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がんばれ! 理論社

2010-10-24 18:09:22 | インポート

 児童書版元の理論社が10月6日、会社更生法を申請した。

 このブログのタイトルは「出版ちょっといい話」だから、暗い業界裏話は扱わないことにしている。そのせいで、最近更新が滞りがちになっている。いい話のネタが少ないから(と言い訳する)。

 ぼくは出版業界に身を置いて30年になるが、入社当時でも「出版業界は不況だ」という声があった。一方で「不況に強い出版」ともいわれた。たしかに日本語という枠組みの中、業界全体がガラパゴス的環境にあるので、円高とかに一喜一憂することはない。それでも客観的に見て、前半15年は好況、後半15年は不況、と大別できると思う。これは日本全体にいえることだろうけれど。

 理論社といえば灰谷健次郎を見いだし、最近では「よりみちパンセ」シリーズなどヤングアダルトの読み物中心に良書を出版してきた。堅実というイメージで、だから「何故?」という思いが強いのだが、経営不安説は数年前からあったらしい。ただ、なんとか持ちこたえるのではないかとも思われていたようだし、実際、6日の更正法申請は、当事者であるはずの社員にとっても突然のものだったと聞いた。

 最近の同じ例でいえば、草思社が似たような感じだった。単行本をコンスタントに発行し、ヒットもそこそこ出ていたのに、維持できなかった。出版はたとえベストセラーを出しても、最後の重版で刷り過ぎれば過重在庫になり、それまでの稼ぎなど吹き飛んでしまう。商品寿命が短くなっていることも、経営者にとっては逆風だ。雑誌がダメ、書籍も草思社、理論社クラスでダメとなると、つくづく難しい時代になったと思う。

 でも、業界紙によると、書店で「がんばれ理論社フェア」を実施しているところも出てきているという。あれだけの優良コンテンツをもっているから、かならずや再建のスポンサーは見つかるだろう。それまで管財人の管理下で新刊は出せないけれど、がんばって!

 応援しますよ。

 


ニーチェの苦笑

2010-10-09 20:22:42 | 出版業界

 ディスカバー21発行の「超訳ニーチェの言葉」が売れているというので、遅ればせながら購入して読んでみた。この本、取次店を通さない書店と出版社の直接取引で、そのせいかカバーにも表紙にもバーコードや定価が表示されていない。たぶん帯に印刷されていたのだろうが、ぼくは買うと帯は捨ててしまうので、確認できないけれど。

 ニーチェを超訳するという試みはこの本がはじめてではなく、2005年には講談社α新書から「現代語訳『アンチクリスト』、キリスト教は邪教です!」が出ていて、地味ながらロングで売れている。

 さて、「超訳ニーチェの言葉」の感想だが……換骨奪胎、という四字熟語が頭に浮かんだ。超訳した文章を、さらに1頁数行にまとめているのだから、限りなく読みやすいが、うーむ……。

 それを自覚してか、「本を読んでも」という項目では、まさに的を射た文章が載っていた。ちょっと長いが引用してみよう。

「本を読んだとしても、最悪の読者にだけはならないように。最悪の読者とは、略奪をくり返す兵士のような連中のことだ。

 つまり彼らは、何かめぼしいものはないかと探す泥棒の眼で本のあちらこちらを適当に読み散らし、やがて本の中から自分につごうのいいもの、今の自分に使えるようなもの、役に立つ道具になりそうなものだけを取り出して盗むのだ。

 そして、彼らが盗んだもののみ(彼らがなんとか理解できるものだけ)を、あたかもその本の中身のすべてであるというように大声で言ってはばからない。そのせいで、その本を結局はまったく別物のようにしてしまうばかりか、さらにはその本の全体と著者を汚してしまうのだ。」

 なんだ、わかっているじゃないか、と草葉の陰でニーチェさんが苦笑いしていそうだ。もちろん、売れている本には学ぶべき要素がたくさんある。人も本も、売れるというのはひとつの才能なのだから。