流行のプロセスを見ていると、どんな物事にも『ある一定の値を越すと一気に全体にいきわたる』そんな状態が顕著に表れていますが、この一気に全体に波及する分岐点をティッピングポイント(沸点)と呼ぶのですね。米国は 70年代までの「ものづくり」から90年代の「金融」ヘ。そして リーマンショックを経て、現在は「イノベーション産業の鼓舞」へと舵を切りましたが、このイノベーションへの国を挙げての喚起が ティッピングポイントの到来そのものを加速させる要因にもなってるような気がしますよ。
先頃、米Appleは【リキッドメタル合金】を開発した企業の買収へ踏み切ると同時に、ジルコニウム、チタン、銅、ニッケル、ベリリウムという5つの要素から出来たLiquidmetal Technologiesの非晶質金属合金(リキッドメタル合金)の利用について、家電製品分野での独占的利用権利をAppleへ与える契約を結びました。このLiquidmetal Technologiesが所持するリキッドメタル合金は、加熱すればプラスチックのように容易に加工でき、冷却速度が遅いので、なんと厚さ10分の1ミリ超の構造を形成することも可能にしています。しかもそれほど加工が容易であるにも関わらず、ステンレスより3倍も高い硬度も持っているそうですよ。
これまでAppleは、酸化皮膜処理したアルミニウムを製品に使い、本体強度とデザインを確保するために1枚のアルミ板を削りだしたボディ形成を行っていましたが、それは同時に 1枚の板から削りだしてボディを作ることになるわけですから、これは削りカスが大量に発生して捨てる原料が多くなるということでもありました。つまり、捨てる原料が多いという事はコストにも跳ね返りますし、地球環境的にも良い事ではありません。今後、Apple製品の製造にリキッドメタル合金が利用される事で金型に流し込むだけで、1枚の板から削りだして作るボディと同等以上の強度とデザインが創出できるようになれば、大幅なコスト削減が望め、価格的にも性能的にも、アジアの製品よりたいへん大きなアドバンテージを得るようになるでしょう。
この記事が公になった当時、メディアは 次期 iPhoneは、薄くて頑強で よりデザイン性に富んだものになると書きたてました。しかし、Appleがその後 “米国特許庁” に申請した内容は、そんな世間の予想を遥かに超えた驚愕に値するものだったのです。アップルが取得した第7862957号の新特許によりますと、注目のリキッドメタル合金は燃料電池の製造に活用されると明記され、水素でクリーンなエネルギーを生み出すとうたわれています。これは理論上、その新電池が搭載されたiPhoneやiPadは、フル充電状態から最低30日間はチャージ不要な超ロングバッテリーを実現するということでもあるのですが・・もしこれが市場に出回れば 世界のエネルギー事情も一変することになるでしょう。
このように、技術革新は 産業の再編成だけでなく、国や経済のあり方まで【そのたったひとつの技術】で一変させてしまう力を有してるわけで・・余談ですが、他にもAppleは、このリキッドメタル合金によってナノレベルのコーティングを施すとの特許申請もしています。要するにこれは、たとえば従来の防水加工サービスでは実現出来なかった生活防水レベル以上の効果が得られることを示し、製品内部にも防水加工ができることを表します。将来は 深海の撮影にも カメラではなく iPhoneが使われる。そんな時代がやってくるのかもしれません。
さらに Appleは以下のような特許申請もしています。●スクリーン上に触感を再現 する ”触感フィードバック” これは タッチパネルなどのディスプレイを指で触ったときに、そのパネルに映し出されている物体の表面をあたかも触っているような触覚を提供する技術です。●効果音が振動などの触感でも伝わる“4D体感” これによって、触感が音や映像の一部になったような感覚を受けることでしょう。つまり、視覚障害者もボタンやキークリック、スライドバーなどを、触感を確かめながら操作することが可能になるわけですね。上記の技術は、将来的には・・・たとえば オンラインショッピングで服を購入する際に、商品の肌触りや質感などをタッチパネルで確認して、実際にお店で買う時と同様の感じが味わえることを示しているのかもしれません。
ここからわかることは、GoogleやAppleが目指す未来が バーチャルリアリティー。つまり、人間工学の粋であり、大規模インフラの消滅であるのは明らかで、人が移動しなくても、その場で体感的にリゾート地を味わえたり、大きな発電所を作らなくても家庭で電気が効果的に蓄えられるようになったり、自分で車を運転しなくても勝手に目的地に着いたりするようになれば、もはや社会インフラそのものが不要になるということを指し示します。したがって、彼らイノベーターが目指すのは、国や地域・資源・大企業といった すべての川上経済の不要化であり、私たち個人という川下が、そこで自己完結し、あらゆるインフラ資源を循環サイクルできる!といった世の中なのは間違いありません。
しかるにイノベーションとは個人。もしくは個人の集団というイノベーション企業が起こすものであり、その“個人による変化が促される時期“には、反対に 団体が疲弊する事態がどうしても起きてしまう。要するに、変える側の個人と変えられる側の集団には、かならず時間差があり・・そうなると当然、変化の時期には、革新的な個人が富み、保守的な団体は疲弊する状況が生まれてくるというわけです。従って 現在は『新たな産業革命の夜明け前』であって、全体がその革新の恩恵をこうむるのは、もっと先であると言えるような気がします。
だから問題は・・後に来る 新たな産業革命のインフラが全体に行き渡って、世間が安定するまでの期間を、私たちがどのように乗り切っていくのか? ではないでしょうか。変化が完成するまでには必ず混沌の時代が訪れます。こういった流れを現実として捉える! そんな姿勢こそが重要で【現実逃避】とは、未来を直視しない事と同じ意味になるでしょう。ティッピングポイントが到来すれば『先んじて行動することではなく、何もせず ただその時期を迎えることこそが真のリスクになる』のかもしれません。