいるのだ。
ちなみに厚生労働省のデータによれば「うつ病・躁うつ病」の総患者数は、96年に43万人だったものが、08年には104万人と2倍以上に増加。それに呼応する形で抗うつ剤の市場規模も145億円から870億円に膨れ上がったが、そういった うつ病患者の爆発的増加は「DSMなどの“操作的“診断基準の普及」と「選択的セロトニン再取り込阻害剤(SSRI)が日本に上陸したこと」の二点によるところが大きい。
とくにSSRIについては、米国で飛躍的にうつ病患者やメンタル休職者を作り出した実体もあるが、まさに今、日本もそれと同じ道を辿っていると思われる。昨今は、降圧薬「バルサルタン事件」のデータ改ざん事件も記憶に新しいが「新薬データの信憑性」といった問題も深刻になってきた。私のところにも、医薬情報担当者が、薬剤の情報提供と称して、さまざまなパンフレットを持ってきては、有効性を示した論文データを紹介してくるのだが、そういった宣伝に一役買ってきた「御用医者たち」の責任はいかにも重いと感じる。
ただ こういった事象に関して、医師側から言い訳をさせてもらうなら、精神科医療の診療報酬の安さが挙げれるかもしれない。「早く切り上げてたくさんの患者を診て、多くの薬を出さないと病院経営は維持できない現実がある」わけで・・つまり、じっくり患者の声を聞くような薬を使わない治療法なんて、青臭い「机上の空論」であり、現実には それでは院を維持できない実情があるということなのだ。
【無知の知】 とは・・ソクラテスが唱えた「無知を知っている人間は、無知であることを知らない人間より賢い。真の知への探求は 自分が無知だと知るところから始まる」という意味の哲学です。もちろん上記の論理も一側面であり、必ずしもすべてこれが正しいというわけではないでしょう。しかし、人はつねに自分は正しいと思いたがるものです。
よって『世の中にはさまざまな違った真実があり、私たちはいつも その一面しか知らない』なんて自覚し続けるのは たいへん難しいことのように思います。だからきっと・・ソクラテスが伝えたかったのは「知の探究に終わりはない」そして「そういった知の探究をやめてしまった時点で 人は無知の罠に陥るんだよ」という 私たちへ向けてのアドバイスだったような気がするのです。