偏平足

里山の石神・石仏探訪

石仏613高松山(神奈川)第六天

2015年10月12日 | 登山

高松山(たかまつやま) 第六天(だいろくてん)

【データ】高松山 801メートル▼最寄駅 小田原線・新松田駅、JR御殿場線・松田駅▼登山口 神奈川県山北町の尺里集落▼石仏 高松山の東南の峠。地図の赤丸印▼地図は国土地理院ホームページより



 【案内】平成24年8月、高松山の尺里峠に他化自在天(第六天)の供養塔が立てられた。虫沢古道を守る会によって立てられたもので、虫沢は峠の北にある集落。この峠は虫沢と峠の南にある山北を結ぶ生活の道だった。他化自在天の台座は、かつて虫沢で立てた古い石塔のものを利用したもので、そこには「左ハ向原道 中ハ尺リ道 右は山道」とある。向原は峠下の集落、尺リはその先の尺里集落。虫沢古道を守る会はこの峠道を中心に高松山や松田山一帯の古道を整備している。

 ところで尺里峠は第六天とも呼ばれたところで、第六天は他化自在天の別称でもある。一般には第六天として祀られてきた仏である。かつては招福の神として、関東を中心に多くの小祠が勧請され祀られてきたという第六天の信仰は、いまはいくつかの神社があるものの、ほとんど聞くことがなく石造物も見ることがなくなった。
 他化自在天(第六天)は三界(欲界・色界・無色界)の欲界におり、欲界(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天)のなかの天部に属している。この天部(四大王衆天・刀利天・夜摩天・兜率天・化楽天・他化自在天)のなかの最高位である第六番目にあたるので〝第六天〟とされた。仏道の妨げをなす邪神・魔王とされたのは「眷属を率いて人の善心を害して世を乱す」ため。日蓮が「法難を蒙るのは、第六天の魔王の仕業であると糾弾した」との説もある。この邪神・魔王の力を逆に取って招福神、守護神として祀ったのが第六天信仰とされている。
 かつてはこの尺里峠にも第六天が祀られていたことから、供養塔の造立となったのであろう。「奉勧請」とあるから、新たに勧請したのであろうか。第六天の脇に立つのは馬頭観音。高松山山麓に立てられた12体のうちの一つ。これらの馬頭は高松山の道祖神で案内した。峠から高松山へは、虫沢古道を守る会によって整備された歩き良い道が続いている。



【独り言】山倉の観福寺 第六天の本山は、千葉県香取市山田町山倉にある真言宗の観福寺とされています。かつては近くに建つ山倉神社の別当・観福寺で、山倉の第六天様と呼ばれて繁栄し、関東各地に勧請されたとされています。そのため、第六天は関東だけに広まった信仰たあったことがわかっています。しかし明治の神仏分離でそれぞれに分かれ、第六天は観福寺に引き取られました。山田町史(注)の観福寺沿革には「弘仁二年(811)天台宗の宗祖円頓〔原文のママ〕和尚此地に来たり、除疫斉民の為に第六天尊を勧請」とあります。観福寺では、真言宗弘法大師空海がこの地にきたときに第六天を勧請したとしています。いずれも昔のことですから、詳細はわかりません。観福寺では秘仏・第六天御影の掛け軸も出しています。それは剣を右手にかかげて馬に乗る姿。江戸時代の仏像図版集『佛像圖彙』にある他化自在天は三叉鉾を持つ立像。また胎蔵界曼荼羅の外金剛部院には、弓と矢を持つ女神の他化自在天の坐像が描かれています。写真上は観福寺境内、下は本堂扁額。


 思うに、他化自在天のように曼荼羅の外側に描かれた仏はヒンズーの神で、単独で信仰されることは稀で像容も知られることがなかった。それに本山とされたこの山倉の第六天は秘仏だし、昔から第六天の姿を知る人がいなかったのではないでしょうか。したがって勧請した先でも像をつくることはできず、木祠にしても石塔や石祠には「第六天」と刻むしかなかったのではと推測してみました。その木祠も石造物も明治の神仏分離では諸神と合祀されたり、神道系の神名に代わって祀られて、すっかり影をひそめてしまったようです。神名にするにあたり、日本神話の神世七代の六番目の神・面足尊(おもだるのみこと)とする神社が多いということも、すでに指摘されているところです。写真上は観福寺境内の大六天、下はご朱印。
 最後に観福寺の住職に聞いた話では、日蓮宗の法華曼荼羅に第六天が入っている、というのでした。確認しましたら髭題目の右側に「第六天魔王」とありました。第六天を糾弾した日蓮ですが、後に日蓮宗の護法神となったようです。さすがに魔王、奥が深い第六天でした。

 (注)『山田町史』昭和61年、山田町史編さん委員会。山倉神社は明治の神仏分離で山倉大神と改められ、鮭の護符=写真上=を頒布している。


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