【季刊・海外社会保障研究】
国立社会保障・人口問題研究所編集の『海外社会保障研究』No.171 SUMMER2010
が刊行された。(写真は、表紙)
本書は市販されていないが、同研究所のHPに目次がアップされている。
*3ヵ月後には、全文を無料で読むことができます。(No.170まではリンク済み。)
No.171
本号では、アメリカの社会保障に関する最新の分析が特集されています。
ただし、編集をしている国立社会保障・人口問題研究所には、ソーシャルワーク・社会福祉政策の専門家がいないこともあり、この分野の論文は組まれていない。
特集の趣旨で、藤田伍一(東京福祉大学教授)が、言及しているように、アメリカに関する社会保障の総合的な文献としては、藤田が編集した
先進諸国の社会保障 東京大学出版会 1999年
以来のまとまったものであり、注目されます。
*蛇足ですが、このシリーズ「ドイツ」編の編集は私です。
【アメリカと日本】
日本は、外交・防衛をはじめ、経済・文化・野球といった各方面でアメリカとは強い関連があります。ソーシャルワークの分野でも、アメリカの圧倒的な影響下にあって、社会福祉士の国家試験などでは、例年、アメリカのソーシャルワークの学説史が出題されます。
社会保障制度や社会福祉サービスに関して言えば、アメリカは先進国でも独自の「小さい国家」として知られていて、日本社会にモデルとして参照できる側面は少なかった。
私は、20年以上も前の話ですが、アメリカの市民や学生、研究者を対象にした講演をする機会を与えられるなどの経験から、アメリカの社会保障・社会福祉に関心を寄せてきました。
1987年 セントルイスのワシントン大学でのシンポジスト
1990年 ニューヨークのマウントサイナイ大学(医学部)での講演
1993年 ミシガン・アナーバーのミシガン大学での講演
今回の特集は、アメリカの社会保障の最新映像を展望していて、「いかに、日本とアメリカは違うのか」がよくわかります。
【小さな政府という構造】
巻頭論文「21世紀のアメリカ社会保障」pp.4-15は、
第1節 アメリカ・モデルの論理(渋谷博史・東京大学)
第2節 アメリカ福祉国家の全体構造:分権的な「小さな政府」(中浜 隆・小樽商科大学)
第3節 医療保険の州規制:民間活用と分権性(櫻井 潤・北海道医療大学)
の構成です。
このうち、第1節の分析を踏まえた第2節の冒頭部分(2-1 アメリカ福祉国家の規模とその構成)を箇条書きにまとめておきます。
1 雇用主提供年金と雇用主提供医療保険が主軸をなしている。GDP比8.9%
2 各種の税制優遇措置 GDP比で、1.5%
3 社会保険は、社会保障年金とメディケアで、GDP比7.1%
4 租税資金で行われる公的扶助 GDP比 4.1%(高い) 運営は州政府
5 以上の合計は、GDPの20.8%(2006年実績値)で、ヨーロッパの諸国に比べてきわめて低い。
別の形で、アメリカの社会保障をまとめると、
・ 経済規模からいって社会保障支出はきわめて少ない
・ 制度の基本は企業が提供するもの(年金・医療)
・ 福祉サービスの実施は、州政府
このようなアメリカの社会保障の全体像を知れば、ソーシャルワークが発展した国だからといって、アメリカの理論と技術をそのまま日本に応用することには大いに慎重であってよいと思われます。
国立社会保障・人口問題研究所編集の『海外社会保障研究』No.171 SUMMER2010
が刊行された。(写真は、表紙)
本書は市販されていないが、同研究所のHPに目次がアップされている。
*3ヵ月後には、全文を無料で読むことができます。(No.170まではリンク済み。)
No.171
本号では、アメリカの社会保障に関する最新の分析が特集されています。
ただし、編集をしている国立社会保障・人口問題研究所には、ソーシャルワーク・社会福祉政策の専門家がいないこともあり、この分野の論文は組まれていない。
特集の趣旨で、藤田伍一(東京福祉大学教授)が、言及しているように、アメリカに関する社会保障の総合的な文献としては、藤田が編集した
先進諸国の社会保障 東京大学出版会 1999年
以来のまとまったものであり、注目されます。
*蛇足ですが、このシリーズ「ドイツ」編の編集は私です。
【アメリカと日本】
日本は、外交・防衛をはじめ、経済・文化・野球といった各方面でアメリカとは強い関連があります。ソーシャルワークの分野でも、アメリカの圧倒的な影響下にあって、社会福祉士の国家試験などでは、例年、アメリカのソーシャルワークの学説史が出題されます。
社会保障制度や社会福祉サービスに関して言えば、アメリカは先進国でも独自の「小さい国家」として知られていて、日本社会にモデルとして参照できる側面は少なかった。
私は、20年以上も前の話ですが、アメリカの市民や学生、研究者を対象にした講演をする機会を与えられるなどの経験から、アメリカの社会保障・社会福祉に関心を寄せてきました。
1987年 セントルイスのワシントン大学でのシンポジスト
1990年 ニューヨークのマウントサイナイ大学(医学部)での講演
1993年 ミシガン・アナーバーのミシガン大学での講演
今回の特集は、アメリカの社会保障の最新映像を展望していて、「いかに、日本とアメリカは違うのか」がよくわかります。
【小さな政府という構造】
巻頭論文「21世紀のアメリカ社会保障」pp.4-15は、
第1節 アメリカ・モデルの論理(渋谷博史・東京大学)
第2節 アメリカ福祉国家の全体構造:分権的な「小さな政府」(中浜 隆・小樽商科大学)
第3節 医療保険の州規制:民間活用と分権性(櫻井 潤・北海道医療大学)
の構成です。
このうち、第1節の分析を踏まえた第2節の冒頭部分(2-1 アメリカ福祉国家の規模とその構成)を箇条書きにまとめておきます。
1 雇用主提供年金と雇用主提供医療保険が主軸をなしている。GDP比8.9%
2 各種の税制優遇措置 GDP比で、1.5%
3 社会保険は、社会保障年金とメディケアで、GDP比7.1%
4 租税資金で行われる公的扶助 GDP比 4.1%(高い) 運営は州政府
5 以上の合計は、GDPの20.8%(2006年実績値)で、ヨーロッパの諸国に比べてきわめて低い。
別の形で、アメリカの社会保障をまとめると、
・ 経済規模からいって社会保障支出はきわめて少ない
・ 制度の基本は企業が提供するもの(年金・医療)
・ 福祉サービスの実施は、州政府
このようなアメリカの社会保障の全体像を知れば、ソーシャルワークが発展した国だからといって、アメリカの理論と技術をそのまま日本に応用することには大いに慎重であってよいと思われます。