「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.307 ★ アメリカ国境で中国人の不法入国が10倍増、決死のジャングル越えの理由とは?

2024年05月08日 | 日記

DIAMOND online  (小野原遼成:ジャーナリスト)

2024年5月6日

脱北者を描いた韓国映画「ロ・ギワン」。Netflixでは公開2週目に、非英語の映画で世界1位になった

2023年に米南部の国境を越えて米国に不法入国した中国人は37000人以上と、前年の約10倍にも膨れ上がった。海を越え、密林を抜けて米国を目指す密入国ルートは、失敗した人たちの遺体が転がる中を進む、文字通り命がけの旅だという。一方では北朝鮮を逃れてきた脱北者を中国政府が強制送還したことも問題になっている。(ジャーナリスト 小野原遼成)

中南米から米国へ 不法入国する中国人が急増中

 中南米から米国入りする不法移民の存在は古くから知られているが、ここ数年で中国人の越境が急増している。

 成功者がSNSで発信した情報を手掛かりに、1万km以上離れた米南部の国境への片道切符の旅路につく人が続出。政治・宗教的迫害からの亡命目的のケースもあるが、新型コロナウイルス禍での問答無用のロックダウンを契機に中国脱出を決心した事例も多い。

 国内総生産(GDP)世界2位の中国だが、依然として経済的理由から米国を目指す人が多く、米国の支援者は「彼らにとって米国は今も『ゴールデン・カントリー(金の国)なんだ』」と明かす。米中関係が悪化し、米大統領選も近付く中、足元での中国人移民問題に大きな注目が集まっている。

 一方では、コロナ禍の終息を受け、中国が北朝鮮から逃れてきた脱北者を600人も強制送還したことで批判を浴びている。脱北者を描いた韓国映画や米ドキュメンタリーが最近ヒットし、北東アジアでの国境を越えたストーリーが世界的関心を呼んでいる事情もある。

中国政府の「抑圧」を逃れ 密林地帯100キロを踏破、米国へ

 2023年に米南部の国境を越えて米国に不法入国した中国人は、国境警備当局が確認しただけで3万7000人を超えた。2022年は約3800人だったから、10倍近くに急増している。国籍別では南米コロンビアに次いで2番目に多い。

 急増の背景には、新型コロナの感染拡大や米中関係悪化に伴い、米国が中国人に対するビザ発給を制限していることが挙げられる。米メディアによると、2016年には220万の短期滞在ビザが中国人に発給されたが、2022年には16万に激減。このため、正規ルートで直接、米国に渡航できない人たちが目指すようになったのが、南米から陸路で米国を目指すルートだ。“先駆者”たちがTikTokに投稿した動画を研究し、密入国あっせん業者に金を支払って移動の手引きを受ける。

ルートの一つは、まず中国人がノービザで入国可能な南米エクアドルに入り、北上してコロンビアのネコクリに向かう。そこから海を渡って「ダリエン地峡」と呼ばれる密林地帯に入り、約100kmを踏破する。マラリアなどの感染症やギャングの脅威にさらされながら急流を渡る極めて危険なルートで、命を落とした人の遺体も転がっているという。性暴力や強盗などの被害に遭う人も後を絶たない。ジャングルを無事に抜けても、そこからさらに何カ国も通過してメキシコと米国の国境地帯に至る4000キロもの道のりが待っている。

 米民放テレビが2月に放送したドキュメンタリーでは、早朝にリュックを背負った中国人の集団が次々と鉄条網の脇をくぐり抜け、難なく米国入りする様子が映っていた。警備当局者もそばにいるが、制止するわけでもない。20歳の男性は40日かけてタイやモロッコ、エクアドルや中米を経由してたどり着き、カリフォルニア州で仕事を見つけたいと話した。コロナ禍のロックダウンで託児所の経営が破綻したという女性や、工場での仕事がなくなり家を売ってやってきたという人もいた。

 米国入りした一行は身元調査を受けた後で釈放され、亡命申請手続きに入るという。記者は「移民の多くは『ますます抑圧的になっている中国の政治風土や低迷する経済から逃れるために来た』と話した」と紹介した。

「知的財産を盗ませたら世界一」発言に、トランプ支持者の「国境の壁」建設への熱い支持を思い出す

 だが、急増する中国からの不法移民に対しては批判的な見方も少なくない。保守系メディアの米FOXニュースは2月、この問題を報道した際「中国政府は抑圧的で、市民が庇護を求めて逃れるのは自然なことだ」とする支援活動家らの見解を短く紹介したものの、スパイ行為への懸念を重点的に報じた。

 メキシコとの国境を取材した記者はスタジオで、不法入国者の中に中国共産党とつながりがある人物が含まれている可能性を米当局が懸念しているとし、「中国は知的財産を盗ませたら世界一だ」とも強調。国境で取材した不法移民の中国人男性にやりたい仕事を聞いたところ「コンピューター関連だ」と答えたといい「中国政府のために活動する者でなくとも、知的財産を盗む可能性はある」と疑いの目を向けた。経済的事情は亡命理由に該当しない、とも釘を刺した。

 女性キャスターも「多くは働くために来たというし、それは本当だと思う、コロナ禍のロックダウンもあったし。でも、不正目的の人を紛れ込ませるのは中国の戦略の一部のようです」と警戒していた。

 メキシコからの不法移民といえば、思い出されるのがトランプ前大統領の2016年の選挙戦だ。筆者は当時、米国内でトランプ氏の集会を取材したことがある。しきりに「ビルド・ザ・ウォール!(壁を造れ!)」コールが沸き起こり、不法移民の入国阻止を訴えるトランプ氏への熱い声援が送られていた。工事現場の作業着姿で参加した男性に話を聞くと「壁の建設工事なら任せろ。移民が俺たちの仕事を奪っているのを見過ごすわけにはいかないんだ」と熱弁をふるっていた。仮に中国に厳しい姿勢を取るトランプ氏が大統領に再選されれば、中国からの不法移民問題に強硬な対応を取る可能性もある。

「拷問受けるリスクを知りながら脱北者を送還」人権団体が中国政府を批判

 米国に不法入国できても、亡命申請が棄却されるケースもある。中国政府が亡命申請を棄却された中国人を引き取ろうとしないとの批判もある。帰国しなければならないはずの中国人不法移民のパスポートが本国から発給されず、帰そうにも帰せない事例も多いという。

 一方、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は昨年10月、中国が同月に500人以上、8~9月に計120人の脱北者を北朝鮮に強制送還したと批判する声明を発表した。HRWは9月には、他団体や国連の元北朝鮮人権状況特別報告者キンタナ氏らとの連名で習近平国家主席宛ての公開書簡を送り、脱北者が強制送還されれば拷問や拘束のリスクにさらされると国連調査委員会の報告書で指摘されているのに中国は脱北者の恣意的拘束を続け、送還の機会をうかがっていると批判した。コロナ禍の終息で鎖国状態を続けた北朝鮮が再び国境を開いており、さらなる強制送還の懸念も高まっている。HRWは、中国が脱北者を経済移民とみなして自国への亡命や定着を認めていないとし、難民の地位を認めるか、せめて韓国への安全な移動ができるようにすべきだと要求している。

ソン・ジュンギ主演の映画は Netflixで全世界1位に

 折しも、脱北者役を人気俳優ソン・ジュンギさんが演じたNetflix(ネットフリックス)配信の韓国映画「ロ・ギワン」が各国でヒットしている。ソンさんは日本でもヒットしたドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」や「太陽の末裔」にも出演した実力派。今回は北朝鮮から脱出した後、中国・延吉に隠れて暮らす脱北者ギワン役を好演した。目の前で起きた交通事故で母親を失い、その遺体を売った金でベルギーに向かい、生活苦にあえぎながら難民認定を目指す。やがて現地で出会った韓国人女性と恋に落ちる……というストーリーだ。公開2週目にNetflixの全世界ランキングの映画(非英語)部門で1位となった。苦難の末に難民申請を勝ち取って米国に定着した脱北者からは「まるで自分のストーリーのようだ」と共感の声も上がっている。

また、韓国人牧師らの支援の下、脱北者家族が中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国に向かう決死の脱出作戦を追った米ドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア 脱北」は日本でも1月から上映された。コロナ禍で激減した脱北者の韓国入りは昨年、前年比約3倍の196人に増え、 今後も増加傾向が続く可能性がある。

米ドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア 脱北」は日本でも公開された

杉原千畝を輩出した日本、移民の保護で議論のリードを

 陸路で接する国のない日本に暮らしていると、命懸けで国境を越えようとする人々のストーリーはどこか遠い国の物語のように聞こえてしまう。しかし、日本は第2次世界大戦中、日本領事館領事代理として赴任していたリトアニアで、ナチス・ドイツに迫害されていた多くのユダヤ人たちに「命のビザ」を発給し、多くのユダヤ人難民を救ったとされる杉原千畝を輩出した歴史がある。

 21世紀の今も、たまたま生まれた国で受けた迫害や経済苦から逃れようと命を賭ける人たちが存在する。その現実に目を向け、無辜の子供や女性が犯罪組織の襲撃や事故で命を落とすことのないよう保護していく方策について、また同時にスパイやテロリストの不法入国への当事国の懸念にどう対応するかも含め、日本は責任ある大国として国際社会の議論をリードしていくべきではないだろうか。

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