雑木帖

 ─ メディアウオッチ他 ─

調査報道と分析能力を失えば新聞はネットに完敗する

2006-01-02 03:10:55 | 記事
 『SAPIO』2005.12.28/2006.01.05号

 ”第4権力”の行動を監視する検証コラム CJR特約
 「メディアを裁く!」 第134回

 [社説] 調査報道と分析能力を失えば新聞はネットに完敗する

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「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー(CJR)」:
 ジャーナリズムの本質を追求し、常にアメリカのメディアの最新動向を鋭くウオッチングする最も権威ある雑誌。この発行元は1912年にジョセフ・ピュリッツァーによって設立されたコロンビア大学ジャーナリズムスクール大学院である。
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 新聞が衰退している。洪水のようなデジタルメディアの広がリで、人々はいち早く、どこでもニュースに接することができるようになった。コンピュータだけでなく、携帯電話をはじめとする各種デジタル機器でニュースを映像と共に見られるようになった。
 このようなメディア革命の中で、新聞は旧態依然としている。1日遅れのニュースを提供するという宿命を背負ってはいるものの、それを補う新聞の伝統的強みである、深い調査報道、鋭い分析を欠いてきている。
 それでは、新聞は、このようなメディア革命の時代に一体どのようにしたらニュースメディアとして生き残リ、発展できるのであろうか。衰退する一方の新聞メディアについて、CJRは社説を掲げた。
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 あるアメリカの一流紙に長年働く女性記者が、長期間にわたる休暇を取った。毎日の激しい労働から逃れ、人生の充電をするためであった。そして、新聞に関しても、じっくりと時間をかけ見つめてみたいと思ったのである。
 報道編集ルームで毎日仕事をしていたときは、新聞の隅から隅まで読んだ。しかし、仕事から離れてみると、何とあれだけ読んでいた新聞をあまり読まなくなっている自分に気がついた。記事のほとんどが面白くないのである。「どうしても自分が読まねばならない」という記事がなく、記事を読んでも、何も新しい発見がないのである。
 アメリカの新聞業界に関しての良いニュースは、新聞社の利益が上がり、経営状態が良くなっていることである。メリーランド州にあるモートン・リサーチ社の調査によれば、アメリカのメディア企業の新聞部門の平均利益率は、1991年度13%だったのが、2004年には20%に上昇した。素晴らしい経営実績である。これは、フォーチュン500社の平均利益率の2倍以上である。
 しかし、新聞の購読者の数は年々減少し、近年ではこの傾向に拍車がかかっていることが調査で証明された。発行部数を伸ばす夢が潰えたことを知った新聞社の経営者は、自社の株価を保ち、更に上げ続けるため、経費を削り、高利益確保に力を入れるようになっている。中でも経費節減の方法として、人件費を多く削っているのである。
 この方法は短期的には経営状態を良くするが、新聞の質を著しく下げてしまう。そして、ますます購読者を失わせる結果となる。
 記者が少なくなり、記者達はあちこちのニュース現場に飛ばされ、急いで取材し、記事を書くようになっている。そして、ますます薄っぺらな記事で紙面が埋まるようになっている。編集者は、取材の足りない記事を自分の創造力を働かせ、脚色しなければならなくなる。
 アメリカの新聞社では、このような悪循環が、それも速いスピードで続いている。CJRでは毎回新聞社の報道編集部を取材しているが、経営者がますます利益を上げることに懸命になった結果、いかに新聞の質を落としているかという声を記者、編集者から聞いている。
 確かに、デジタルメディアの発展で、一般の人々のニュースの入手方法は変わってきている。そして彼らの時間の過ごし方も変わってきている。新聞が読者を失うことは避けられないことかもしれない。
 しかし、そんなことを言っても始まらない。逆に新聞は、この危機を逆手に取り、新しい発展のためのチャンスに変えることを考えなければならない。
 まず新聞を手に取り一面を見ると、ほとんどの記事が、読者が既に、どこかで、見聞きしたことのあるものばかりであるということが分かる。地元の記事専門のローカルページも何も新しいニュースがない。
 新聞は読者に訴える強い声を持っているのか、そして、霧がかかったようにはっきりしない、混沌としている現実の問題を、光で照らし出すような情報を載せているのか、と疑ってしまう。
 また、読者に新聞を読む楽しさを与えているのか。多くの読者は、インターネットの方が情報も多く、楽しめるとさえ言っている。ウェブサイトで読者は、電子メール、チャットなどでトピックスに参加することもできる。今のままで、新聞は必要なものなのであろうかという疑問が起こるのは仕方ない。
 経営者も含め、新聞が読者を維持し、よリ多くの読者を獲得するには、もっと市民生活に密着した、突っ込んだ記事を増やさねばならない。前出の長期休暇を取っている女性記者が、記者生活を離れ、普通の人々の日常生活をして初めて知ったことである。
 経営者は、ケチってばかリいるのが仕事ではない。記者と編集者は、お互いに読者に質を提供し、新聞業界を活性化しなければならない。そうでなければ、新聞は現在の市場さえ維持できなくなるであろう。
 今日、国民は大きな問題を抱えている。彼らは市民討論を必要としている。新聞はその伝統的強みを見せ、より突っ込んだ報道と分析で、この市民討論を更に実のあるものにする役割がある。他のメディアに比べ、新聞の強さは、まさにここにあるのである。

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