「今の会話、聞いていたな」
何もない空間に私は話しかけた。
「今夜のうちに片を付ける」
さらに私は、姿の見えない誰かに声を掛けた。
師匠ではない、別の誰かに。
「最近の一連の子供殺しを全て洗え」
部下に対するような口調で、私は命令を発する。
信頼できる絶対的な部下とでもいえる存在。
「目星がついたら知らせろ」
ひとこと伝えるごとに、これまでの絆を思い出す。
どれだけ修羅場を共にくぐってきたことか。
「公開処刑にしよう、人目の多い所がいい」
処刑・・・響きがあまり優しくない。
しかし適当な言葉がほかに見あたらない。
「私はこれから車で新宿にいく。そこで殺ろう」
夜の新宿。車で訪れる夜の新宿。
いい忘れていた。
私は東京に住んでいる。一人暮らし。
近辺には、家族も親戚も友人も知人もいない。
私はいつもひとりだ。
夜の東京で私は、人目につかないように、
こっそりと単独行動を取っている。
夜の闇に溶け込むように、暗い深海を潜航するように、
誰ともつるまずに夜の時間を歩いている。
そうなのだ。
私は生身の人間とは誰ともつるまない。
「標的を捕捉したら知らせろ」
私は念を押した。
「もう捕捉してます」
私が話しかけていた相手である、私の「カゲ」が、
姿を見せないまま脳内に届く声で答えた。
私の部下であり相棒であり守護役である、
私の「カゲ」が。