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オリバー・ストーン監督「もうひとつのアメリカ史」の問題点

2017-08-23 11:59:56 | 戦勝国史観



前項『映画監督オリバー・ストーンと欧米リベラルの発想』の続き。

 オリバー・ストーン監督とピーター・カズニック教授の「もうひとつのアメリカ史」(The untold history of the United States)は、1時間ごとのドキュメンタリー10編にわたる大作で、第二次世界大戦から現代までのアメリカ史を描いている。カズニック教授が授業でストーン監督の映画を教材に使っていたことから二人は親しくなり、今回の共同作業になったとのこと。ネットで簡単に視聴できるので、今更ながら見てみたが、案の定、酷い内容だった。

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  1. 第二次世界大戦の惨禍
  2. ルーズベルト、トルーマン、ウォレス
  3. 原爆投下
  4. 冷戦の構図
  5. アイゼンハワーと核兵器
  6. J.F.ケネディ 全面核戦争の瀬戸際
  7. ベトナム戦争 運命の暗転
  8. レーガンとゴルバチョフ
  9. 唯一の超大国アメリカ
  10. テロの時代 ブッシュからオバマへ
 要は、アメリカ万歳の勧善懲悪な歴史観を、米国リベラルの視点で善悪を塗り替えただけ。中心的にスポットライトを当てているのが、フランクリン・ルーズベルト大統領時の副大統領だったヘンリー・ウォレス。リベラルで容共だったウォレスが、民主党内の陰謀により、1944年の大統領選で副大統領候補から外されてしまったがために、歴史の歯車が狂ってしまったという論理。代わって副大統領になったのが反共のトルーマン。数か月後、ルーズベルトが急死して、トルーマンが大統領になると、日本の降伏が決定的だったにも拘わらず、ソ連への牽制目的で原爆が投下される。

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 ストーン監督やカズニック教授の歴史観は極めて単純で、ルーズベルト大統領は相変わらず「偉大な大統領」。ソ連など共産勢力と協調的な人物、ウォレスやケネディは「良い人」、反共だったトルーマン、ジョンソン、ニクソン、レーガンは「悪い人」という 按配。特に徹底的に批判されているのがトルーマンで、戦後、ソ連を敵視して冷戦を始めたトルーマンを憎むあまり、アメリカで長年タブーだった「原爆投下の否定」カードを切ったようにさえ見える。「日本の降伏は既に時間の問題なのだから、原爆を投下する必要はなかった」と、トルーマンの決断を批判しながら、「原爆投下が日本降伏の決定的要因ではない。ソ連が参戦したから、日本は降伏した」などと、矛盾した主張をする有様。兎に角、トルーマンにケチをつけ、ソ連の戦争貢献が如何に大きかったかを何度も何度も強調する。

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 原爆を投下された日本人から見れば、アメリカ人が原爆投下の罪を認めてくれただけで画期的なことなのかもしれないが、ストーン監督の描き方を見ると、被害者である日本人への同情心はあまり感じられない。南京大虐殺やバターン「死の行進」を旧来どうりに描いて見せて、「日本軍=悪」のイメージを強調している。これがまた酷い内容で、戦時中のプロパガンダ映画”The Battle of China”の捏造虐殺シーンをそのまま転用しているのだ。

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 上の画像は”The Battle of China”で使用された動画で、だれが処刑しているかトリムされて分からないようにされている。トリム前が下の画像で、処刑している兵士の軍服は明らかに日本軍のモノではない。これは、1927年の上海クーデターで、国民党兵士が共産党員を処刑している動画なのである。「もうひとつのアメリカ史」では、この両方の動画が第一部と第三部で登場するが、何れも日本軍による虐殺行為の証拠ように描かれている。ストーン監督が本気で「語られなかった歴史」を発掘する気がないのは明らか。「共産勢力と協力したアメリカが邪悪な枢軸国に勝った戦争」の正義の拠り所となる「敗戦国の戦争犯罪」に関しては、見直すことなく古いプロパガンダのまま封印してしまおう、という発想なのだろう。

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 戦前のドイツと日本は、兎に角「絶対悪」。スターリンと協力して枢軸国と戦争をしたルーズベルトは「偉大な大統領」。ここまでは、全く旧態依然とした戦勝国史観のまま。その後、共産勢力を敵視した大統領にのみ、「悪」のレッテルを貼ることだけが、ストーン監督の「語られなかった」アメリカ史なのだそうな。即ち、「左翼の視点から見た戦勝国史観」に過ぎない。もっと語るべきアメリカ史の闇は沢山あると思うのだが、アメリカのリベラルにはこれ以上、期待できないと思われる。

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 私が本当に見たい「語られなかった歴史」とは、イデオロギーの影響を受けない、善悪の色分けがされていない生の歴史である。戦勝国を正義、敗戦国を悪とする「戦勝国史観」も、容共を正義、反共を悪とする「リベラル史観」も、お腹いっぱいで全く学ぶべきものはない。韓国を絶対正義とするウリナラ史観など論外。その種の、立場によって都合良く歪曲された歴史に飽き飽きしているので、本当の意味での「語られなかった歴史」が見てみたいのである。小林よしのりの「戦争論」は敗戦国・日本の側から見た「語られなかった歴史」であり、いろんな意味で世間を騒がせたが、あそこまで極端でなくても、ルーズベルトの問題に切り込む勇気ある欧米の学者がほとんどいないのは残念である。米国の有権者から「戦争をしたがっている戦争屋」だと疑われ、三選が危ぶまれたルーズベルトは、副大統領候補に人気が高くリベラルなウォレスを選び、「絶対に戦争はしない」と約束して大統領に再選した。にも拘わらず、裏で日本への経済制裁を強め、世界戦争に引きずり込み、次の四選目選挙では親ソ連のウォレスを捨てて、南部、中西部票を取れるトルーマンに乗り換えてしまった。世界大戦の責任の多くはルーズベルトにある。所詮、アメリカ史においてリンカーンとルーズベルトは絶対正義のアンタッチャブルな存在。戦争に勝った大統領が美化されるという、単純な戦勝国史観を乗り越えるのは相当難しい。だが、そんな幼稚な歴史観がまかり通るからこそ、戦争をやりたがるアメリカ大統領が後を絶たないのである。ストーン監督が本当に戦争に反対するのなら、トルーマンのような小物ではなく、ルーズベルトのような「絶対正義の戦争英雄」の虚像を剥ぐべきであろう。

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 戦争を繰り返すアメリカの軍産複合体は確かに邪悪である。だが、それ以上に邪悪なのが、人権さえ認めない共産主義国家。アメリカの方がマシなのは論を待たない。ソ連が崩壊し、中国の共産主義も形骸化したとはいえ、両国とも日本にとって脅威であることは変らない。加えて、北朝鮮の核。アメリカの側について、平和で民主的な社会を維持しつつ、平和憲法を盾にアメリカの戦争に参加しないというのが日本の生きてきた道であり、それがこれまでは結果的に成功だったわけだが、アメリカの超大国としての力が衰える状況の中で、今後の国防をどうすべきかが、日本の大きな課題である。ソ連が崩壊して、共産主義への幻想が雲散霧消したかと思いきや、欧米リベラルは未だに資本主義を憎悪し、旧共産圏へのラブコールを止めようとしない。単に世迷言を呟くだけなら構わないが、日米同盟を目の敵にし、「沖縄から米軍を撤退させろ」「しかも憲法9条を維持しろ」と注文をつけるのは迷惑千万。そんな丸裸な状況で、中国、朝鮮の脅威にどう対処するのか?日本は能天気な欧米リベラルの実験場ではない。

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