通用口で

こう見えても、アタシは意外とシャイなのよ。

好みのタイプの男性には、そうそう気軽に声をかけられない。
歳を重ねるごとに、この傾向は強くなっていくような気がする。

昨年赴任してきた外科のＯ先生は、はっきしいってカッコイイ。
無精ひげなの？それともモミアゲ？
そんなイマドキな風貌、実は嫌いじゃないんだよなあ。
スポーツで鍛えているのか、身のこなしも軽い。
普段の雰囲気は穏やかで、患者さんへの対応も丁寧、悪い評判も聞こえてこない。
今のところ、「妻子アリ」ということを除けば、まったくの減点なしなのだ。

それな・の・に！
医局のデスクも近いという好条件にもかかわらず、アタシはほとんど言葉を交わしたことがない。
なんて無愛想な女医だろうって思われてんだろうなあ

そのＯ先生、自転車通勤をしていらっしゃる。
何度か通用口で一緒になったことがあり、今朝もバッタリ。
ところがこちらは今日はマイカー出勤。
今月からは毎日クロちゃん通勤しようと誓ったのに、どうしても“１０分早起き”ができない。

『先生は毎日自転車で偉いですねー』

今朝もクロちゃんを置いてきたという後ろめたさに、Ｏ先生に思わず声をかけた。

「いやあ、偉いなんて」

『アタシは根性なしで・・・今日こそは自転車でって思ったんだけど』

「センセイの自転車カッコイイですよね。僕のなんてホームセンターで適当に買ったやつだけど」

（いえいえ、Ｏ先生が乗れば、どんな自転車もカッコよく見えますっ、なーんてことはぜったい言えねー）

『ハイ、（うちのクロちゃん）かっこいいです。片手で持てるくらい軽いし、それにすごく速いの！きっと先生なんか簡単に追い越しちゃうと思う』

「はははそうですか。真冬はさすがにつらかったけど、もうだいぶ暖かくなってきたしね・・・」

そうよね
もう春よね。
明日は少し早起きして、クロちゃんとご出勤しましょー