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先日、福島県只見の村落に、古本を車に積んで持って行った。友人が5箱、ぼくが2箱、休日の高速1000円サービスを利用して、遠路片道350キロほどかけて。ここでは、十年ほど前から古本と森を交換するという村おこしの事業をしており、ドライブがてら試しに行ってみようということになったのだ。
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3週間ほどして、評価額と、それを6坪の森林と交換するという証明書みたいなものが送られてきた。山の奥の6坪だから、それで利益を得るとかは一切ない。ただ、あの山の一部が自分のものだと思えばそれだけで気持ちいい。友人はぼくの倍ほどの森林地主になって、秋には自分の土地を見に行きたいねなどと言っていた。
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この只見というところは、村おこしをするくらいだから、森林以外何もない(只見の方々、失礼)。主産業は林業なのだろうと想像された。
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三浦しをんの最新小説「神去なあなあ日常」(徳間書店)は、この林業を舞台にした青春小説。フリーター志望だった主人公の勇気は、親と教師の陰謀で高校卒業と同時に、近畿の山奥の神去(かむさり)村に林業見習いとして放り込まれる。彼が一年を振り返るという形で、著者独特のユーモアあふれるタッチで、一人の少年の成長譚が語られていく。
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「なあなあ」とは神去地方の方言で「まあ、のんびりとやりましょ」くらいの意味だと説明されている。林業は50年、100年単位で木を植え、育て、伐採していく職業だ。現代の都会人のように、目先のことに一喜一憂していてはつとまらない。大自然とあるときは融合し、あるときは闘う、そんな世界はぼくにとっても読んでいて新鮮だった。
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ぼくは三浦しをんの、直木賞作家とは思えない腐女子風エッセイのファンなのだが、この小説も肩の力がほどよく抜けていて、爽やかな読後感が残った。
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さて、暑い夏、なあなあでいくとしますか。
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