コロナワクチン無料接種、分科会で運用面を協議 :市町村が接種勧奨、接種を受けることは「努力義務」に 2020/10/05 江本 哲朗=日経メディカル
2020年10月2日、厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が開かれ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種について、費用負担のあり方や予防接種法における位置付けなどの議論が行われた。ワクチン接種にかかる費用は全て国が負担し、予防接種法上の臨時接種に位置付けることで市町村が接種勧奨を行い、国民には接種を受ける努力義務を課すといった方針が事務局から示され、分科会委員らが了承した。
これに先立って、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策分科会が2020年9月25日、「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について(中間とりまとめ )」を作成しており、予防接種・ワクチン分科会ではこの内容に沿って運用面を協議した。
COVID-19ワクチンの接種事業については、予防接種法第6条第1項、第2項の「臨時接種」をベースとして、基本的には現行の臨時接種に関する規定を適用し、一部を特例扱いとすることで了承された(図1)。内閣官房の分科会による「中間とりまとめ」でも、COVID-19ワクチンは「住民への接種を優先する」と明記されており、医療従事者など公共性の高い社会機能維持者への接種が優先される新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条の「特定接種」の枠組みでは行わないことになった。
図1 現行法における接種類型と特徴(出典:分科会資料)
接種事業の実施に関しては、国、都道府県、市町村で図2のような役割分担を行う。
図2 COVID-19ワクチン接種における国、都道府県、市町村の主な役割(出典:分科会資料)
予防接種法の臨時接種では、実施主体が都道府県または市町村で、国が関与できる仕組みにはなっていないため、今回は市町村を実施主体とした上で、特例的に国がワクチン接種の優先順位などを決める体制にする。
費用負担に関しては、ワクチンの費用だけでなく接種を行う医師に支払う技術料なども含めて特例的に国が全額負担を行い、自治体には負担を求めないことにする。また、国民からも実費徴収を行わず無料で接種できるようにする。しかし、今後の感染状況や新型インフルエンザ特措法の適用、ワクチンの有効性や安全性などの特性に応じて、この費用負担の取り扱いについては「見直しを検討していく」という文言が付記された。これについて厚労省の担当者は、「有効性・安全性の高いワクチンが承認され、それが十分な量確保された上で、基本的に初回の一連の接種事業については国が全額負担するということを方針として決めている。例えば複数回の接種が必要になったり、ワクチンの有効性・安全性がそれほど高くなかったりする場合は、費用負担の形を変えられるように制度設計している」と説明した。
今回のCOVID-19ワクチンは原則として市町村が住民に接種勧奨を行い、国民には接種を受ける努力義務を課す。ただ、これについてもワクチンの安全性や有効性などの情報が定まっていないことから、「必要に応じて、例外的にこれらの規定を適用しないことを可能とする」と、変更の余地を残した。
副反応疑い報告については、既存の予防接種法における副反応疑い報告の仕組みなどを用いる。健康被害の救済措置は、臨時接種の規定通り、高水準(障害年金1級なら年506万円、死亡一時金は4420万円など)の給付を行う。この給付水準に関しては、接種勧奨・努力義務の規定が将来的に無くなっても、変えないこととする。ワクチンの使用による健康被害によって損害賠償が必要になった場合は、製造販売業者などの損失を国が補償できるように法的措置を講じる。
このほか、分科会委員からの主な質問と事務局の回答は以下の通り。
Q:ワクチンの費用負担について今回示された方針は、1回目の接種のことを想定しているのか。免疫を維持するためにはワクチンを繰り返し接種することが必要になる可能性もあるが、そのときも同じように無料接種を行うのか。
A:基本的に今回は、最初に行う一連の接種について方針を示している。
Q:国が複数のワクチンを同時に確保して、市町村ごとに製法だけでなく有効性や副反応の出方が異なるワクチンが割り振られるという事態も想定される。国民はワクチンを選ぶことができるのか。それとも住所地に応じて強制的にワクチンを割り当てられるのか。
A:複数のワクチンが承認されるケースも十分に想定される。そうなると、臨床試験の結果によって有効性を比較することも可能だが、そのデータをどう生かし、情報提供するかは今後の課題だ。また、複数のワクチンを確保する事態になった場合、どの自治体にどういったワクチンを割り振るかについても考えないといけない。ワクチン接種を完全に住所地に限るようなことをすると、例えば施設入所者などが接種困難になるといった事態が起きることは承知しているので、何らかの対策は考えたい。
Q:接種率の目標などはあるのか。
A:考え方として、有効性・安全性の高いワクチンが確保できるのであれば、接種率目標はできるだけ高くしたい。こうした理想は共有した上で、今後、ワクチンの開発状況に応じて判断していくことになる。
Q:予防接種事業が始まる前に、何らかのきっかけで接種勧奨や接種の努力義務を見直すようなこともあるのか。
A:例えばワクチンの臨床試験の結果が出たタイミングなど、予防接種事業が始まる前に接種勧奨や努力義務規定を見直すことはあり得る。今は、有効性・安全性の高いワクチンを確保できる前提で様々な体制を準備している段階だ。
Q:努力義務を課しても接種を拒否する人が出てくる可能性がある。そのときに「予防接種を受けない人は身勝手だ」などと周囲からバッシングの対象になったり、職場で不利益を被ったり、ある場所に立ち入ることができなくなったりするなど、不利益を被る可能性もあるが、そうした事態が起きないような仕組みが必要ではないか。
A:一般論で言えば、臨床試験などで評価できるワクチンの有効性というのは、接種を受けた個人の発症予防や重症化予防の効果だ。「ウイルスに感染しない」という感染予防効果や、接種していない人にも波及するような集団免疫効果は実証が難しく、今回のCOVID-19ワクチンでも困難だろう。そのため、接種しない人は周囲に感染を広げるかもしれない、などといった考え方は誤っており、国としても正しい情報を広めていくことが大事だと考えている。
Q:ワクチンの接種勧奨を行う場合は、リスクコミュニケーションも一緒に行う必要がある。接種前だけでなく、接種後に副反応が出たときに相談する先も確保してほしい。接種した医療機関、保健所に加えて、公的な相談窓口も必要ではないか。
A:相談体制については検討を進める。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202010/567410.html
2020年10月2日、厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が開かれ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種について、費用負担のあり方や予防接種法における位置付けなどの議論が行われた。ワクチン接種にかかる費用は全て国が負担し、予防接種法上の臨時接種に位置付けることで市町村が接種勧奨を行い、国民には接種を受ける努力義務を課すといった方針が事務局から示され、分科会委員らが了承した。
これに先立って、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策分科会が2020年9月25日、「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について(中間とりまとめ )」を作成しており、予防接種・ワクチン分科会ではこの内容に沿って運用面を協議した。
COVID-19ワクチンの接種事業については、予防接種法第6条第1項、第2項の「臨時接種」をベースとして、基本的には現行の臨時接種に関する規定を適用し、一部を特例扱いとすることで了承された(図1)。内閣官房の分科会による「中間とりまとめ」でも、COVID-19ワクチンは「住民への接種を優先する」と明記されており、医療従事者など公共性の高い社会機能維持者への接種が優先される新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条の「特定接種」の枠組みでは行わないことになった。
図1 現行法における接種類型と特徴(出典:分科会資料)
接種事業の実施に関しては、国、都道府県、市町村で図2のような役割分担を行う。
図2 COVID-19ワクチン接種における国、都道府県、市町村の主な役割(出典:分科会資料)
予防接種法の臨時接種では、実施主体が都道府県または市町村で、国が関与できる仕組みにはなっていないため、今回は市町村を実施主体とした上で、特例的に国がワクチン接種の優先順位などを決める体制にする。
費用負担に関しては、ワクチンの費用だけでなく接種を行う医師に支払う技術料なども含めて特例的に国が全額負担を行い、自治体には負担を求めないことにする。また、国民からも実費徴収を行わず無料で接種できるようにする。しかし、今後の感染状況や新型インフルエンザ特措法の適用、ワクチンの有効性や安全性などの特性に応じて、この費用負担の取り扱いについては「見直しを検討していく」という文言が付記された。これについて厚労省の担当者は、「有効性・安全性の高いワクチンが承認され、それが十分な量確保された上で、基本的に初回の一連の接種事業については国が全額負担するということを方針として決めている。例えば複数回の接種が必要になったり、ワクチンの有効性・安全性がそれほど高くなかったりする場合は、費用負担の形を変えられるように制度設計している」と説明した。
今回のCOVID-19ワクチンは原則として市町村が住民に接種勧奨を行い、国民には接種を受ける努力義務を課す。ただ、これについてもワクチンの安全性や有効性などの情報が定まっていないことから、「必要に応じて、例外的にこれらの規定を適用しないことを可能とする」と、変更の余地を残した。
副反応疑い報告については、既存の予防接種法における副反応疑い報告の仕組みなどを用いる。健康被害の救済措置は、臨時接種の規定通り、高水準(障害年金1級なら年506万円、死亡一時金は4420万円など)の給付を行う。この給付水準に関しては、接種勧奨・努力義務の規定が将来的に無くなっても、変えないこととする。ワクチンの使用による健康被害によって損害賠償が必要になった場合は、製造販売業者などの損失を国が補償できるように法的措置を講じる。
このほか、分科会委員からの主な質問と事務局の回答は以下の通り。
Q:ワクチンの費用負担について今回示された方針は、1回目の接種のことを想定しているのか。免疫を維持するためにはワクチンを繰り返し接種することが必要になる可能性もあるが、そのときも同じように無料接種を行うのか。
A:基本的に今回は、最初に行う一連の接種について方針を示している。
Q:国が複数のワクチンを同時に確保して、市町村ごとに製法だけでなく有効性や副反応の出方が異なるワクチンが割り振られるという事態も想定される。国民はワクチンを選ぶことができるのか。それとも住所地に応じて強制的にワクチンを割り当てられるのか。
A:複数のワクチンが承認されるケースも十分に想定される。そうなると、臨床試験の結果によって有効性を比較することも可能だが、そのデータをどう生かし、情報提供するかは今後の課題だ。また、複数のワクチンを確保する事態になった場合、どの自治体にどういったワクチンを割り振るかについても考えないといけない。ワクチン接種を完全に住所地に限るようなことをすると、例えば施設入所者などが接種困難になるといった事態が起きることは承知しているので、何らかの対策は考えたい。
Q:接種率の目標などはあるのか。
A:考え方として、有効性・安全性の高いワクチンが確保できるのであれば、接種率目標はできるだけ高くしたい。こうした理想は共有した上で、今後、ワクチンの開発状況に応じて判断していくことになる。
Q:予防接種事業が始まる前に、何らかのきっかけで接種勧奨や接種の努力義務を見直すようなこともあるのか。
A:例えばワクチンの臨床試験の結果が出たタイミングなど、予防接種事業が始まる前に接種勧奨や努力義務規定を見直すことはあり得る。今は、有効性・安全性の高いワクチンを確保できる前提で様々な体制を準備している段階だ。
Q:努力義務を課しても接種を拒否する人が出てくる可能性がある。そのときに「予防接種を受けない人は身勝手だ」などと周囲からバッシングの対象になったり、職場で不利益を被ったり、ある場所に立ち入ることができなくなったりするなど、不利益を被る可能性もあるが、そうした事態が起きないような仕組みが必要ではないか。
A:一般論で言えば、臨床試験などで評価できるワクチンの有効性というのは、接種を受けた個人の発症予防や重症化予防の効果だ。「ウイルスに感染しない」という感染予防効果や、接種していない人にも波及するような集団免疫効果は実証が難しく、今回のCOVID-19ワクチンでも困難だろう。そのため、接種しない人は周囲に感染を広げるかもしれない、などといった考え方は誤っており、国としても正しい情報を広めていくことが大事だと考えている。
Q:ワクチンの接種勧奨を行う場合は、リスクコミュニケーションも一緒に行う必要がある。接種前だけでなく、接種後に副反応が出たときに相談する先も確保してほしい。接種した医療機関、保健所に加えて、公的な相談窓口も必要ではないか。
A:相談体制については検討を進める。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202010/567410.html