ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Kellie Pickler ケリー・ピックラー - 100 Proof

2012-05-01 | カントリー(女性)
 どうしても”アメリカン・アイドル・シーズン5で6位になり・・・”という枕詞がつきまとう、カントリー・フィールドのアイドル的存在、ケリー・ピックラー。そんな彼女が自身の真のルーツである、トラディショナル・カントリー・スタイルに真正面から取り組んだ、2011年のサード・アルバムです。ケリーのこのスタイルへの強い愛情と、プロデューサーであるFrank Liddell(ミランダ・ランバートなど担当、リー・アン・ウォマックの旦那)とLuke Wootenの誠意あるサポートのおかげで、なかなかアーティスティックで聴き応えのある作品になっています。オープニングからアーシーな曲想で、トワンギーなカントリー・ギターが鳴り響いて、タイトルの"Where's Tammy Wynette"は見せかけだけではありません。前作「Kellie Pickler」からヒットしたポップなテイラー・スウィフトとの共作曲"Best Day of Your Life"から、フィドルがむせび泣く本作のリードシングル"Tough"の変化を見ても、それは明白です。ココではそんな音楽的変貌の理由を、ケリー自身の言葉を頼りに見ていきましょう。

 ”私は間違った世代に生まれてしまったの。ツイッターや携帯電話のない世代に生まれてこれたらよかったのに。ライマン公会堂に行って、そこで歌ってから裏口からホンキー・トンク・バーに行ってた、あの時代にね。確かに今でもできるけれど、翌日にYOUTUBEにアップされたりするから、やはり今の現実から逃れる事はできないのよね”彼女はCMAのボブ・ドーズチャック氏に語っています。”私の以前のレコーディングからは、私がカントリー・ミュージックを愛するようになった一番の理由が、キティ・ウェルズKitty Wellsやタミー・ワイネット、ロレッタ(・リン)やドリー(・パートン)の音楽にある事が、誰にも分からないわ。今の音楽は私が聴いていたものとは違ってしまった。カントリー・ミュージックに対する皆の定義も違うわ。でも、この新作でそんな本当のカントリー・サウンドを実現できて、とてもエキサイトしているのよ””皆に私の事を一人のアーティストとして見てほしいのよ。アメリカン・アイドルのステレオ・タイプから逃れるのはチョッと難しいことだけれどもね”


 2005年のアメリカン・アイドルでファイナル6を獲得した当時、彼女の人気の立ち上がりが急激だったことから、デビュー・アルバム「Small Town Girl」のレコーディング作業も性急なものだったよう。なんと、ロード・ツアーの最中に、ナッシュビルでスタッフにより制作されたバッキング・トラックがツアー先に送付され、それにボーカルを入れて完成させたのです。そのアルバムはケリーのスターダムを確立しはしましたが、決して彼女の音楽的な嗜好にはマッチしていなかった。”"Red High Heels"や"I Wonder"らの曲が私にとって楽しくない、なんてとても言えなかったわ””でもこのニュー・アルバムでは、ただスタジオに行ってプレイして、楽しめた。どの楽器のプラグを何処に入れるかとか、機材のそれぞれのボタンの意味も理解できたわ。私は、’アメリカン・アイドル、ケリー・ピックラー’である為に、成長の過程をスキップしていたの。だから今いる地点までたどりつくのに、ゆっくりと回り道をして時間がかかったのよ”

 プロデューサーのFrank Liddellは、ケリーのアーティスティックな面を引き出す為に、様々な工夫をしました。彼女自身の思いを表現した新曲を自分で書くように促した事もそのひとつ。Frankは言います”ケリーは’私はたいしたライターじゃないから’と言うかも知れない””でも僕はそれには賛成しない。彼女は自分がライターである事を学び、他の人だったら最初からやるように、自分のキャリアを開拓するんだよ”また、レコーディングの雰囲気作りにも趣向を凝らしました。スタジオにキャンドルのサークルを作り、その中でケリーやミュージシャン達が一緒にプレイしたのです。今回使用したのは歴史的な「RCAスタジオA」。Luke Wootenによると”このスタジオは一人ひとりを仕切る壁がなくて、ケリーはドラムの25フィート前にいたんだ。僕はこんなやり方をした事はなかったけど、Frankのアイデアさ”ケリーもこのレコーディングについて回想しています。”私達は大きな部屋の大きなサークルの中にいたわ。そしてプレイする前に皆に言ったの。’さあみんな、目を閉じて。そして皆に考えて欲しいの。これが演奏する最後の場所だとしたら、それはどこ?そこはオープリーかしら?ライマン?貴方たちの故郷のバーかな?それとも貴方たちのおばあさんちの裏庭?何処だったとしても、目を閉じて皆でその場所に行ってプレイしましょう”このエピソードから、本アルバムがカントリー・ミュージックらしい温かさと手作り感に溢れている理由がよくわかります。


 アップテンポ・ナンバーでは、冒頭触れた"Tough"や"Where's Tammy Wynette"を始め、自身も共作した"Unlock That Honky Tonk"も強力なトラディショナル・チューン。バンジョーが緊迫感を煽りたてるホンキー・トンク賛歌で、ケリーの歌声も実にエモーショナル。オーソドックスなシャッフルのミディアム"Stop Cheatin' On Me"は、彼女の可憐なカントリー・ボイスがコーラスではクロース・ハーモニーと混ざり合って、30年前のクラシックなカントリー・ソングのようです。旦那のKyle Jacobsと一緒にペンをとった"Mother’s Day"は、母との張り詰めた人間関係から来る苦しみと、いつかは健全な母子関係を持ちたいと望むケリーの偽らざる気持ちが歌われています。一方、"The Letter (To Daddy)"は、父が絶望の淵から困難を伴って立ち直った様を歌ったもの。この個人的で微妙なテーマを歌った2曲は、アコースティック・ギターによるミニマムな弾き語りスタイル。何よりケリーのパーソナルな心情がフォーカスされており、アーティスト、ケリー・ピックラーをアピールしています。

 私は3年前の「Kellie Pickler」のレビューで、ケリーがアメリカン・アイドルという表向きのイメージはあるものの、とてもトラディショナルな存在感を感じる、と書きました。今回はそれをケリー自身が明確に表現してくれたと言えるでしょう。けして大物感はないのだけれど、彼女持ち前のトラディショナルなカントリー・ボイスを自然に形で生かした、とても良心的なアルバムだと思います。

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