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雑木帖

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「そうなると、ゆくゆくは少数の裕福層の子弟たちによって、大方の経済活動が支配されてしまう」

2006-01-02 03:10:00 | 記事
『SAPIO』 2005.12.28/2006.01.05号

 中心人物は竹中大臣の友人──「相続税全廃」でアメリカに新・貴族が誕生か

 世界を「格差社会」に導くネオコノミストの危険な「ギャンブル経済学」

 ダニエル・アルトマン Daniel ALTMAN 『ネオコノミー』著者
 【PROFlLE】エコノミスト。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン
紙香港特派員のほか、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストも努める。

”ギャンブル的”な独自の経済理論によってブッシュ政権の経済政策ブレーンに入り込んだグループがいる。「ネオコノミスト」と呼ばれるエコノミストたちだ。その政策は二極化が指摘される米社会を更なる格差社会に導くもので、その成否によっては、この「ネオコノミーの論理」が世界に伝播していく可能性もある。
 そんな情況に警鐘を鳴らし「ブッシュ政権の繰り出す経済政策に最も的確な憂慮を表している」(ワシントン・ポスト紙)、「その論理は革命的。深遠な含みもある」(英エコノミスト誌)と評価されているのが、「ネオコノミスト」の名付けの親であり『ネオコノミー』の著者ダニエル・アルトマン氏である。アルトマン氏が”経済のネオコン”の正体を暴く。

        *

 ネオコノミー。
 拙著のタイトルにも使ったこの言葉は、ブッシュ政権でイラク戦争を牽引した強硬外交派ネオコン(新保守主義)という言葉と対をなす形で生み出した言葉だ。
 …(略)…
 端的に述べると、ネオコノミストたちは裕福層が恩恵を受ける固定資産税や株式の譲渡益課税、利子への課税、法人税などを軽減していく考えを持っている。その代わり、消費税で帳尻を合わせるつもりだ。さらにブッシュ政権は一般会社員や労働者などからの所得税にも期待する。高額所得者は所得を課税対象外の金融商品や資産に移してしまう術を心得ているので、結果として裕福層優遇になる。
 例えば大企業の経営者や幹部は給料をサラリーという形ではなく株や債券、ストックオプションという形で受け取れるように会社に要求する。一般会社員や労働者が同じことをできるだろうか。裕福層が所得税をすり抜けていくと、一般会社員たちは政府からいま以上の課税を強いられ、税金を吸い取られてしまう。そうなると彼らへの経済的負担は大きくなり、社会は底辺から崩れ始めていくことになる。
 ネオコノミストが進める減税策の大きな柱に「相続税の廃止」がある。これには大きな危険がつきまとい、欧米でも侃々諤々の議論が巻き起こっている。
 例えば世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏でさえもこう警鐘を鳴らしている。
 彼は以前、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、「相続税を撤廃する案は最悪である。それは2000年の五輸で金メダルを取ったアスリートの子供を、2020年の五輪に無条件で送り込むようなものだ。アメリカは実力社会を現出させているが、相続税を撤廃したら金持ちの子供は無条件でその富を受け継ぐため、貧富の差が拡大して排他的な社会になってしまう」と答えている。
 相続税の廃止はネオコノミストたちの野望の一分野に過ぎないが、彼らの素性が垣間見られる。
 パリにある社会科学高等研究所(EHSS)のトーマス・ピケッティ教授はこう指摘している。
「アメリカで相続税撤廃を含む新しい大型減税が実施されると金利・配当で生活する階層が確実に形成されるだろう。そうなると、ゆくゆくは少数の裕福層の子弟たちによって、大方の経済活動が支配されてしまう。彼らに才能があればいいが、単にカネがあるという理由だけで社会のトップに立ててしまう世の中はいかがなものか。この現象が助長されると1914年以前のヨーロッパ(すなわち第1次世界大戦以前)に似てくる」

 世界のエコノミストが注目する経済モデル

 貧富の格差という点では、すでにアメリカの東海岸や西海岸で顕著になり始めている。50年代であれば、夫ひとりの給料で4人家族を養い、郊外に一軒家を買うことができた。だが、ニューヨークやサンフランシスコといった大都市では、一軒家の平均価格が50万ドルを上回り、夫婦共稼ぎでも郊外に家を買うことすらままならない状態になっている。不動産価格や教育費、医療費の高騰により、家賃と月々の請求を支払うのがやっとという生活を送る人たちが多い。
 これは極論すると中流階級が消失することに他ならない。日本では最近、下流という言葉が流行っていると聞く。20年ほど前は「1億総中流」という意識があったが、いま日米両国で上流と下流に二極化する社会現象が起きている。
 米経済がネオコノミストに支配されることが続けば、アメリカ社会にいま以上の貧富の格差が生まれることになる。これはこの国が信奉してきた実力社会とは違う世界になることを意味する。
 カネが裕福層に集まるシステムができると、才能と努力で成功を勝ち取れたアメリカンドリームが限定的なものになり、社会に閉塞感が生まれるだろう。
 …(略)…
 しかし、ネオコノミストたちの経済政策が長期的に好結果を生み出すようならば、多くの国で同様な政策が取られることになるだろう。
 ネオコノミストたちの経済モデルはブッシュ政権で始まり、実経済において充分に試されているわけではない。が、彼らの経済成果を他国から眺めている外国のエコノミストは多いはずだ。二極化という歪んだ社会ではあっても表面上の好況がアメリカで示されれば、世界各国の経済をネオコノミー理論が支配する可能性はある。
 ちなみに竹中平蔵総務相はハバード教授と知己であるが、彼らと同じ括りで論じない方がいいだろう。ネオコノミーの論理の一つ、民間に資金を流すというところではシンパシーを感じるだろうが。
 ブッシュ大統領は21世紀にこうした階級社会を望んでいるのだろうか。ブッシュ家を始めとした特権的な人たちが恩恵を受け続けられるようなシステムの構築が背景にあるように思える。
 …(略)…
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つながるモリタクBLOG 2005年05月21日
http://blog.goo.ne.jp/moritaku_goo/e/7afe7aaa90e769eb2895bd7a0a4b90b3

 5月21日付の朝日新聞に「私の視点」が掲載されました。それを再掲します。

 「錬金術師」に有利な税制
 森永卓郎  経済アナリスト、獨協大学特任教授

 04年分の所得税の高額納税者の公示で、投資顧問会社の部長が1位になった。今回の特徴は、健康食品、パチンコ関連業界、サラリーマン金融といった最近の常連業種に加えて、投資ファンドの経営者や社員が急速に上位に入ってきたことだ。
 60年の「長者番付」には、1位が石橋正二郎ブリヂストン社長、2位が松下幸之助松下電器会長と、一般庶民も知っている大実業家がずらりと並んでいる。額に汗して苦労を重ね、新しい商品の発明などで国民生活を改善し、社会に貢献した人たちが、同時におカネをたくさん稼ぎ、税金をたくさん納めていた。至極真っ当な社会だったといえる。
 それに対し、今回台頭してきたのは、カネを右から左に動かすだけで、庶民の生活とまったく接点がない。何一つ付加価値を生み出さず、われわれの生活を何一つ改善しない人たちだ。
 そういう人たちが高い所得を得る一方で、伝統的な技術の継承者、中小商店主、タクシー運転手といった、まじめにこつこつ働いている人たちの処遇がどんどん悪くなってきている。そして、社会もそういった傾向に追随しがちだ。雑誌などではやっているのも「10万円を元手に株で大もうけ」とか「いきなり2倍になる投資テクニック」とかいうものばかりだ。
 ただ、今回1位の部長をはじめとして、高額納税者リストに載っているのは、おカネを右から左に動かす「錬金術師」のなかでは正直な人たちだといえる。「錬金術師」の多くは節税策を駆使して納税額を抑えており、実質的には相当な額の所得を得ているのにリストに出てこない人がたくさんいるはずだからだ。
 自分で会社をつくって所得を分散させるというのがよくある手口だが、サラリーマンの立場を維持したままでも、節税策はいろいろある。短期雇用が多い外資では、退職金に対する税制の優遇を悪用し、報酬のかなりの部分を退職金という名目でもらうことで、所得税を半分以下に抑える手法が多用されている。
 そもそも、株価の上昇などで巨大な利益を得ている長者たちは、きっちり課税される「オモテの所得」はなるべく生みださないようにしている。たとえば孫正義ソフトバンク社長の04年の納税額は3億円程度で、2兆円ともいわれる所有株の含み益からみれば微々たるものだ。
 そして、何よりも問題なのは、税制の仕組み自体が、額に汗して一生懸命働いている人たちが報われず、「錬金術師」だけが栄える社会への変容を後押ししていることだ。03年の税制改正で、株式投資に関する税金などを劇的に減らす一方で、発泡酒やワインなどの大衆課税を強化したのがいい例だ。
 零細企業に税務調査に入り、ささいな過ちをとがめて追徴課税するより、使い切れないほどのカネを稼いだ人から高率の税金をとるほうが、徴税効率もはるかに良いはずだ。退職金の優遇に最低勤続年数などの条件をつけるといった悪用防止策を急ぐべきだ。
 ところが、実際に政府がやっていることといえば、消費税率引き上げの準備を内々に進める一方で、日本社会のあり方について考えるうえでこれだけ重要な情報を与えてくれる高額納税者の公示を、「個人情報保護」を理由に、やめることも含めて検討しているという。なにをかいわんやである。
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