現代ビジネス(真壁 昭夫:多摩大学特別招聘教授)
2024年1月22日
投資家の期待は裏切られた
中国の金融市場では、1月15日に中国人民銀行(中央銀行)が、経済対策の一環として中期貸出制度(MLF)の1年物金利を引き下げるとの期待が盛り上がっていた。
財政政策に加えて、利下げによって景気は回復に向かうことを期待した一部の投資家は、先回りして景気に敏感な銅先物などを買った。 ところが、15日に中国人民銀行は1年物の金利を2.50%に据え置いた。一部投資家の期待は見事に裏切られた。 ただ、経済対策への期待が本格的に高まっていたかといえば、必ずしもそうではないようだ。
投資家は、元々、動きの鈍い政府の対応に半ば諦めていたといえるかもしれない。 というのは、期待が本当に高まっていたのであれば、金利が据え置きになった瞬間、株価や銅の先物価格は大きく下落するはずだ。
しかし、実際の反応はむしろ限定的だった。15日の発表は、中国政府の景気対策に対する投資家の期待値がそれほど高くない証拠ともいえる。
そろそろ動き出さないと
中国が年央以降の景気回復を目指すのであれば、そろそろ中国政府は不良債権処理や景気対策を本格的に進めることが必要なはずだ。
しかし、中国政府の動きは緩やかなままだ。それに対して、多くの投資家も冷ややかな反応しか示さない。
こうした状況が続くと、中国の経済・金融市場の先行き懸念は高まるばかりだろう。 1月10日のニューヨーク市場では、銅の先物価格が前日の3.76ドルから3.78ドルに上昇した。
2023年を通して銅の先物価格は下落基調で推移した。相場の流れとして反発が出やすい地合いではあった。 それ以上に注目されたのは、中国人民銀行が1年物の貸出金利の追加引き下げを実施するのではと一部投資家の期待が盛り上がったことだ。
欠かせない基礎資材のひとつ
1年物の金利引き下げは、主要銀行の貸出金利や中国の国債流通利回り(金利)の低下に大きく影響する。 実際に中国人民銀行が追加の利下げを実施すれば、銀行のリスク許容度は一時的に高まるはずだ。
それは、地方政府の債券発行の増加を支え、インフラ投資も積み増しやすくなると一部の投資家はみた。 その期待に反応し銅の先物価格は上昇した。銅は、中国経済の成長にとって欠かせない基礎資材の一つだ。
リーマンショック後、中国政府はマンションや道路、鉄道などの建設(投資)を増やし経済成長率を高めた。電線などに使われる銅需要は増加した。 銅の先物価格は、中国の生産活動の予想を反映しやすくなった。それでなくても、銅価格は世界経済の水先案内人ともいわれ、“ドクター・カッパー”と呼ばれるゆえんである。
1月11日以降、銅価格反発を追いかけるように、中国の上海総合株価指数や香港ハンセン株価指数が反発する時間帯もあった。 中国人民銀行が金融緩和を強化し、「中国政府が経済を立て直すための経済・産業政策を実行に移すのではないか」との観測も一部で浮上した。ただ、中国人民銀行は、今回も金利を据え置いた。
デフレ圧力が高まっている
昨年来、中国政府は財政支出を拡大し、金融政策も緩和的に運営することによって内需を拡大する考えを強調した。 それを実現するためには、金融緩和に加え、経営体力が低下した企業や金融機関への公的資金注入、不良債権や過剰生産能力の処理を実行することが必要だ。
また、先端分野であるAI、量子コンピューティングや、半導体など成長期待の高い領域で民間企業のリスクテイクを支援する政策も必要だ。 公的資金を用いた不良債権処理と規制緩和などによる成長産業の育成は迅速に実行するべきである。
12月の消費者物価指数は前年同月比0.3%下落した。3ヵ月連続の下落で、デフレ圧力が高まりつつある証拠だ。 内需拡大で景気回復を模索するのであれば、金融緩和の強化を手始めに、政策を総動員するくらいの勢いが必要だ。
抜本的な対策が出てこない
しかし、15日の金利据え置きで分かるように、なかなか抜本的な対策が出てこない。今回も、期待した一部の投資家は肩透かしを食らった。 今後、投資家の期待値は盛り上がらない状況に落ち込んでいくことが懸念される。習政権は経済分野に手が回っていないとの懸念も高まる可能性がある。 さらなる金融・経済環境の悪化を防ぐことができるか否か、中国政府の経済政策はかなり重要な局面を迎えているといえるだろう。
*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動