「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.694 ★ 米国、2027年に中国との軍事衝突を決意か?日本も台湾有事に巻き込まれる可能性

2024年09月29日 | 日記

MONEY VOICE (高島康司:コンサルタント、世界情勢アナリスト)

2024928

アメリカ空軍は、台湾で戦術核兵器の使用を想定した机上訓練を開始した。またアメリカ海軍は、軍の新たな整備計画「プロジェクト33」も発表した。2027年に中国との軍事的に衝突することを想定している。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2024年9月27日号の一部抜粋です。

中国の脅威と米国防総省の2つのレポート

安全保障系のシンクタンクが発表した台湾有事における戦術核使用の可能性と、2027年に中国との軍事的な衝突を想定した米海軍の整備計画について解説したい。

9月18日、中国広東省 深センで日本人学校の男子児童(10)が登校中に中国人の男(44)に刺されて死亡する衝撃的な事件が起こった。中国では最近、背景が不明な外国人襲撃事件が相次いでおり、中国在住の欧米や韓国の人々にも不安が広がっている。

在日本中国大使館は24日、日本在住者や訪日旅行を予定する自国民に対し「情勢を鑑みて、警戒意識を高め安全を確保」するよう注意を促した。中国広東省深センで日本人男児(10)が刺殺された事件を踏まえ、両国民同士のトラブル回避を図った対応とみられる。

こうした中、日本でも中国脅威論が高まっている。日本のネトウヨや「在特会」が集まるような人種差別のヘイト系のアカウントでは、中国との国交断絶や戦争を叫ぶ声が絶えない。中国でもネトウヨはおり、過激な反日的な投稿が続いている。

日本政府は中国政府にSNSの投稿が今回の殺害事件の背景になったとして取り締まりを要求しているが、ネトウヨの投稿の取り締まりを必要としているのは、日本も同様であろう。不思議なことに、ネトウヨは在日米軍の犯罪に対しては、めったに批判しない。

いずれにせよ、この事件をひとつのきっかけにして、中国への反感は欧米諸国を中心に拡散している。またこれに合わせて、中国脅威論が改めて高まっているのを感じる。

台湾有事で戦術核使用の可能性

そのような中、ある文書が改めて注目されている。2024年8月の「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」の報告書、「瀬戸際を越えて:長期戦におけるエスカレーション・マネージメント」である。この報告書では、中国の核戦力が拡大するにつれ、インド太平洋地域における戦術核兵器の使用の可能性が高まり、従来のアメリカの抑止策のアプローチに疑問を投げかける状況が生じていると指摘している。

中国にとって、核兵器の使用はさまざまな形を取る可能性があるという。威嚇、決意を示すための実験、あるいは米軍または台湾そのものを攻撃して早期決着を迫る、などである。同様に、アメリカも中国の侵攻に対抗したり、中国の核兵器使用に対応するために限定的な核攻撃を検討する可能性があるとしている。

一方、中国の急速に拡大する核戦力能力とは対照的に、アメリカの冷戦時代の戦略の不備はますます明らかになっており、台湾をめぐる潜在的な紛争における核のエスカレーションの複雑なリスクを管理する準備が整っていないと指摘する。その結果、インド太平洋の独特な地理と作戦環境により、特に台湾をめぐる限定的な紛争における戦術核兵器の応酬が、現在ではより現実味を帯びていると指摘している。

そのような状況を踏まえ、ワシントンD.C.近郊で開催された「空軍・宇宙軍協会」の会議で、米空軍が核関連のさまざまなシナリオに対する対応能力を評価するための机上訓練を計画していると、米空軍のアンドリュー・ゲバラ中将が発表した。

しかし、米空軍が戦術核のシナリオに対する即応性を強化しようとしている一方、中国の進化する核戦略は、確実な抑止力の増強と世界的な威信の拡大を追求している。中国は約500個の核弾頭を保有していると推定されている。予測では、この数は2030年までに1,000個、2035年までに1,500個に増加する可能性がある。今回実施される机上訓練は、この状況への対応を目的にしたものだ。

「プロジェクト33」と圧倒的な中国の海軍力

台湾有事の際、アメリカと中国が戦術核の使用を検討しており、それに米空軍が対処するための机上訓練を行っているというのはまったく物騒な話だが、こうした状況に幅広く対応するために、米海軍は「プロジェクト33」を発表した。これは、早ければ2027年に起こりうる台湾をめぐる中国との対決に備え、軍事体制と即応態勢の再編を提言したものだ。

これは、「米海軍研究所(USNI)」が発表した「アメリカ海軍の戦闘能力向上のための海軍作戦部長ナビゲーション計画」、別名「プロジェクト33」と呼ばれる計画だ。この計画は、米軍の整備の遅れや人材確保の課題に対処し、即応性と能力の拡大に焦点を当てることを目的としている。

この計画には、2つの主要な目標が設定されている。海軍の即応態勢の強化と、アメリカの統合戦闘能力における米海軍の役割の強化である。そして、整備の遅れへの対応、ロボットおよび自律システムの拡張、水兵の採用と定着率の向上、インフラの強化など、7つの重要な分野を特定している。

このような整備計画が必要になった理由は、中国海軍の大幅な増強とアメリカの出遅れである。現在、中国は370隻の艦船と潜水艦、140隻以上の主要水上戦闘艦を保有し、世界最大の海軍を擁している。さらに、中国の13の海軍造船所は、アメリカの7つの海軍造船所を合わせたよりも大きな生産能力があり、アメリカの海軍艦艇建造における不利な状況が拡大している。また、アメリカの造船所では熟練労働者の不足に直面しており、過去の予算削減やレイオフにより、海軍建造に必要な専門労働力が枯渇している。

さらにアメリカは、時代遅れの調達戦略や、空母、駆逐艦、揚陸艦などの高コストな旧式軍艦への依存も、アメリカの艦隊を迅速に拡張する能力を妨げているとされている。

一方中国は、AIとビッグデータを使用してアメリカの運用システムの弱点を迅速に特定し、複数の領域から力を結集してその弱点を精密攻撃する「多領域精密戦争(MDPW)」構想を通じて、アメリカの脆弱性を突いてくる可能性が高い。

これはアメリカにとっては由々しき事態である。こうした中国優位の状況に対処するためアメリカは、海軍戦においてますます重要になっているロボット工学とAIを統合し、米海軍の自律戦闘システムの構築を目指している。それを戦力に組み込むことで、技術革新と破壊的な戦術によって中国の造船優位に対抗する戦略を目指している。

焦る米海軍と大きな危機意識

中国の相対的な優位と米海軍の劣勢への強い危機感が、最近発表された「プロジェクト33」には滲み出ている。この危機感は非常に強い。同文書には次のようにある。

「中華人民共和国(PRC)の主席は、2027年までに戦争に備えるよう軍に指示しているが、我々はそれ以上の準備を整える。

現在、中国が我々の海軍に突きつけている課題は、単に中国海軍艦隊の規模を上回るものとなっている。艦船は確かに重要だが、戦力となる艦船の数やトン数だけで脅威を評価する時代は終わった。多領域精密戦争、グレーゾーンおよび経済キャンペーンといった作戦概念、デュアルユースインフラ(例えば飛行場)やデュアルユース部隊(例えば中国の海上民兵)の拡大、そして核兵器の増強などを通じて、中国は複雑な多領域・多軸の脅威を提示している。

中国海軍、ロケット軍、宇宙軍、空軍、サイバー軍は、巨大な産業基盤に支えられ、米国を打ち負かすために特別に設計された統合戦闘エコシステムへと統合されつつある。中国の防衛産業基盤は戦時体制にあり、現在、世界最大の造船能力を中国海軍が有している。

これに対応するため、米国は同盟国、パートナー、および米国の利益に対する中国の脅威を抑止し、必要とあれば断固として勝利を収めるためには、統合された全領域の制海権を実現する戦闘エコシステムの一部である航行計画に引き続き取り組む必要があると理解している」

このような危機感が背景となり、米海軍は中国の海軍力の増強に対抗するための取り組みを加速させようとしている。だがアメリカは、やはり造船能力の遅れと90年代の時代遅れのテクノロジーに基づく軍事システムという厳しい現実を直視せざるを得ず、潜在的な紛争において重大な脆弱性を露呈するリスクに直面していると多くの専門家は見ている。

ところで、「プロジェクト33」で脅威として認識されているのは、もちろん中国だけではない。ロシアとイランも脅威の対象に指定されている。同文書には次のようにある。

傷つき孤立したロシアは依然として危険である。ロシアによるウクライナへの違法かつ挑発行為のない侵攻は、世界的な非難を招き、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟するきっかけとなった。しかし、戦場においては、ロシアは作戦上の学習能力を示し、技術的および戦術的にウクライナの革新に適応している。

モスクワ、北京、テヘラン、そして平壌は連携を強化し、情報領域において米国、同盟国、およびパートナーを積極的に標的にしている。海底パイプラインやケーブルへの被害は、海底インフラが標的となり得ることを浮き彫りにした。黒海での損失にもかかわらず、ロシアの艦隊は依然として、北極海や大西洋、地中海、バルト海、北太平洋において戦闘能力を維持している。

また、ロシアは世界最大の核兵器備蓄も保有している。我々は、欧州大西洋地域の同盟国やパートナーとともに、信頼に足る抑止力を引き続き支援しなければならない。

さらにイランについては、以下のようにある。

高度に相互接続された脅威は、平和を脆弱なものにする。2023年のハマスのイスラエル攻撃では、他のイランの代理勢力による攻撃を抑止し、より広範な紛争のリスクを軽減するために、中東全域に海軍を展開する必要があった。ハマスに鼓舞され、イランに武装させられたフーシ派は、紅海の重要な狭水道であるバブ・エル・マンデブ海峡を通過する商船を標的にし、これにより、我が国の水兵たちは、第二次世界大戦以来、最も執拗な敵対的攻撃にさらされることとなった。

また、ロシアにも武器を供給しているイランは、イスラエルに対して数百機の無人機とミサイルを発射し、この地域全体を戦争の瀬戸際に追い込んだ。これらの出来事は、目に見える、あるいは見えないつながりによって安全保障環境がいかに急速に変化し得るかを証明しており、また、わが国の意思決定者に柔軟な対応オプションを提供するために、海軍がどれほど不可欠であるかを示している。

アメリカは日本を巻き込んで戦艦を建造

しかし、さまざまな軍事専門家の記事を見ると、想定されている2027年までにアメリカの軍事力が中国にキャッチアップできる水準まで整備できるとする見方には相当に否定的だ。

すでにこのメルマガの第813回の記事でも紹介したように、「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」の最新レポートでは、中国は2019年から2023年の間には64の技術分野のうち57分野で首位に立っており、昨年のランキング(2018年から2022年)で52の技術分野で首位に立っていたときよりも、そのリードをさらに広げている。中国は、量子センサー、高性能コンピューティング、重力センサー、ロケット打ち上げ技術、先進的な集積回路設計および半導体チップ製造の分野で新たな進歩を遂げた。

【関連】中国は本当に衰退しているのか?最先端テクノロジーで圧倒的優位に立つと言える根拠=高島康司

 

中国の圧倒的なテクノロジーの優位性は、もちろん軍事技術でも同様であろう。他の最先端テクノロジーの分野では中国に凌駕されながらも、軍事技術分野だけはアメリカが優位であるとは考えにくい。最先端テクノロジーへの依存度がもっとも高いのは、軍事分野である。第813回の記事で紹介したが、国際政治学者のランドール・シュウェラーは「CFR」の機関誌、「フォーリンアフェアーズ誌」に次のように書いている。

実際には、米国のリーダーシップがほぼ80年を経て、世界は覇権秩序から回復された勢力均衡への移行期に入っている。これまでの勢力均衡システムと同様に、このシステムでも世界的な不満、不調和、大国間の競争が特徴となるだろう。(中略)米国はまさに「疲弊した巨人」となり、対外的な公約を守る能力も、それを守ろうとする意欲も低下している。

このような「疲弊した老人」であるアメリカの海軍が、2027年の台湾有事を想定して準備するには相当に無理がある。単独では不可能だ。

その結果、東アジアで艦船数を増やすための現実的な手段として、日本や韓国などの重要な同盟国に海軍艦船の建造を外注することがいま検討されている。

すでに海上自衛隊は米海軍と一体的に作戦行動を遂行できるように運用されているが、さらにその関係を深化させ、日本が米海軍艦船の外注を受け建造するところまで行く可能性もある。

日本はアメリカとここまで一体化してしまってよいのだろうか?

いまの民主党のアメリカの外交政策を実質的に立案し支配しているのは、軍産複合体の利害を代表している「ネオコン」や、「CFR」のエリートたちだ。彼らは、アメリカの覇権が失われ、他の大国のパワーバランスで国際秩序が維持される多極型の世界は絶対に受け入れられない。そのようなアメリカは、凋落の過程でこれまで以上に凶暴化する可能性が高い。

そのように見ると、中国を叩くために台湾有事を仕掛けるのはアメリカの方かもしれない。

高島康司

コンサルタント、世界情勢アナリスト。 北海道札幌市生まれ。子ども時代を日米両国で過ごす。早稲田大学卒業。在学中、 アメリカ・シカゴ近郊のノックス大学に公費留学。帰国後、教育産業のコンサル ティング、異文化コミュニケーションの企業研修などのかたわら、語学書、ビジ ネス書などを多数著している。世界情勢や経済に関する情勢分析には定評があり、 「未来を見る !『 ヤスの備忘録』連動メルマガ」で日本では報道されない情報を発 信している。毎年多くのセミナーや講演に出演している。著書多数。

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