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「――あ」
「やあ、さっきはどうも」 ユーザー車検の窓口の前で長椅子に腰かけていた口髭を蓄えた初老の男性――柚本が片手を挙げる。
「すんなり通りましたか?」
「まあ問題無く」 アルカードはそう答えて、カウンターの箱の中にクリップボードでまとめた書類を放り込んでから柚本の隣に腰を下ろした。
「おじさんは?」
「外観検査で引っ掛かりました、ここに来る途中でナンバー燈が切れてまして―― . . . 本文を読む
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前を走っていたトラックが、赤信号でブレーキをかける。反応が鈍い――余所見でもしていたのだろうか。
信号が変わる前に交差点を抜けようとしていったん加速してから間に合わなかったために急停止に移行し、スピードを殺し切れずに停止線をちょっと越えたところで停車したトラックの荷台で、ガンガンという音が聞こえてくる。タイヤの分子が路面との摩擦で振動する際のスキール音が、それに混じって聞こえ . . . 本文を読む