徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

In the Distant Past 27

2015年10月25日 08時02分32秒 | Nosferatu Blood
 
   *
 
 ズシンズシンという地響きの様な足音とともに、02と番号の振られたエビに似たキメラが突進してくる。振り翳した右手の蟹鋏が二度ほど開閉し、ついでちょうど首をはさみ込む様な軌道でまっすぐに突き込まれてきた。
 その一撃を上体を沈めて躱すと同時、回避動作で頭の下がったところを狙って今度は左の鈎爪が突き込まれてくる。巨大な鈎爪で頭を握り潰されそうになったところで、アルカードは突き込まれてきた左手をはたく様にして押しのけながら左腕の外側に踏み出した。
 そのまま脇を狙って一撃撃ち込んでやろうと思ったが、02が外側に向かって腕を振り回したので断念せざるを得なかった――湾曲した三本の鈎爪は人間の手の親指とそれ以外の様に機能が明確に分かれているわけではなく、それぞれの鈎爪が正三角形の頂点位置になる様に配置されている。
 人間で言えば掌に相当する部分に丸いレンズ状の器官があるのを確認して――アルカードは咄嗟にその左腕に廻し蹴りを叩き込んだ。
 体の内側から外側へ、薙ぎ払う様に繰り出されて止まりかけた左腕の動きを、再び加速する様にして一撃を叩き込む――レンズ状の器官をまっすぐこちらに向けて動きを止めた腕が蹴られて明後日のほうを向き、次の瞬間照射されたレーザー・ビームが手近にあった調製槽を直撃した。
 調製槽の強化硝子製の隔壁と内部の培養液は、透明度が高いので影響を受けなかった様だが――硬質硝子の『槽』と培養液を透過したレーザーに焼かれて、調製槽の内部で培養液に漬かっていた猿に似た外観のキメラの肉体が瞬時に沸騰する。次の瞬間キメラの肉体から伝導した熱が充填された培養液をまたたく間に沸騰させ、『槽』を内側から爆散させた。
 小さく舌打ちを漏らして、アルカードはそのまま横跳びに何度か跳躍した。その移動を追い駆ける様にして、立て続けに撃ち込まれたレーザー・ビームが背後の構造物を次から次へと焼き払う。
 照射から『槽』の破裂まで約一秒――
 近接格闘戦用の鈎爪と鋏を備えた生体熱線砲バイオブラスターか――出力はたいしたことはないが、代わりに照射時間が比較的長く、連射のタイムラグが短い。
 そして比較的低出力とはいっても、熱線には違い無い。あの砲口周辺の爪で掴まれた状態でレーザーを照射されたら、いかなアルカードとて無傷ではいられない。
 だが、いつまでも02にばかりかかわってもいられない――03の番号をつけられたあの逆棘だらけの甲殻で全身を鎧ったキメラが、羆のごとき体格には見合わぬ俊敏さで突っ込んできたからだ。
 03が突進の勢いを殺さぬまま前のめりに跳躍し、そのままアルマジロの様に体を丸めて回転しながら突っ込んでくる。
 全身の棘でまるで卸し鉄をかけた大根の様に床を削り取りながら――車体からはずれた車輪みたいに突っ込んできた03に、向き直るいとまも無い。
 ――避けられん!
 胸中でつぶやいて、アルカードは左手で保持した三爪刀トライエッジを投げ棄てた――右手で保持していた塵灰滅の剣Asher Dustの柄に左手を添え、突っ込んできた03の体を押しのける様にして曲刀の一撃を叩きつける。
 それで突進の軌道を変えられた03の体が、轟音とともにスーパーコンピューターの筺体を叩き潰し――アルカードも捌ききれずに体勢を崩し、軸足をステップし体をひねり込んで体勢を立て直した。
 ぎゃぁぁぁぁっ!
 最初に攻撃してきた狼に似たキメラが、咆哮とともに横合いから殺到してきた――01の番号をつけられたキメラが長さはさほどではないものの鋭利な鈎爪を、貫手を撃ち込む様な動きで立て続けに突き込んでくる。
 ちっ――
 舌打ちを漏らして、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustの横腹でその攻撃を受け止めた。最後に突き込まれた鈎爪を躱して重心を沈め、そのまま内懐に飛び込んで――胸部と腹部を鎧うクチクラの装甲外殻の隙間から儀式用短剣セレモニアルダガーの鋒を捩じ込もうとしたとき、01はアルカードの頭上を跳び越えて跳躍した。
 同時に――それまで01のいた空間を貫く様にして、無数の逆棘が密生した錘状の瘤が肉薄する。04の通し番号を振られて登録マークされた、あの肩に無数のフィンを備えたキメラの腕だ。腕そのものは自在に伸縮するのか、手首から先をまるで鎖分銅の様に振り回して投擲してきたらしい。
 飛来した瘤を撃墜せんと塵灰滅の剣Asher Dustを振るった瞬間、人間の頭ほどの瘤がいきなり四つに展開した――正確には腕につながる根っこの部分はそのまま、まるで拳を開く様にして四つに展開したのだ。内側に細かな牙の様な突起が密生した四つの顎が、振り下ろした塵灰滅の剣Asher Dustの刃を銜え込む――動きを封じられたその刹那、05の番号マーカーを貼附された最後に姿を見せた一体が高さ三メートルほどのステンレス製の薬液槽をかかえて突っ込んできた。
 おいおい――
 胸中でつぶやいて、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustを消した。
 それまで瘤が銜え込んだ剣を引きつけてこちらの動きを止めていた04が、いきなり拘束対象が無くなって尻餅をつく様に体勢を崩す。
 そちらに追撃をかけたかったが、そんな暇は無い――すでに05はこちらに肉薄している。
 左手の儀式用短剣セレモニアルダガーを牽制を兼ねて投げ放ち、塵灰滅の剣Asher Dustを再構築――
 ふっ――
 鋭く呼気を吐き出しながら、振り向きざまに迎撃の斬撃を繰り出――そうとしたが、体勢が悪かった。それに05の突進が思いのほか速かった、というべきか。急加速した05の吶喊が、アルカードが塵灰滅の剣Asher Dustを振り下ろすよりも速かったのだ。転身動作の最中で重心が高く、さらにそのまま踏み込もうとしていたために片足が床から離れていた――結果塵灰滅の剣Asher Dustを振りかぶりかけた体勢のまま、アルカードは踏ん張ることも出来ずに吹き飛ばされた。
 ことに筋力に関しては05はアルカードを凌ぐらしく、為すすべも無く横殴りに吹き飛ばされ――床の上を滑る様にして吹き飛ばされながら一回転して体勢を立て直し、アルカードは今度は薬液槽を頭上に振り翳して突っ込んできた05に向き直った。
 縦に振り下ろしてきた薬液槽を体を投げ出す様にして躱し、躱し様に足首を薙ぐ――体勢が悪く、また片手での斬撃であったこともあってろくに力がこめられなかったためにその一撃で足首を完全に切断とまではいかない。だがそれでも塵灰滅の剣Asher Dustの刃はくるぶしの部分を鎧うキチン質の分厚い甲殻を砕き、踵側から足首の半ばまで喰い込んだ。
 ギャァァァァァという悲鳴があがり――巨大な調製槽の手前で床の上に墜落した01が、悲痛な悲鳴をあげながら床の上でのたうちまわっている。向こう側の調製槽の筺体上部の角の当たりがべっこりと変形しているのは、先ほどアルカードを跳び越えたあとアルカードが投擲した儀式用短剣セレモニアルダガーが尻に突き刺さって着地をしくじったからだ。
 同時に足首を薙がれた05が体勢を崩し、つんのめる様にして背後にあった調製槽に頭から突っ込んだ。大型のキメラを調整するための直径三メートルもある巨大な調製槽が、薬液槽をかかえた巨体の衝突で敢え無く薙ぎ倒される。
 轟音とともに重量物の衝突でフロアが震撼したものの、よほど強固に造られているのか床が抜けたりはしなかった。
 そのまま体勢を立て直し、周囲に視線を走らせる――スーパーコンピューターの筺体を叩き潰した03が、突進形態を解いてその場で身を起こしている。
 04は先ほど塵灰滅の剣Asher Dustを消したときによろけて体勢を崩し、尻餅を突く様な体勢のまま上体を仰け反らせて絶叫をあげている――05が縦に振り下ろしてきた薬液層を躱しざま、アルカードが片手で投擲した鎧徹アーマーピアッサーが左目に深々と突き刺さっているのだ。04の両腕の攻撃器官はいずれも手としての機能を持っていないので、突き刺さった鎧徹アーマーピアッサーを抜き取ることも出来ない――左目に突き刺さった針の様に細い短剣を摘出することもかなわぬまま、04はゆっくりと立ち上がって殺意に爛々と燃える視線をアルカードに投げた。
 そして03の突進を撃ち払ったときに軌道に巻き込まれた02は、床の上にひっくり返ってはいるものの頑丈なキチン質の外殻が幸いして外傷は負っていない様だ。
 01がぐるぐるとうなり声をあげながら、尻に深々と突き刺さっていた二又の短剣を引き抜いて足元に投げ棄てる――重層視覚に投影された三次元俯瞰視界3Dオーバールッキング・ビュアー全方位視界オムニディレクショナル・アラウンド・ビュアーの視界の中で、05も平然と立ち上がっている。くるぶしの損傷は外殻こそまだ傷がふさがっていないものの筋肉組織はほぼ修復されており、活動に支障は無い様に見えた。
 硬い奴らだ――胸中で毒づいて、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustの柄に左手を添えた。
 04がおもむろに錘状の瘤を備えた右腕の触手を伸ばし――展開した瘤が手近にあったスーパーコンピューターの残骸を銜え込む。
 ボルトで床に固定されていたディスクアレイの残骸を畑の大根みたいに引っこ抜き、04が銜え込んだディスクアレイを頭上でぶんぶん振り回し始めた。
 そしてそれよりも早く――01と05が咆哮とともに床を蹴る。05の両手に装備された黒い鈎爪がジャッと音を立てて伸長し、虫の羽音の様な耳障りな低周波音を発し始める。それはすぐに耳を劈く様な高音域を経たあと、爆発音じみた轟音を発してから聞き取れなくなった。
 否、聞こえないのではない――ただ単にアルカードの可聴範囲を超えただけで、鼓膜が震えているのははっきりとわかる。どうせ聞こえてもうるさいだけなのでいちいち試す気も起きないが、可聴周波数帯を広げれば振動音を聞き取ることが出来るだろう。
 ――高周波ブレードか!
 舌打ちを漏らして、アルカードはそちらに向き直った――同時に視界の端で接近してきている01の肘から生えた刃状の突起が、陽炎に包まれて歪んで見える。こちらはおそらく高熱で攻撃対象を焼き切るのだろう――肘から突起が生えている関係上おそらく斬撃動作では使いにくいだろうが、斬りつけられるよりも刺されたときが怖い。
 ここにいるキメラたちは、かなり完成度が高い。先ほどの05の突進を受けてみたときの感触から推すに、おそらく単純なパワーや敏捷性だけなら、基底状態のアルカードを上回る。
 弱体化した今の状態のアルカードは魔力を励起させても身体能力にはさほど変化が顕れないので、正直少々厄介な相手ではある。
 ここにいる個体と同レベルの能力を持つキメラを吸血鬼をベースにして調製つくれる様になったら、少々では済まないくらい厄介な事態になるだろうが――
 同時に対処することは不可能――そう判断して、アルカードは05に向かって踏み出した。
 コンパクトな挙動で突き出されてきた左腕の鈎爪を叩き落とし、05の顔めがけて反動で跳ね返った塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を突き込む――だがその刺突が右目を貫くよりも早く、05が見た目からは想像も出来ないほど俊敏な挙動で突き込まれた鋒を躱した。
 重心を沈めて鋒の軌道をくぐって躱し、そのまま左側に廻り込んでくる――背中側から引っ掻く様な動きで繰り出された右の鈎爪を無視して、アルカードは前に出た。
 左側に廻り込んで鈎爪で斬りつけてきた05も距離が離れたために突進動作を続けている01も無視して、ディスクアレイをぶんぶん振り回しながら攻撃を仕掛ける隙を窺っていた04へ――
 こちらが当面の目標を自分に定めたことに気づいた04が、それまで振り回していたディスクアレイをこちらに向かってぶん投げてきた。
Wooooaraaaaaaaaaaaaaオォォォォォアラァァァァァァァァァァァッ!」 咆哮とともに繰り出した一撃が、十分な遠心力を乗せられて猛烈な勢いで飛来したディスクアレイを轟音とともに両断する――そのまま一気に間合いを詰めようと加速したとき、04の頭部に生えた金属質の頭角がバチバチと音を立てて雷華を纏った。
「――!」
 放電攻撃か――
04の両肩を中心に、その周囲の空気の組成が急激に変化している。おそらく両肩のコレクターフィンから大気中の酸素を取り込んで体内で精製した水素と反応させることで莫大な電力を生み出す、いわば生体燃料電池とでも言うべきものを備えているのだ。
 それに気づいて小さく舌打ちを漏らし――アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustの柄を握り直した。魔力を注ぎ込まれた魔具が励起して刀身が蒼白い激光を放ち、絶叫とともに電光を纏う。
 絶縁破壊の轟音と閃光とともに、頭角から解き放たれた電光が蛇の様にのたくりながら襲ってくる――同時に解き放った世界斬・散World End-Diffuseが強烈な気圧変化で電撃の軌道を捩じ枉げながら、04に向かって襲いかかった。
 同時に左手で腰周りをまさぐって、ベルト周りにいくつか装備した一部分が欠けた円盤状の装備品を取りはずす。
 金属に似た質感の円盤の切り欠きに近い箇所にあるボタンを押し込むと、円盤の外周から起き上がる様にして刃の基部が飛び出し、そこから六枚のブレードがまっすぐに飛び出した。
 04が押し寄せてくる世界斬・散World End-Diffuseの衝撃波を躱して高々と跳躍し――そしてそこに飛来したブレード・ディスクを躱せずに右足を脛のあたりから切断され、体勢を崩して墜落する。04は跳躍の勢いのまま、本来はそこに着地するつもりであろう巨大な調製槽に角に腹から突っ込んで床の上に転げ落ちた。
 同時に背後で爆発が起こった――世界斬・散World End-Diffuseによる気圧の変動で軌道をそらされた電撃の直撃を受け、大電流を流し込まれた調製槽の筺体かなにかがジュール熱で昇華したのだろう。
 04がズシンという音とともに床の上に墜落し――十分な自重があったために拡散した衝撃波に耐えられたのだろう、その向こう側から02が吶喊してくる。
 ズシンズシンという地響きじみた重い足音とともに突っ込んできた02の吶喊の巻き添えを喰った04の体が撥ね飛ばされて宙を舞い、まだ無事だった調製槽に叩きつけられる。ゆうに数百キロはあろうかという巨体の激突に耐えきれずに調製槽の硝子が砕け散り、培養液とともに内部から転がり出てきたカメレオンに似た外観のキメラが床の上に倒れ込んだ04の上に転げ落ちた。
 再び塵灰滅の剣Asher Dustの刀身が激光を放ち、ばちばちと音を立てて刃の周囲に雷華を纏う。
 アルカードは鋏を突き込む様な動きで攻撃を繰り出してきた02めがけて、世界斬World Endを蓄積した漆黒の曲刀の物撃ちを叩きつけた。
 ちょうどカニで言えば鉗脚に似た構造を持つ鋏の、ちょうど可動指と不動指の股に当たる部分に塵灰滅の剣Asher Dustの刃が喰い込み――同時に目標に接触して解放された世界斬・纏World End-Followの衝撃波が、02の右腕全体を吹き飛ばした。

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