THE NEWS LENS JP編集部
2024年3月28日
EV生産ライン(イメージ写真)
欧米諸国では、中国からの電気自動車(EV)輸入の急増がもたらす安全保障や経済的リスクへの懸念が高まっているが、中国の習近平政権にとって、国内での急速なEV産業の台頭は別の問題を生み出している。それは、ガソリン自動車の衰退にどう対処するかというものだ。
中国の自動車産業は販売、生産、輸出の台数において世界最大となっている。
上海のコンサルティング会社オートモビリティによると、中国の2023年の自動車生産台数は、過去最高だった2017年の2890万台を上回る3010万台という記録的な数字となった。これは米国の約3倍にあたる。
だが、現在では国内乗用車販売の30%以上を占める中国のEV産業の急成長により、非EV車の販売が激減しているという事実が陰に隠れている。中国は昨年、国内市場向けに内燃機関を搭載した自動車を1770万台生産したが、これは17年の2830万台から37%の大幅減となった。
ここにきて、何十年にもわたり成長を続けてきた自動車市場の、ガソリン車からEVへの転換は、中国で事業展開している多数の外資系のみならず、国営のカーメーカーにとっても存続の危機となっている。
フィナンシャル・タイムズ紙によると、習近平指導部は、ここ数十年にわたる中国の産業発展の特徴である供給過剰のリスクを公に認めている。
2024年の経済政策を決定する年次会合である昨年12月の「中央経済工作会議」後に発表された習氏の発言によると、「一部の産業の過剰生産能力という問題は、経済回復を達成するために取り組まなければならない困難な課題」の一つだという。実際、供給過剰による新興EVメーカーの倒産が相次いでいるという。
一方、ガソリン車の生産ラインの問題に対処する明確な計画は示されなかった。一部の工場はEV用に再利用でき、別の工場はガソリン車の輸出向けだが、すでに需要を上回り、今後10年間で何百もの〝ゾンビ工場〟が出現するのではないかとの懸念が高まっている。
「The New China Playbook」(23年)の著書で知られる英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのケユ・ジン准教授は、中国が伝統的な製造業から、新たなクリーンテクノロジー産業へと移行する中、「中国の経済計画立案者らは、国家レベルで労働力の再配分という〝古典的な移行問題〟と闘わなければならない」と述べた。
中国の労働力資源の再配分で主要な〝障壁〟となるのは、同国独特の「戸口(フーコオ)と呼ばれる戸籍制度にあるとジン氏は指摘する。この制度により、約4億人が仕事を求めて都市部などへ自由に移住する権利を制限されているという。戸口とは、出生地をもとに全人民をいくつかの戸籍に組み入れ、その戸籍の種類によって教育権や労働時間、福祉について、異なる水準の権利が与えられるというものだ。
さらに、中国製EVをめぐる欧米など各国の動きも活発化している。
ロイター通信によると、欧州連合(EU)の欧州委員会は、中国製EV輸入の税関登録を3月7日に開始した。EU調査で中国製EVが不当な補助金を受けているとの結論が出た場合、税関登録時点にさかのぼって関税を課す可能性がある。欧州委は中国製EVに関する補助金調査を実施中で、EU製品を保護するため関税を課すか判断する。調査は11月までに終了する予定だが、7月にも暫定的な関税を課す可能性がある。
また、米国のバイデン大統領は2月、高い関税により、現在は米国にほとんど輸入されていない中国製EVが、米国人の機密データを収集し、中国政府に送信する懸念があり、いずれ国家に重大なリスクをもたらす可能性があると表明。「中国のような懸念のある国から輸入された自動車が、わが国の国家安全保障を損なうことがないよう前例のない措置を発表する」とし、警戒心をあらわにした。
その米国ではテスラに始まったEV需要は踊り場を迎えたとされる。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ここにきてトヨタを筆頭に日本メーカーのハイブリッド車(HV)の人気が急上昇している。トヨタ「プリウス」は20年以上前にHV技術を導入して以来、米国の自動車市場で小さいながらも安定したシェアを占めてきた。それが、ガソリン価格の高騰や、EVの寒冷地での脆弱さにより、日本製HVが再び見直されているというのだ。
一方、中国ではエンジン車への需要減退による工場閉鎖が迫られるなか、香港のNGO団体「中国労働報知」は、過去5年間に自動車産業の労働者らによって60件以上のデモが組織されたことが明らかになった。
産業統計データなどを提供する企業CEICによると、EV産業の成長にもかかわらず、中国の自動車製造業の従業員数は2018年に約500万人に達したものの、現在までに50万人減少している。
ドイツ・テュービンゲン大学で中国の労使問題を研究するアビー・ヘファー氏は、一部の地方行政当局者が工場閉鎖や大規模な失業者問題に対応した経験があるが、自動車業界の労働争議が雪だるま式に拡大し、中央政府を巻き込む事態に発展するリスクを指摘した。
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