「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.94 ★ 中国のIT締め付け「習政権の過剰介入」は、不動産不況や人口減少より経済成長に深刻!?

2024年02月16日 | 日記

DIAMOND online (野口悠紀雄:一橋大学名誉教授)

2024年2月15日

Photo:Photonews/gettyimages

公務員の給与が半年間未払い 成長率半減、深刻度深まる中国経済

 中国経済が深刻な状況に陥っている。先日は「中国の地方公務員が半年間、給料未払い」という、信じられないようなニュースが伝えられた。

 民間の零細企業ならともかく、給与がもっとも守られているはずの公務員だ。日本で公務員の給与が未払いなど、聞いたことがない。

 しかも、一部の都市でなく、多くの都市でこうした問題が起きているのだそうだ。それは、中国の地方政府が深刻な財政難に陥っているためだ。そしてそれは、不動産不況による。

 これまで、土地使用権の売却収入が、地方政府の収入の約4割という重要な地位を占めてきた。ところが不動産不況によってこれが大きく減少し、地方政府が窮状に追い込まれたのだ(注1)。

 バブルが崩壊した中国の不動産問題は、ここ数年深刻化していると伝えられてきたが、ついにこうした異常事態まで引き起こしてしまった。

 だが深刻なのは中国経済の不調が不動産部門にとどまらないことだ。

 実質GDP成長率は習近平体制が始まった10年前には10%程度だったが。いまは5%程度とこの10年間で成長率は4%ポイント程度も低下した。不動産不況や人口減少だけでなく、習近平政権の強権的な経済政策が成長を抑圧しているのだ。

人口の2倍を超える空き家!? 日本のバブル崩壊より大規模

 中国の不動産バブルの崩壊は、1980年代の日本のバブルよりもっと規模が大きく、深刻なものかもしれない。実際、中国には、いま1.5億人分もの過剰住宅があるといわれる(注2)。それどころではない。統計局の元副局長は、中国には30億人が住むのに十分な空き家があると述べた(注3)。

 とてつもない数字だ。いくら中国の人口が多いといえ、約14億人だ。その2倍を超える空き家があるとは、いったいどういうことだろう?

 建設途中のまま放置された建物は「鬼城」とよばれ、大都市各地に大量に発生しているという。恒大集団(エバーグランデ)や碧桂園(カントリー・ガーデン)などの不動産大手が、巨額の負債を抱えて危機に陥り、恒大集団だけでもこの2年半の赤字額は合計で12兆円を超える規模だ。

実質経済成長率が5%程度に低下 消費者物価の低迷は続く

 しかも中国経済の不調は不動産部門にかぎらず、経済全体に及んでいる。

 中国国家統計局が1月12日に発表した2023年の消費者物価指数(CPI)は前年比0.2%上昇にとどまった(注4)。

 中期的にみても、中国の消費者物価指数の伸びは低下している(図表1参照)。



 また、経済成長率も低下している(図表2参照)。実質GDP成長率は5%程度の水準まで下がった。

人口減少でも技術力で フロンティアを拓くと思われたが

 中国経済の停滞をもたらした中期的な要因としてよく指摘されるのは、低い出生率と人口減少だ。図表3に見るように、中国の人口は、2021年に14億1260万人のピークになり、それ以降は減少に転じている


 人口減少は、中国の製造業を支える労働力を縮小させる。また、高齢化は、さまざまな負担を経済に強いるだろう。その意味で少子化と人口高齢化は確かに重要な問題だ。

 しかし、中国はそれを技術によって克服するのではないかと考えられていた。単に安価な労働力に依存するのでなく、技術力を高めつつあったからだ。コロナ禍直前の18年から19年頃が、そうした期待がピークに達した時だったのかもしれない。

 アメリカと並んで、技術面で世界を制覇する大国になるだろうと、多くの人が考えた。

 特に注目されていたのが、IT産業だ。BATと呼ばれたB(Baidu:百度)、A(Alibaba:阿里巴巴)、T(Tencent:騰訊)の3社が、アメリカのGAFA+Mのように、未来社会をつくっていくと思われていた。

アント・グループの上場ストップ契機に IT企業、締め付け強化で時価総額急減

 しかし、習近平政権はこれを急転させた。2020年11月に、上海・香港市場で、当時、世界最大規模とされた同時上場を予定していたアント・グループ(旧アントフィナンシャル)に突然ストップをかけた。

 理由はフィンテックに対する管理監督強化とされたが、その後も習政権はプラットフォーマーに対する独占排除や利用者のデータ保護を名目に取り締まりや規制を強化し、アント、アリババだけでなく、IT企業一般への締め付けを強化した。

 事態が急転したことは、中国IT企業の時価総額が急減したことに明確に現れている。

 アリババは、いまなお世界時価総額トップ100位内に残ってはいるが、第61位だ(注5)。 アリババの時価総額の推移を見ると、16年には2000億ドル程度であったものが、19年から20年にかけて急激に増加し、20年10月末には8000億ドルを超えた。しかし、アント・グループ上場停止をきっかけに、その後は急激に減少。24年1月の時価総額は1880億ドル程度と、16年ごろの水準に戻ってしまった。

 これは同業種であるアマゾンの時価総額が増加しているのとは極めて対照的だ。アマゾンの時価総額は、16年には3000億ドル程度だった。それが、21年の後半には1兆7000億ドル程度にまで増加した。5倍から6倍程度の増加だ。その後減少したが、24年の1月には1兆6000億ドル程度に戻っている。

 なお、中国IT企業の時価総額減は、アリババに限られた現象ではない。テンセントの時価総額も、少し遅れてアリババと同じ経路を辿った。16年には1700億ドル程度だった時価総額が急激に増加し、21年2月に9000億ドルを超えた。しかし、その後は減少し、24年1月には3000億ドル台だ。

「抓大放小」で成長したIT産業 強権的な政策が経済活力を弱める

 生成AIでも、中国はアメリカの後塵を拝しているように見える。コロナ禍の直前、顔認識技術で中国が世界を制覇するように見えたのとは、ずいぶん違う。

 中国の改革開放政策は、鄧小平氏の「抓大放小」(大企業は国家が掌握し、小企業は市場に任せる)という基本方針に従って行なわれてきた。IT産業はあまり重要とは見なされなかったため、民間に任され、自由な経済活動が認められた。アリババやアントやテンセントなどが急成長できたのは、政府の規制がなかったからだ。

 独裁政権による経済活動への介入は、経済活力を決定的に弱める。それは、習近平国家主席の極端なコロナ対策にはっきりとあらわれたが、それだけではない。強権的な政府による大規模な経済介入が中国経済の活力を弱めたのだ。

 これだけ巨大化した中国経済が不調に陥れば、世界経済に甚大な影響が及ぶ。日本は大きな影響を受けるだろう。中国株を見放した投資家が日本株に向かうと言われることもあるが、喜んでばかりはいられない。ショックに備える準備が必要だ。

(注1) 朝日新聞(2023年12月4日付)
https://www.asahi.com/articles/ASRCZ72D8RCZULFA008.html
(注2)日本経済新聞(2024年1月27日付)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0636Q0W4A100C2000000/
(注3)朝日新聞(2023年12月6日付)
(注4)時事通信ニュース(2024年1月12日付)
(注5)Largest Companies by Market Capのデータによる

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